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……なぜ? なぜ、そこまでわたしを……
自分は、ただ仕事をしただけ。恨まれる筋合いはない。
綾子は、今までそういうふうに考えてきていた。
保険の契約を結ぶ相手を、人とは思わず金だと思っていた。
契約さえ結んでしまえば、後の事はどうだっていい。
精々、長生きして保険料を払い続けてくれれば……
だが、彩子がどう思おうと相手は人間だ。
当然、愛する家族もいるし、それぞれの都合もある。
相手の都合も事情も考えず、ただノルマ達成の為だけに契約を取ってきた報いが今になって回ってきたのだ。
猫は追いかけてくるうちに、次第に身体が大きくなってきた。
今はヒョウぐらいの大きさだ。
綾子は運転席の方を向く。
「もっとスピードを上げて」
「無理ですよ」
「何をのんきな……」
綾子は、振り向いて絶句した。
猫は、像ほどの大きさになっていたのだ。
リアウインドー一杯に顔が広がっている。




