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……刺される!
綾子は目をつぶって、その時を待った。
だが、いつまで経っても激痛は襲ってこない。
そうっと目を開けて振り返った。
老女は包丁を振り上げた体制のまま、何かに驚いたような顔で立ち尽くしている。
「え?」
老女の視線を追うと、綾子と老女の間に先ほどの黒猫が座っていた。
「クロ……?」
老女は包丁を床に落とすと、しゃがみこんで猫を抱きしめた。
「てっきり、お前まであの子と一緒に逝ったのかと……」
「あの……」
どうしていいか分からず、綾子は老女に話しかけた。
「お行きなさい。もうあなたに、用はありません」
老女は振り向きもせず答える。
「はあ……しかし……」
「行きなさい。ここにいると、今度こそ刺すかもしれませんよ」
「し……失礼します」
綾子は大急ぎで、部屋から出た。
「え?」
襖を閉める時、一瞬妙なものが見えた。




