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蒼天のアルカンシエル  作者: 長山久竜@第30回電撃大賞受賞
▼Prologue. -A tale of various heroes-
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Exordium. 「何処かの誰かの物語」




 暗い部屋。埃っぽく、薬草のような青臭さがほのかに漂う空間で、少年と老人が向かい合っていた。


 二人を照らすのは、間でゆらゆらと光を放つ一つの小さな火種のみ。それが、少年の蒼い髪をほの紅く照らし、老人の白髪をも煌めかせる。


 ともすれば互いの顔すら認識できないほどの闇が、二人の間には詰め込まれていた。


 白髪の老人が、とっぷりと蓄えられた白い口ひげの奥から、しわがれたギスギスの声で言葉を紡ぎ始める。


『もう、その力は使うべきじゃない。いや、絶対に使うな。死が近づくだけだぞ』


 対して蒼い髪の少年は、自分の首筋を気怠げに撫でる。その、向かってくる『死』とやらの証を。命の残量を示す、その素敵な通達を。


 それを確認し直してなお、少年はなんてことないように、首から頭へと手を移しそのままガリガリと掻く。


『何言ってるんだよ。こんな便利な力、使うに決まってるでしょ』


 片目を瞑り、欠伸でもしそうなほどのんびりとした声で話す蒼い少年。その顔や声色は、死に肩を掴まれている者とは、およそ思えない。


 少年には、自分の命なんかより優先すべき存在があるのだ。そんなくだらないことで、躊躇っていられなかった。


『……あの人を救えるのなら、こんな身体どうなったっていいんだよ。悪いけど、もう決めたんだ』


 それだけ言い残して部屋をあとにする少年を、老人は引き止めることが出来なかった。


 最後に見た少年の瞳は、鋭く、明るい蒼に瞬いていた。



 そしてその数日後、蒼い髪の少年は命を落とす事となる。それが本当に正しい行動だったのかは、少年にだってわからないだろう。



 しかし少年は、後悔だけはしていなかった。


 自分の行動に誇りを持って、死んでいった。



 それでも守りたいと願った、大切な存在の為に。







――どいつもこいつも、人というのはどうしてこうも他人を気遣えるのだ。本当に、興味が尽きない。




 大切な誰かのために、人はどこまで足掻けるのだろう。


 胸中に秘めた目的に、人はどこまで懸けられるのだろう。


 自分が定めた信念を、人はどこまで貫き通せるのだろう。


 誰かが決めた運命に、人はどこまで立ち向えるのだろう。







――弱き人の身で天に抗う者たちよ。





――示せ。その可能性を。

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