1. お手紙とどけてくださいな
昔々あるところに、小さな国がありました。春にはきれいな花が咲き、夏には野菜がすくすく育ち、秋にはおいしい食べ物とって、冬は家族で楽しく過ごすのです。
でもでも、どうしたことでしょうか。今年はいつまでたっても冬が終わりません。
「家族でトランプもうあきた!」
「秋の食べ物なくなっちゃう!」
国のみんなが口々に、困った、飽きたと大合唱です。
大合唱はお城の王様にも聞こえていました。
「ふむふむ、みんな大合唱。どうしたものか。どうしたものか」
この小さな国には、王様とは別に四人の女王様がいるのです。四人の女王様は、かわりばんこで森の中の大きな塔で暮らしています。春の女王様が暮らせば、小さな国に春がやってくるのです。
でもどうしてか冬の女王様は、大きな塔から出てこないようなのです。これでは春の女王様が暮らせません。だから王様は兵隊にお願いして、冬の女王様を塔から引っ張り出して来ようとしたのです。
「王様、王様、どうしましょう。塔に送った兵隊が、待てど暮らせど帰ってきません」
困った顔の大臣が王様にそう言うと、王様はさらに困った顔をしてしまいます。
「ふむふむ、これは一大事。どうしたものか。どうしたものか」
王様が窓の外を見ると、お城のまわりに集まった人たちが、ぶるぶる震えながら困った、飽きたと大合唱を続けていました。曇った空からは、また雪が降ってきています。このままでは国中が雪で埋まってしまうかもしれません。
そして王様はいいことを思いつきました。
「ふむふむ、それならこうしよう。大臣、これを持っていけ」
王様はすらすらと何かを紙に書くと、大臣に渡しました。
「王様、王様、すばらしい。これならどうにかなりましょう」
そして大臣は国の広場に大きな看板を立てたのです。
そこにはこんなことが書かれていました。
『森の中の大きな塔に、お手紙とどけてくれたなら、ご褒美ひとつあげましょう』
国のみんなは看板を読んで考えました。雪が降ってる森の中、ぶるぶる寒い雪の中、お手紙を持っていくのはたいへんです。オオカミだって出るかもしれないのです。
国のみんなは相談しました。そして一人の男の子が、森に行くことになりました。
毛皮のコートに毛糸の手ぶくろ、もこもこ帽子をかぶった男の子は、王様の手紙を持って森の中へと歩いていきました。
北風が吹く中、真っ白な雪をざくざく踏む男の子は、レンガで出来た大きな塔に辿り着きました。
「もしもし、冬の女王様。王様からお手紙もってきましたよ!」
男の子が元気に声を出すと、真っ白のドレスを着たきれいな女王様が出てきました。
「まあ、どうもありがとう」
冬の女王様は男の子から手紙を受け取ると、中身を読んで一人でうんうんとうなずきました。
そして冬の女王様は、男の子にこんなお願いをしました。
「王様のお手紙のことはわかったわ。でもね、私はここを出られないの」
「どうしてですか?」
「だって、春の女王様がいらしてないもの」
冬の女王様は、春の女王様がいつまで待っても来てくれないので、かわりばんこが出来なかったのです。
でもこのまま冬の女王様が住んでいると、国は雪で埋まってしまいます。だから男の子は、冬の女王様の手を取って、塔から連れ出そうとしました。
「ダメよ、そんなことをしてはいけないわ。これは季節の約束なの。約束を破った悪い子は、あそこの兵隊みたいになっちゃうのよ」
冬の女王が空いている手で指さすと、そこには氷漬けになった兵隊がいました。
「無理矢理、連れ出そうとするなら、こうなるわ」
冬の女王は、男の子の帽子を取り上げると、魔法の言葉を唱えました。
『セブル、セブルで、カチンコチン』
するとどうしたことでしょう。もこもこの帽子はあっという間に、氷漬けになってしまいました。
「約束は破ってはいけないの。だから王様に伝えてちょうだい。春の女王様を呼んできてって」
男の子は大きくうなずきました。冬の女王様は、それを見てにっこり笑って、最後にこう尋ねました。
「ところで、ご褒美には何が欲しいの?」
「ええと、今はあたらしい帽子が欲しいです」
男の子はそう答えると大急ぎでお城に戻っていきました。