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背後で襖の開く音がする。
振り返るとそこに、さっきの黒猫を抱いた佐久間が立っていた。
ただ、佐久間の服装はさっきと違っている。
車から降りた時はスーツを着ていたはずなのに、今の佐久間は作業服を着ていた。
胸の所には、相模化工の文字が刺繍されている。
さらに車を降りるまでは、裸眼だったはずなのに、今は分厚い眼鏡を掛けていた。
「佐久間さん……あなた……いったい?」
何者なのかは、聞かなくても分かっていた。分かっていたが、認めたくない。
無言で立っていた佐久間の顔が、突然変貌を始めた。
のっぺりとしていた顔の皮膚のあちこちに無数の黒い小さな点が現れたと思うと、みるみるうちに黒い線となる。
やがてそれは、顔中を覆い尽くす程の髭になった。
その姿はまさに、八年前に相模化工で会った時の姿そのままである。
「ゆ……許して、佐久間さん。本当は、ホテルでは何もなかったのよ。すべて嘘なの。ノ……ノルマを上げたい一心で……お願い。許して」
必死で許しを請う綾子に対し、ゆっくりと首を横にふる。
そして言った。
「金、返せ」
綾子の意識は、そのまま暗転する。




