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湯気を立てるティーカップを、佐久間の前に置き、綾子は一連の出来事を話した。
「なるほど。だいたいの事情は分かりました。それで、もう一度聞きますが、奥さんにはお金を借りた覚えはないのですね?」
「ええ」
綾子はうなずく。
「だとすると、相手が返せと言ってるお金は、個人的な借金とは違うのでないでしょうか?」
「個人的な借金じゃない? だとしたら、いったいなんだと言うんです?」
「例えば、仕事上のトラブル。奥さん。相手は、奥さんを旧姓で呼んでいましたね。結婚前に、何か仕事をしていませんでしたか?」
「保険の外交員をしていましたが……でも、それでトラブルはなかったと思いますわ」
「それは分かりませんよ。奥さんが会社を辞めたのは七年前。その後で、顧客と会社との間にトラブルが起きたかも知れません」
「でも、それなら会社を恨むべきであって……わたしを……」
綾子はふと違和感を覚えた。たが、その違和感が何なのか分からないうちに佐久間が話しを再開した。
「恨むのは、筋違いだと言いたいのでしょう。でも、客はそうは思わないですよ。客にしてみれば目に見えない保険会社よりも、契約を取りにくる、外交員の方に怒りを向けるでしょうね」
「そ……そんな……」
「まあ、それはあくまでも仮定でして、そういう事もありうるという事です。もちろん、奥さんには、何の責任もありません」
「あの……守ってもらえるのでしょうか?」
綾子はすがるような目を向けた。
「もちろん、そのために来たんです。と言っても、僕が四六時中ここにいるわけにはいきませんので、警備会社を手配しておきました。窓の外を見て下さい」
見ると、家の前の道路に、白い乗用車が止まっていた。
「彼らが一日三交代で見張っています」
「え? でも、お高いのでは……」
「奥さん、お金と命とどちらが大切ですか?」
「でも……」
「大丈夫です。旦那様とは話が付いていますから」
「そうですか……」




