13
『奥村恭一?……ああ! 覚えてるわよ』
リストを見直しても、奥村恭一の事を良く思い出せ無かったため、綾子は幸子に確認の電話を入れたのである。
「どんな人?」
『あんたねえ……大事な客の事忘れるかなあ。ふつう』
「わたしは、七年も前に辞めてるのよ」
『はいはい。奥村恭一っていったら、あの『相模化工』とかいう小汚い工場にいた工員よ。高校出たばかりの坊やで、勧誘始めたとたんに、あたしらえらい目にあったじゃない。工場のパートのオバさん連中に捕まって『未成年を勧誘するな!?』って凄い剣幕で怒られたでしょ』
「あ! そういえば」
『でも、結局あんたが色仕掛けで契約取っちゃったのよね』
「人聞きの悪い事言わないでよ! 一回デートしただけよ」
『その一回だけっていうのが罪なのよね。あんた契約取る時に『またデートして上げるから、オバさん達には内緒にしててね』って言って、その直後に寿退職してさ。これを色仕掛けと言わずになんというか』
「そんな言い方ないでしょ!」
『言いたくなるわよ。あんたが辞めた後、残されたあたしは、その事で苦労させられたんだから』
「そうなの?」
『そう。あの後、あたしはパートのオバさん達から吊し上げ食らうし、うちの保険会社は、相模化工から出入り禁止になるし……』
「そこまでする?」
『いや、その前にやった事も、問題になったのよね』
「何かあったっけ?」
『ほら……名前忘れちゃったけど、奥村の先輩に髭もじゃの男がいたでしょ』
「そういえばいたわね」
綾子の脳裏に、髪も髭の伸び放題に伸ばし、分厚い眼鏡を掛けた二十代半ばぐらい男の顔が浮かんだ。
『あの男に美人局まがいの事やって、契約取らせたじゃない』
「ああ、そういえば……」
丁度その時、玄関のベルが鳴った。
「ごめん。探偵さんが来たから、これで切るわね」
『うん。今度、その探偵さん紹介してね』




