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思わず、もう一度襖を開く。
「なんですか?」
猫を撫でながら老女はめんどくさそうに言う。
「あの……」
「警察に行きたければ、好きにしなさい」
「え?」
警察に駆け込む事は考えてもいなかった。
確かにさっき老女に殺されかけた。
殺人未遂で訴える事はできる。
しかし、そんな事をすれば自分が佐久間に対してやった事も明るみになる。
詐欺罪や強要罪はすでに時効が成立していたとしても、夫やその家族に知られるのは何としても避けたかったのだ。
「いえ……警察にはいきませんが、その猫は……」
「あの子が小学生の頃に拾ってきた猫ですが……あの子が死んだ日から姿が見えなかったのです」
「そうですか」
綾子は黒猫をじっと見つめた。
しかし、さっき一瞬見えた妙なものは見当たらない。
不意に猫は綾子の方に顔を向け睨みつけてきた。
「し……失礼します」
綾子は慌てて襖を閉じる。




