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出会いました

が、頑張ります(震え声)

「私はこの世界の全てを目にしたい」


 その少女は泥だらけになりながらそう言った。

 注意深く見れば体中に傷がついている。

 どこを見ても傷だらけのその体があるいはその少女を引き立たせたのかもしれない。

 その目は、その声は、どこまでも頑強だ。


「その後、私はあの人たちに言ってやるんだ」


 強い意志を確かに持って、少女は言葉を発する。ここにはいない誰かに向けて。


「私は、あなた達よりも多くの景色を知っている。私は、あなた達よりも多くの事を知っている。あなた達が私を蔑み、卑しんでいる間に私はあなた達よりもずっと多くの事を知って来た、ってね」


 それは子供らしい無力な言葉だったのかもしれない。無意味な戯言だったかもしれない。

 それでもその願いは何よりも少女によって大切なものだった。

 それが少女にとっての生きがいだった。それだけがその少女を生かしていた。


「ねえ、あなたの夢は何?」


 その少女は少年へと問いかけた。

 少年は少し悩んで答えた。


「僕は――」


 その言葉に少女は微笑んで、こちらを見た。

 どうしてか少年にはそれが悲しんでいるように見えた。


 + + +


 木々の間から光が零れる。

 そんな光が俺の顔に当たる。


「うーん」


 背筋を伸ばして眠気を発散させる。この感覚が微妙に気持ちいい。


「それにしても」


 随分と懐かしい夢を見たものだ。もうあの頃の夢を見ることはなくなっていたというのに。だが、前ほど感情はこみあげてこない。その分だけ俺からあの頃のことが薄れていったのだろう。

 あれから日が経ち過ぎたのだからそんなものなのかもしれない。思い出というのは総じて薄れていくものだ。例え、それがどれだけ大事なものであったとしても。

 でも、だからこそ悲しくなってくる。あの頃の気持ちはずっと覚えていたいと願っていたのだから。

 そんな感情をいつか自分が忘れていくのかもしれない。


 おっと、思考がいけない方に飛んで行った。

 久しぶりにあの夢を見たからナイーブになってしまった。


「気紛らわしにエイレスでも呼ぶか」


 そこらの木にもたれかけ片手で召喚陣を描く。

 もう慣れたもので5秒とかからない。

 そして軽くそれを叩く。すると、その陣から淡い光が発され一つの影が出現した。


「おはよう、エイレス」

「きゅー」


 尻尾をバタバタと騒がし気に揺らした。

 ただでさえ大きな尻尾がせわしく動いているのを見ると、いつもそんな動きを無理やり止めてしまいたくなる。それをしたらエイレスが不機嫌になるのでやらないが。


「触るぞ」

「うきゅ」


 同意は貰った。腰を下ろしてその背中を撫でる。


「ふきゅー」


 気持ちよさそうに目を細めて、空気を吐き出したような鳴き声を上げる

 その様子を見て、今度は首筋を軽く撫でる。そしてもう一つの手で尻尾を揉む。

 やはり、エイレスは気持ちよさそうに身を捩る。

 もう、エイレスがどこをどう触れば気持ちいいのかをこれまでの経験から分かっている。エイレスの事ならエイレスよりも知っていると自負している。


 それにしてもエイレスを触っていると安心する。

 白い毛が柔らかで、手触りが随分といい。きっと一番は温もりがあるからだろう。


「お前が居てくれて良かったよ」

「うきゅ?」


 不思議そうに首を傾げて、エイレスがこちらを見る。

 そんな様子が面白くてつい笑ってしまった。

 エイレスはそれでも首を傾げたが、今度はそれを気にする暇がなかった。


「なんだ?」


 どこからか轟音が聞こえた。多分そう遠くもないだろう。おそらく何もしなくてもこちらに被害がないとは思うが、気になる。


「確認ぐらいはしてみるか」


 放っておいたらろくなことが起こらない。今までの経験からそれが嫌というほど理解できた。

 エイレスをひょいっと肩に乗せて音のした方向に走る。


「さて、何が起こっているのやら」


 そう呟いて、エイレスに軽く触れた。






「ああ、面倒臭い!」

「叫ばないでください。体力を無駄に使いますよ」

「どうせ、セシリアの聖魔法で回復できるでしょう」

「それをしたら私の魔力がなくなるでしょう!」

「今、戦闘中ってこと分かってる?」


 茶色の髪をした女と金色の髪の女が言い合い、それを一人の男が制した。

 もう一人黙々と体を動かしている幼女がちらちらと一人の男に視線を送っている。

 戦闘をしているはずなのにこいつらふざけているのだろうか?


 こいつらが相手をしているのは殻を身にまとった蜂だった。

 単体では楽な相手だがこいつらは集まって行動する。一体一体が小さく無駄に素早い。

 だから、戦うには骨が折れる相手なのだ。

 事実、倒してはまた出現している。


 まあ、助けてやるか。


「コル」


 あらかじめ書いておいた召喚陣に手を置いて名前を呼ぶ。

 コルは紫の光を放つ蛍だ。


「行ってこい」


 コルはそれに従い、蜂に向かって飛んでいく。

 あの蜂のように飛ぶときに音はならない。

 コルがあの集団の前に着いた。


「何?」

「お前ら目は瞑っとけ」

「は?」


 いきなり現れたコルに若干戸惑ったような声を上げた茶色の女はいきなり現れた俺の言葉にさらに驚いた声を出した。

 コルは強い紫の光を発した。


「あっ!」

「なんだ、目が!」

「だから目を瞑っとけって言ったのに」


 コルの強い光に目がくらんだのか金髪の男と茶髪の女が目を抑えて、蹲った。金髪の女と無口な幼女は大丈夫だったらしいが。

 しかし注意をしたというのに。


 コルへの魔力の供給を止めて、コルを返す。

 もう、あの蜂たちは十分に散っている。


「いきなり現れていきなり何なのよ、あんた!」


 未だに目を抑えながら俺に向かって茶色の女が抗議してきた。

 何とも不愉快なことだ。


「おいおい、せっかく助けてやったんだから礼の一つも寄こさないのか」

「はあ、助けた?」

「周り見てみろよ」

「見えるわけがないでしょ!あんたのせいで目が見えないんだから」


 いちいちとうるさい女だ。

 俺が何か悪さでもしたのだろうか。


「蜂の羽音が聞こえないだろ」

「羽音?……本当だ」


 目が見えないらしいので耳で判断させた。

 きょろきょろと見えもしないのに首を動かしている。


「だから俺に礼を言え」

「あんたそれを堂々と要求するってどうなのよ?」


 呆れたような声でそう言われた。

 しかし助けたら見返りを求めるのが普通だろう。

 それが礼を言うだけなのだから何をためらう理由があるのやら。


「助かった、礼を言う」


 金髪の男がまだ目を抑えてこちらの前に出て、そう言った。そう、それでいい。流石に何も礼を言われないというのは割に合わない。

 見てみると彫りの深い美形だ。さぞもてることだろう。

 他の女たちも見てみると総じて顔が良い。

 先程の戦闘を見ている限り力量もかなりありそうだ。


「いや、これ以上大きな力使われてこの森を壊されたらたまらないからな」


 この近くの多くの木々がほとんど倒れている。

 おそらく、あの蜂を撃退するために何か威力の高い魔法でも使ったのだろう。

 もし、必要以上に長引いたらさらに大きな技でも使ったかもしれない。ほとんどないだろうが、もしかしたらという可能性もある。それを出来る力もこいつらにはあるだろう。


「それよりもなんでアーマービーが人を襲ったんだ?」


 アーマービーとは先程の蜂だ。

 あいつらは基本的に人を襲わない。

 誰かを襲うのは安全を害された時だが、


「お前ら、もしかしてあいつらの巣に何かしたか?」

「あれの巣?いや、見てもいない。いきなり襲ってきた。なあ、みんな?」

「ええ、そうです。少し休憩している間に」

「するわけないじゃない」

「……うん。いきなりだった」


 じゃあ、どういうことだ?

 巣に何もされていないとすれば蜂に何かしたということになるが。

 おそらくこの様子だと蜂にも何もしていないだろう。


「きゅ?」


 色々と考えているとエイレスが俺の肩から腕を伝ってするすると離れた。

 そして、あの金髪の男の足元に着地し、その匂いを嗅いだ。


「ふきゅふきゅ!」

「どうした、エイレス。何か匂いでもしたか」

「うきゅ!」


 そうだと言わんばかりにそんな鳴き声をあげた。

 ふむ、匂いね。蜂が寄って来たのはそれが原因か。


「よし、お前ら川に行くぞ」

「川?なんで、川に行くんだ」

「匂いを落とすためだよ」

「うん?」

「だーかーら、お前らの匂いが蜂を寄せてんだよ。お前ら、どこかで花の蜜みたいなの体に浴びたろ」

「ああ、そういうことね」


 こいつらは、どこかで体に花の蜜やらなんやらでも体に浴びてきたのだろう。

 だから、あの蜂はこいつらに向かって飛んできたということだろう。なぜ、体に花の蜜を浴びる状況になったのかなんて知らないが。


「でも、一度念入りに洗ったけど」

「お前が念入りに洗ったのは体だろ。でも、服は軽くしか洗ってないだろ」

「ああ、確かに服は軽く洗ってヒートですぐに乾かしたな」


 ヒートは服なんかを乾燥させる魔法だが水で洗い汚れの方は落としても、すぐに乾かしてしまえば匂いは服に残る。


「しかもお前らが浴びたのはカシルの花の蜜だろ。それはあの蜂の大好物だからな。最近妙にその花が無くなっているからお前らの微量の匂いでも飛んできたんだろう」


 こいつらは蜂から見たらとても甘い匂いを醸し出す奴らだろう。

 そのままだったら、ずっと追いかけまわされるだろう。


「助けてもらうだけじゃなく、そんなことまで教えてもらって本当に助かるよ。名前は?」


 金髪の男はこちらを見て、俺の名前を聞いてきた。

 名前を名乗るのはどうも苦手だ。しかし、名乗らないのもあれだろう。


「……キースだ」

「キースか。ああ、僕も名乗らないと失礼だね。僕はクレイだ」


 クレイは自分の名前を言い、柔和に笑った。

 そして手をこちらに差し出してきた。

 その手を俺は握った。

どうなりますかね?(涙)

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