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「二ケ月前に医者からガンの告知を受けたんです。ですが、治療すれば助かるとも言われたんです。ただし、長期間の闘病生活を強いられる事になるだろうとも……あの子は『お母さんに治療費で負担を掛けたくない』と言って、そして……」
老女はそこで涙ぐむ。
「治療費って? 佐久間さんは、保険に入っていたんでは?」
自分が加入させたんだから、間違えないはずである。
「保険の契約が、いつの間にか切られていたんですよ。本人も知らないうちに……」
「なぜ?」
「保険金が長い間、未払いになっていたんです。保険を引き落としている銀行口座の残高がなくなっていることに、気が付かなかったんですよ。三年前に給料の振り込み先を変えてしまったので、保険を引き落としている口座に、お金を降り込まなければいけなかったのですが、仕事が忙しくてその事を忘れていたのです」
「でも、契約を切られる前に通知があるはずですが……」
「うちでは、ダイレクトメールの類いは、たいてい見ないで処分してますから、気が付かなかったのでしょう。ですけど、こういう場合、契約を切る前に外交員が直接来るか、電話をするのが筋じゃありませんか。だからその事で抗議したんです。そしたら『相模化工から出入り禁止になっていたので行けなった』というじゃありませんか」
幸子の顔が綾子の脳裏に浮かんだ。
……あいつめぇ!……
「そもそも、息子が主人の知り合いの保険屋さんに入っていれば、こんなことにならなかったんですよね。八年前、そうするように言っていたのですが、突然息子は会社に来た保険屋と契約してしまったのです」
「はあ」
その辺の経緯はよく知っていたが、敢えて初めて聞いたような顔をするのに、綾子は苦慮した。




