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来客を告げるベルが鳴ったのは、その日の三時頃であった。夫からのメールが届いてから一時間しか経っていない。
「はじめまして。佐久間と申します」
玄関先に立っていた二十代半ばくらいの男は、精悍な顔つきにさわやかな笑みを浮かべながら名刺を差し出した。
『 二十一世紀リサーチ
調査員 佐久間敬一郎 』
と書かれてある名刺と、それを出した男を綾子は見比べて首を捻る。
百八十センチはありそうな長身をビジネススーツで包んだその姿は、どう見ても平凡なサラリーマンだ。探偵に決まったスタイルなどないが、少なくとも綾子の記憶にある探偵のイメージとは、まるっきり合致しない男である。
「あの探偵さん……ですか?」
「そうですが。探偵に見えませんか?」
「い……いえ。夫のメールでは後日いらっしゃるとあったので……」
「ええ。そのはずだったのですが、たまたま私の手が開いたところでして……何か不都合でも?」
「とんでない! 早く来ていただいて助かりましたわ。とにかく玄関では何ですから、上がって下さい」
佐久間は一礼して家に上がった。
……どう見ても探偵というよりセールスマンにしか見えないわ。まあ、確かに、一目で探偵と分かるような人じゃ、尾行もできないでしょうけど。それにしても……
チラッと、応接間に待たせてある佐久間に目を向けた。
……探偵とはいえ、こんないい男を紹介したりして……わたしが浮気しても知らないわよ。あなた……
九州にいる夫に内心舌を出しながら、綾子はお茶を入れる。




