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転がるように玄関から飛び出した綾子は、立ち止まって玄関の方を振り返る。
老女が今にも追いかけてくるような気がしたのだ。
玄関が開く様子はない。
安心したとき、不意に背後から肩を掴まれた。
「ひ!」
恐る恐る、振り返る。
タクシー会社の制服姿の男がいた。
「困りますね。無賃乗車は」
「え?」
男の背後では、タクシーがハザードを点滅させて停止していた。
「あの……わたし……あれに乗って来たんですか?」
「寝ぼけてんですか? あんた電話に出た後、急に飛び出して行ったんだよ」
どうやら、この男の言ってることは本当のようだ。
「あの……私の他には……誰か……」
「いいや。あんただけだよ。猫も一緒に乗り込んだけど……猫から運賃もらえないしな」
「猫?」
「本当は猫お断りなんですよ。でも、俺猫好きだから特別に乗せてあげたんですよ。それにしても、珍しい猫ですね。尻尾が二つあるなんて」
「……!!」
見間違えではなかった。
さっき、襖を閉める一瞬、猫の尻尾が二つあるように見えたのだ。




