連れ去られた少女 1
四年ほど前。何処か、遠い場所。
その少女は、廊下を歩いていた。
石で出来た硬い床は、少女の歩みに合わせて小気味のいい音を奏でる。
しかし、少女はその音に対して何の感想も抱かない。
無関心。無気力。
それが、少女の現状であった。
彼女には、大切にしていた弟がいた。
しかし彼は、自分が過ごしていた家の倒壊に巻き込まれてしまったのだ。
安否など、考えるまでも無い。
自分を連れ去り、弟を殺した組織、シュマン。
彼女は酷なことに、自分が憎むべき相手であるシュマンで働かされていた。
彼女には、特別な力があったから。
神術。
特殊な色の瞳を持つ者のみが扱える、特異な力。
それが、少女にも宿っていた。
その力に目をつけられ、シュマンに連れてこられた事を、少女は知っている。
それならばと、全ての元凶であるこの眼を何度潰そうとしたことか。
少女は、もはやまともな思考が出来なくなるほど心身ともに衰弱していた。
彼女の全てであった、弟との生活。
それを失ってからというもの、彼女は日に日に弱っていった。食べ物もほとんど喉を通らず、水だけで一日を終える日もあった。
絶望。
彼女の精神状態を一言でいうなら、これに尽きるだろう。
弟の仇の下で働かなくてはならない状況も、彼女の感情に、より影を落としていた。
もはや、シュマンは彼女に仕事を与えていなかった。与えられるわけが無かった。
虚ろな眼をして、心ここに在らずな彼女に仕事などできるはずも無い。
今日もまた、少女はあてもなく建物を彷徨う。