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数分後、綾子は顧客データのプリントを持ってきて佐久間に手渡した。
「それでは、この中から怪しい人物を当たってみましょう」
佐久間は黒い鞄にプリントを入れると帰り支度を始めた。
「もし何か分かりましたら、お電話いたします。奥さんも、何かありましたら、気軽に僕の携帯にお電話下さい」
佐久間が帰った後、綾子はここ数日感無かった安堵感を覚えた。
締め付けていたタガが外れた様な気分だ。
もうこれで大丈夫だ。
佐久間は信用できそうだし、警備会社が四六時中ガードしてくれている。
嫌がらせのメールがいくら来たって、直接手が出せないなら、怖い事は……
不意にさっき感じた違和感が蘇ってきた。……なんで?……なんで佐久間さんは、わたしが会社を辞めたのが七年前だと知っていたのかしら?……
綾子には、その事を話した覚えがない。
しばらく考え込んでいたら、いつの間に来たのか、携帯のディスプレーにメールの着信を知らせるメッセージがあることに気が付いた。
「いくらこんなもの送って来たって無駄よ。もうすぐ、佐久間さんがあんたの正体を暴いてくれるわ」
携帯に向かって呟きながら綾子はメールを開く。
〈……子供はどうなった?〉
一瞬にして、綾子は血の気が引いた。
時計を見ると、息子はもうとっくに小学校から、帰っていなければならない時間である。
……ま……まさか!?




