4. ほんとうの困ったさんはだれ?
男の子がお城に飛び込んできました。両手を体にまきつけて、くちびるはむらさき色、お耳もお鼻もまっかっかです。
かわいそうに思ったお城の兵隊さんは、暖炉の前につれていくと、あたたかい毛布をかしてあげました。
しばらく、かたかた震えていると王様がやって来ました。
王様は男の子の体が、ぽかぽかになるとお話を聞きました。男の子は、無事におイモをとどけたことを伝えます。
「ふむふむ、お見事よくやった。それでは王冠あげましょう」
王様が王冠に手をのばすと、男の子は首を横にふるのです。
「王様、ぼく王冠はいりません。コートがないとお外に出られないから、毛皮のコートをください」
これを聞いた王様は困った顔で、ふむふむ、ふむふむ、となにかを考えています。
「ふむふむ、そうだこうしよう。君には冬の女王様を、塔からつれてきてもらおう。そしたら王冠あげましょう」
おやおや、なんだかおかしな感じです。男の子はどうしても王冠がほしいわけではないのに、王様は王冠をプレゼントしてくれるみたいなのです。
男の子が考えているあいだに、大臣が毛皮のコートをもってきました。やわらかくて、あたたかいコートを受けとった男の子は大喜びで、すっかり考えていたことを忘れてしまいました。
「ふむふむ、さあさあ行っといで」
王様に背中をおされた男の子は、もう一度冬の女王様に会いにいくのでした。
コートも手袋も帽子もあたらしくなった男の子は、うきうきで森を歩いていきます。森の奥の大きな塔では、冬の女王様がまっていました。
どうやら無事に春の女王様と、かわりばんこができたようでした。
「あら、さっきの男の子ね。おつかいは、まだつづいているの?」
男の子は元気な声でうなずきます。すると冬の女王様は、くすりと笑って言いました。
「まったく、王様もたいへんね。国の人たちは、わかっていたのかしら」
冬の女王様の言葉の意味はわかりません。だから男の子はこう聞きます。
「王様ってたいへんなの?」
冬の女王様は、くすりと笑っただけで、答えてはくれませんでした。
「さあ、王様がまっていますよ。いっしょにお城にいきましょう」
冬の女王様は男の子の手をとって歩き始めました。
しばらく歩いていると、男の子のお腹がぐーっと鳴ります。
「お腹へっちゃった」
「もう少しでお城につくから、がんばって」
冬の女王様に応援で元気が出た男の子は、がんばってお城まで歩きます。
がんばって歩いた男の子が、お城につくとすぐに王様がとびだしてきました。
「ふむふむ、まってた男の子。無事に冬の女王様と、帰ってきたね。ありがとう」
王様はにこにこ笑ってお出迎えをしてくれましたが、男の子のお腹はペコペコです。
でも王様はその事には気がつかないで、王冠を男の子にさしだしました。
「ふむふむ、それでは王冠を、君の頭にかぶせてあげよう」
にこにこ顔の王様に、男の子は首をふって、イヤイヤと言います。
「王冠なんていらないよ。お腹がぐーってなってるよ。おいしいチョコが食べたいよ」
男の子はわんわんと泣き出してしまいました。
「ふむふむ、困ったどうしよう。大臣、どうにかしておくれ」
「王様、王様、あきらめましょう。チョコをあげてあきらめましょう」
「ふむふむ、イヤじゃ、もうイヤじゃ。王様なんて、もうあきた。ぜいたく暮らしも、もうあきた!」
そう言って王様もわんわんと泣き出してしまいました。男の子と王様の泣き声の大合唱です。
「あらあら、まったく困った王様ね」
冬の女王様は、ため息をつくと王様にこそこそ話をしました。すると王様は泣きやんだのです。
「ふむふむ、わかったしかたない。大臣、チョコをもってきて」
王様に言われた大臣は大急ぎで、おいしいチョコをもってきました。男の子は口のまわりを、チョコだらけにして、ペロリと食べて泣きやみました。
「ふむふむ、ようやく泣きやんだ。そしたら次のお願いを・・・」
王様が次のお願いをしようとすると、男の子は大きなあくびをしました。
「うーん。おなかいっぱいで、ねむくなってきた。ぼくはお家にかえります。さようなら王様」
男の子は眠い目をこすって、自分のお家にかえってしまいました。
「ふむふむ、これは大失敗。せっかく冬の女王様に、ながーい冬をおねがいしたのに、これじゃ王様やめられない」
どうやら、冬が終わらなかったのは、王様のおねがいのせいだったみたいです。
王様のお願いをきいてくれた人に、王冠をあげて王様をやめるつもりだったのです。
「王様、国のみんなは、王様に王様をつづけてほしいみたいですよ」
冬の女王様が、窓の外を指さすと、国のみんなが「冬を終わらせてくれてありがとう!」と言っているのが見えました。
そうです。冬は終わったのです。
王様は春が来たのをかんじて、もう少しだけ王様をがんばろうと思うのでした。
さて、今回のお話はこれでおしまいです。
でもこの王様、なにやらふむふむと、ひとりごとを言っています。
実はこのあと、また王様が国のみんなをまきこんだ困ったことを起こすのですが、それはまた別のお話。
おしまい