1-4 逃走と闘争
「くっそ……ッ!」
ラウィは思わず悪態を吐く。同時に、神術膜を展開。表皮に纏わせた。
「そうじゃそうじゃ! そうしてくれると、やりがいが出るのう!」
カルキは、ラウィに向かって走りながら、両手を勢いよく叩いた。
ものすごい音が周囲へ響き渡る。その振動で、カルキの周囲の草は波打ち、池の水は跳ね上がっていた。
橙の神術師が扱う、音を使った攻撃である。
余りの大音量に、ラウィの鼓膜が大きく揺さぶられた。思わず耳をふさぐ。
しかし。
(うるさい……だけで済んでる。神術膜の効果か)
その振動だけで、池に棲む生物たちのほとんどが気絶してしまったのだが、ラウィには全くダメージが無い。
ラウィは、向かってくるカルキとの距離を保つため後ろ向きに走りつつ、池から大量の水を浮かび上がらせ、自分の元へ手繰り寄せる。
(カルキは、僕に色々教えてくれた。味方だった。でも、僕に危害を加えるなら、敵だ)
ラウィの思考は切り替わっていた。
自分に危害を加える者は、すべからく敵。
ラウィのこの思考は、彼の生い立ちが関係していた。
彼の中で、人間とは二つの種類に分けられている。
自分と苦楽を共にし、いつもラウィを気遣ってくれていた姉。崩壊寸前の家から自分を守ってくれたアルカンシエルの男。
彼らは、ラウィにとって恩人である。味方だ。
一方、ラウィから大切な姉を奪った、シュマンに属しているという男。何の話も聞かず、突然襲いかかってきた紫の瞳の奴隷商人。
彼らは、ラウィにとって厄介者でしかない。すなわち、敵だ。
味方と、敵。
ラウィは、人をその二つの基準で考えるようにしまっていた。
無理もない。ラウィはそもそも、人と接触する機会が極めて少なかった。人生経験が、圧倒的に少ないのだ。
(敵なら、遠慮はしない。僕の持てる力の全てを使ってこの場を終わらせてやる)
ラウィはカルキを睨みつける。
ラウィのこの思考は、とても危うい。
危害を加えてくるなら敵、ということは裏を返せば、危害を加えてこない者は味方だということだからだ。
少し態度を気をつけるだけで、ラウィは簡単に騙すことができるだろう。
今回も、そうであった。
自分の手当てをしてくれた。それだけで、一切の警戒を解いてしまい、結果、遥か格上のカルキと交戦する羽目になっている。
しかし、ラウィはその判断を省みることは無い。それ以外の接し方を、ラウィは知らないのだから。
「ほれほれ! 反撃してこないとただやられるだけじゃぞ! それではつまらん! さあ、反撃してくるんじゃ!」
「うるさいよ、カルキ」
ラウィは、大量に操作している水の塊から、一部分だけを切り取り、それをカルキの後頭部へ叩きつけた。
そこに、一切の躊躇は無い。
当然だ。目の前の橙色の瞳をした老人は、『敵』なのだから。
「ぐおっ……やっと来たかね!? そうじゃ! もっとワシを楽しませておくれ!」
カルキは一瞬怯む様子を見せるも、すぐに立て直す。生身なら卒倒してもおかしく無い衝撃なのだが、カルキも神術膜でダメージを軽減していた。
しかし、そんな事はラウィにとってどうでも良いことだ。
「……ほえ?」
カルキが素っ頓狂な声をあげる。
ラウィは、カルキに背を向け、全速力で走り出していた。
(戦って勝てる相手じゃ無い。敵だからって、別に倒す必要は無いんだ。全力で逃げさせてもらうよ)
ラウィは、自分は情けない奴だと自虐するも、その足を止めることは無い。
カルキは、ラウィより格段に強い。
神術膜を作れるようになったからって、それだけで勝てると思うほどラウィはめでたい頭はしていない。
だから、逃げる。戦って良いことなんて一つも無い。
姉を失ってからの五年間、旅をしてきた中で、ラウィは危機を回避する手段を適確に導けるようになっていた。
良く言えば、合理的。悪く言えば、臆病者だ。
しかし、それでも良いとラウィは思っていた。
姉を救い出し、また幸せな時間を過ごすためには、自分が生きていないと意味が無いのだから。
その時に、結果的に良かったと思える行動なら、それでいい。酷く自己中心的だが、そんな考えでもしていないと、すぐに命を取りこぼしてしまっていただろう。ラウィは、この五年間そんな状況で生きてきた。
一方、みるみるうちに小さくなる少年の背中を呆然と見つめていたカルキだったが、やがて我に帰り、ラウィを追いかける。
「ラウィィィィィィッ!! 待ちなさぁぁぁぁぁい!!」
カルキは、両手から音の神術を発生させて遠くのラウィを襲う。しかし、ラウィに届くまでには至らなかった。
ラウィの周りに浮いている大量の水が、音を吸収してしまっているからだ。
ラウィは、経験で知っていた。
(昔、水に潜った時思ったんだ。外の音が、ほとんど聞こえないって。まさかと思ってみたけど、神術で作った音でも弱められるなんて)
自身の周りを囲っている水と、神術膜の効果で、ラウィにはほとんどカルキの音が聞こえていなかった。
このまま、逃げられる。
先ほど自分が目覚めた場所を通り過ぎ、この草原を囲っている崖までラウィは辿り着いた。
やはり、崖は並大抵の高さではなかった。出っ張りも少なく、とても登れそうにない。
(出口を探すしかない。外とこの空間を繋いでる出口を)
カルキが先ほど言った言葉を、ラウィはしっかりと覚えていた。
『滝のそばにある大きな穴を通ると、ここにたどり着く』と。
その穴を見つけてしまえば、外に出られる。
意識を失ってはいたが、ラウィもそこを通ったはずなのだ。
しかし。
(無い……どこだ? 穴が無い! 早くしないと、カルキが追いついちゃうのに!)
ラウィは焦る。
カルキに追いつかれてしまえば、戦闘は避けられない。
『ラウィのような若者が元気で生きてくれることが願い』と言ったカルキの言葉も、今となってはもはや本当なのかわからない。
カルキの暇つぶしに付き合ってしまうと、命の保証があるとは限らないのだ。
「ラウィ、ここまでじゃよ。諦めて、ワシと戯れろ」
ラウィは振り返って声の主を見る。
そこには、カルキが橙色の瞳を光らせていた。
カルキが手のひらをラウィに向けて突き出す。
ラウィは咄嗟に、自分とカルキの間に水を割り込ませた。
パァン! と小気味いい音と共に、ラウィが操作していた水の塊は破裂し、霧散した。
「水で音を弱めるとは、考えたのう、ラウィ。じゃが、もうお前さんが操れる水は無い。さあ、どうするんじゃ!?」
カルキは再び、手のひらを押し出すように突き出した。
「くっ……!」
ラウィは見えない攻撃を横に飛ぶことで回避する。地面を転がって立ち上がると、カルキに向かって飛び出した。
こうなってしまった以上、やるしかない。
ラウィはカルキの懐に潜り込むと、拳をカルキの鳩尾へ叩き込む。
「ラウィ。ひとつ言い忘れておった」
「!?」
カルキは、ラウィの攻撃に対し全く痛がる素振りを見せずに口を開く。
「神術膜は、神術師の攻撃だけでなく、ただの攻撃も軽減する。単純に、自らの耐久力をあげるものだと思っておきなさい」
ドムッ! と、鈍い音が響く。
カルキが、ラウィの腹に蹴りを入れた音だった。
「あ……ぐっ……!」
ラウィはカルキから一度距離を取る。
重い一撃を受けた腹部は、内部からじわじわと痛みが広がっていく。
「そして、一部分の神術膜の厚さを操作することで、耐久力を、そして、攻撃力をも高めることが出来る。これが、神術師の基本的な戦い方じゃよ」
カルキはラウィとの距離を一瞬で詰めると、纏う神術膜を厚くした右拳で、ラウィの頬を殴りつける。
あまりの速さに、ラウィは反応すらできなかった。ピキッ、と嫌な音が頬から聴こえたと思うと、次の瞬間にはラウィの体は地面に叩き伏せられていた。
「ほれほれ、ラウィ。ワシはまだ無傷じゃぞ。頑張って、一矢報いてみなさい」
「か、カル、キ……」
桁が違う。
神術の熟練度か、経験の差か。
とにかく、ラウィでは絶対に勝てない差があった。
「ほれ、ラウィ、立て。立つんじゃ! お前さんはこの程度で終わりなのかい!?」
カルキが、地面に横たわるラウィの腹に何度も蹴りを叩き込む。
もはや視界はぼやけ、カルキの姿をはっきりと認識することも出来なくなっていた。
カルキの蹴りは、神術膜が厚く覆われているようで、異常なほどの重さを誇っていた。
――ここでラウィは、僅かな希望を見出す。
(神術膜を、厚くすれば、威力が、あがる……なら、もしかして……)
ラウィは、賭けに出る事にした。
神術膜の厚さの調整など、当然だがやったことが無い。それでも、ここで成功しなければ、待っているのは、おそらく死だ。
やらなければならない。
ラウィは、薄れゆく意識かき集め、手のひらに全てを集中した。
神術膜を。手のひらの上で厚く厚く展開する。
すると、手のひらに冷たさを感じた。視線をそちらに向けると、空色のもやのような物が集まり始めている。
(いいぞ、もっと意識を集中して……)
霧状の、空色の物体が形を帯び始める。小さいが、丸く、丸く。
やがて、地鳴りでもしているかのように空間が揺れ始めた。
ラウィの手のひらには、空色の球状のナニカが出来上がっていた。
色と大きさは違えど、それは紛れもなく、紫の瞳の奴隷商人が放った球、神術玉であった。
「ラウィ! それはいかん!」
カルキが、ラウィの作り出した空色の神術玉を見て叫ぶ。小さいが、それは確かな威力を秘めているのだ。
(今更遅いよ、カルキ……っ!)
ラウィはカルキへ向けて神術玉を放り投げる。
その蒼い塊が老人の体に触れた、次の瞬間。文字通り爆発的な衝撃がラウィを弾き飛ばしてきた。
カルキを中心とした大爆発に、それを投じたはずのラウィの体は地面を這うようにすっ飛ばされる。ゴロゴロと何回転もして、ようやく動きが止まった。
「どう、だ……?」
ラウィは、地面に這いつくばりながらも、砂煙がもうもうと立ち込める爆心地に目をやる。直撃したはずだ。神術玉が小さいとはいえ、流石に無傷では済まないだろう。
ラウィが神術玉を作り出したのは、カルキの言葉がヒントになっていた。
神術膜を厚くすれば、攻撃力があがる。ならば、限界まで厚くしてやればどうなるか。答えとして現れたのは、神術玉であった。
もはや膜と呼べなくなるほど厚くした神術膜は、体から離れて球体となる。これが、神術玉の作成方法だ。
もちろんラウィはそんなことは知らない。賭けであった。神術膜を、厚く操作することは出来るのか。出来たとしても、神術玉が発生するのか。発生したとしても、それを放つことは出来るのか。
これらの賭けに、ラウィは勝ったのだ。
(お願い……これで、終わって!)
やがて、煙が晴れる。そこには、地面に倒れ伏したカルキの姿があった。
と、いうことは。
(勝った、のかな……? いてて、くそ、またボロボロになっちゃったな)
腹は何度も蹴られ、吐き気を催してきた。おそらく頬骨にはヒビが入っている。
まさに満身創痍である。ラウィはふらふらの体に鞭を打って立ち上がろうとする。あの池に行って、少しでも傷を癒そうと考えたのだ。
しかし、体は全く言うことを聞かず、上半身を立てることすら出来なかった。
「おやおや、ラウィ。立ち上がることもできんのかね?」
――ゾッ、と。
ラウィの背中に冷たい何かが走った。
(嘘……でしょ……?)
ラウィは爆心地に目をやる。そこには、横たわる人影などどこにもなかった。
カルキは、ラウィの神術玉の衝撃に吹き飛ばされはしたものの、軽症で済んでいたのだ。
「ワシが、神術玉に神術玉をぶつけてある程度威力を相殺できることを忘れたのかね? まあ今回も咄嗟のことじゃったから、上手く相殺しきれなんだがの」
ラウィは、絶望した。
もう指一本動かせない。完全に、負けだ。
自分は、死ぬ。
ある人の顔が、脳裏に浮かぶ。
その人に、心の中で謝った。
(……姉ちゃん、ごめん……)
カルキが、ゆっくりと近づいてくる。
その両手を、ラウィに向けて伸ばす。
そしてそのまま、ラウィを抱き上げた。
「……えっ……?」
「ラウィ。よく頑張った。合格じゃ。こんなに痛みつけてしまったこと、本当に申し訳なく思っておる。すまなんだ」
カルキはラウィを抱えたまま、来た道を戻り始める。回復の効果のある、池がある方向だ。
「お前さんに実戦の経験を積ませておきたかった。じゃが、普通にやってもお前さんは本気にならんじゃろう? だから、演じた。お前さんが躊躇なく攻撃できるような、『敵』を」
「じゃ、じゃあ……」
「ああ、全部嘘じゃ。全てはお前さんを守るため。こんなにボロボロにしておいて何を言ってるんだって感じじゃが、それだけは信じて欲しい」
ラウィは、担がれたままカルキを見る。
カルキの顔は、今にも泣き出しそうであった。
その表情を見て、ラウィの混乱は加速する。
「暇だったのは事実じゃがな。とにかく、ワシは若者が死ぬところを見たくない。それだけなんじゃよ」
それだけいうと、カルキは口を閉ざした。
ラウィを抱えている手が震えている。それが何故なのかは、カルキ自身にしかわからないだろう。
しかし、ラウィはそのおおよその意味は理解した。結果、カルキの事を敵ではないと再認識する。
危害を加えてきた者である、カルキの事を、だ。
(……こんな、形もあるのか。さっきまでのカルキは、間違いなく『敵』だった。でも本当のカルキは、僕にとって完全な『味方』なんだ)
ラウィは反省した。
人とは、そんな簡単に分類出来るようなものではないのかもしれない。
危害を加えて来る者は、敵。
それ以外の者は、味方。
事はそう単純には出来ていないようだ。
かといってどうしたらいいかは、今のラウィにはわからなかった。
「さあ、ラウィ。着いたぞ。ここで傷を癒しなさい」
カルキは、ラウィを池に浸からせる。
池に身を沈めると、ラウィの全身の痛みがみるみるうちに引いていく。疲労感も一気に吹き飛んだ。
潜ってみると、頬骨の痛みも消えていく。ひやりとした感覚が心地良い。
「ぷはっ」
水面に顔を出す。カルキを見ると、自分は池の水には手をつけず、座り込んでいた。
ラウィはカルキに話しかける。
「カルキは入らないの? 軽いけど、傷があるよ」
「ワシは良い。寒いからの」
カルキのその言葉で、ラウィは気付く。
自分は今、先ほどとは違い、服を着たまま入水しているのだ。
急いで水から出るが、何もかもが遅かった。
水を含んだ服は重く、また、外気に触れることでその温度をより下げていた。
「さ、寒っ! カルキ! 何で服着てるのに池に入れるんだよ!」
「ん? もう良いのかね? ラウィ。こっちに来なさい」
ラウィはカルキの近くに寄る。
カルキは、寒さに震えるラウィの体に手を触れると、音の神術を発動した。
すると、細かい振動によって、ラウィの衣服が飲み込んでいた水分は全て弾き飛ばされた。
ラウィは、軽く跳ねたりしながら服の感触を確認する。
信じられなかった。完全に乾いている。
「ほれ、これでいいじゃろう?」
カルキは、まるで何事もなかったかのように話す。
一方ラウィは、改めてカルキの凄さを感じていた。
(威力だけじゃなくて、こんな芸当までやってのけるなんて、カルキは、一体僕のどれだけ上にいるんだ?)
ラウィは、一気に不安に陥った。
これから姉を助け出すまでに、カルキほどの実力者が阻んでこないとも限らない。
それが逃げられる状況でなかった場合、自分はそいつに勝てるのか。
「ラウィ、お前さんはもっと強くなれる。そのために、アルカンシエルに行きなさい」
カルキがおもむろに口を開く。
「アルカンシエルには、沢山の神術師がいる。その人たちと、お互いを高め合いなさい」
カルキのその言葉で、ラウィの中で目的が重なる。
シュマンと呼ばれる組織にさらわれたであろう姉を救うために、敵対組織であるアルカンシエルに入る。
また、自分の実力を高めるために、アルカンシエルに入る。
ラウィの中で、アルカンシエルを探すという意思がより強くなった。
「うん、そのつもりだよ」
「良い返事じゃ。では、行くかの。出口まで案内しよう」
カルキは立ち上がると、そり立つ崖へ向かって歩を進めた。
ラウィも、そのあとを追う。
道中、思うところがあったラウィは、カルキにふと尋ねる。
「カルキは、アルカンシエルに行かないの? そんなに強いのに」
「入るか入らんかはその者の勝手じゃろう。ワシはこの場所を守る。だから、ここを離れるわけにはいかんのじゃ」
「ふぅん……」
ここにいるのは暇だと言い切っておいて、離れるわけには行かないというカルキの言葉に少しだけ疑問を感じたラウィ。
(まぁいいか。カルキにはカルキの事情があるんだろうし)
深くは詮索しなかった。
言葉の節々が、これ以上触れるな、と暗に言っている気がしたのだ。
そうこうする間に、ラウィとカルキは草原を取り囲む崖へたどり着いた。
「ここじゃ、ラウィ。この穴から外へ出られる」
カルキが、崖を指差す。
そこは、先ほどラウィが辿り着いた崖の位置から、そう遠くない位置にあった。
しかし、そこの周辺だけやたら草が伸びていた。まるで出口を隠すように。
「もしかしてカルキ。この草の伸び具合はわざと?」
「当たり前じゃろう」
あっさりと認めたカルキの言葉に、思わずため息をこぼす。
カルキから逃げている極限状態で、まさか草のせいで出口が見えなくなっているなんて考えもしなかった。
「どこまでもカルキにもてあそばれた気がするよ」
「ははは。すまんのう。ま、お前さんのためにやったことじゃ。許しておくれ」
朗らかに笑うカルキ。
怒れるはずなどなかった。
大きな目で見れば、カルキの行動は全て自分の為にやった事なのだと、今ならわかるからだ。
「カルキ、本当にありがとう。感謝しても仕切れないよ」
だから代わりに、礼を言った。
カルキはラウィの言葉に少し照れながら、
「アルカンシエルは、この穴を出てまっすぐ北に進めば五日ほどで見えてくるはずじゃ。途中、タイナ村という村があるから、そこで一度休むといい」
意外と近いとラウィは思った。
だが、確かにその辺りは五年間で行った事のない地域である。
ラウィは、ぼうぼうに伸びきった草をかき分けながらカルキに最後の言葉を投げかける。
「カルキ。何から何まで本当にありがとう。絶対にアルカンシエルを見つけてみせるよ」
「うむ。達者でな」
ラウィは出口へと繋がる穴に入ると、暗く湿った隧道を歩きだした。