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あまぎごえの短編集  作者: あまぎごえ
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ペアルック

 世の中はペアルックで溢れている、というと言い過ぎだとは思うけれど一日一回は目にするくらいには街中を闊歩している。


 それは双子だったり、仲の良い女子二人組だったりラブラブなカップルだったりする。羨ましい。途轍もなく、途方もなく、羨ましい。私もペアルックがしてみたい。

 そう思ったのは十五歳になった時だった。


 なら私は誰とペアルックになりたいのか。相手は既に決まっていた。愛すべき、妹である。


「絶対やだ」

 

 それが妹の出した答えだった。悲しいけれど仕方ないことなのかもしれない、やっぱりお年頃なワケだし。


 そう思って私は諦めかけたのだけれど、人生何が起こるかわからないもので私達は予想外の形でペアルックとなる。


 それは、母が病気で亡くなった時だった。お揃いの喪章を私と妹はつけたのだ。それだけではない、同じ真っ黒い格好。


「ペアルックだね」

「黙って」


 妹は恥ずかしがり屋だからそんな事を言っていたけれど私は興奮を抑えられなかった。初めてのペアルックをプレゼントしてくれてありがとうお母さん。


 でも、お父さんも同じだからペアじゃないのがちょっと残念。まあ、いいけど。




 それから一年、二年と経って妹は私からどんどん距離を取っていった。話しかけても一切答えてくれなくなったし、部屋にはいつも鍵がかかっていて夜中に忍び込めなくなっちゃった。

 私は段々寂しくなって、妹の誕生日にTシャツを買ってあげた。勿論私も同じやつを買ってペアルックだ。部屋の前に置いといたけれど翌朝ゴミ箱にTシャツは突っ込まれていた。デザインが気に入らなかったのかもしれない。


 だから違うデザインのTシャツをプレゼントしたけどまた捨てられた。酷い妹。最近顔すら見れていない。どうしたらいいんだろう。妹の気持ちがわからない。同じ格好をして妹の部屋の前に張り込んでみた。


 深夜、ガチャリと開いたドアから妹が顔を覗かせる。床にうずくまっていた私は寝ぼけなまこで「あ、みてみてペアルック」と言ったけど妹はなんだかわめきながら物を投げつけてきたのでちょっとお仕置きしたら大人しくなった。お父さんが一階から駆け上がってきて「いい加減にしろ!」って私を殴りまくった。実の子供にそんなことする?普通。親だったら子供なんてボコボコに出来ないよ。


 その一週間後、お父さんの葬儀が行われた。邪魔ばっかりしてくるしこうなったのは当然。妹は泣いてるけど、もう大丈夫。ほら、私達またペアルックになれたよ。二人で一緒に頑張ろう?


 親戚達が色々言ってきたけど、「私達は二人で大丈夫ですから」って言ってやった。妹はずっと何もしゃべらず黙ってた。



 それから妹は一層私を避けるようになった。同じ格好にまたなったはずなのに、心が通じ合ったはずなのに。どうしてこうなってしまったのだろう。


 ある日、同じ髪型をしている双子をみかけた。これだ、と確信したなあ。私はその夜すぐ行動に移した。寝静まった妹がいる部屋に侵入して(前に鍵をこっそり複製しといてよかった)気づかれないように髪の毛を私と同じ長さに切ってあげた。


 次の日の朝、妹の金切り声で私は目が覚めた。

「なんで、なんで、なんで!」ってうるさかったけど殴ったら泣き止んでくれた。こういう聞き分けの良いところが私は本当に好きなのだ。


 でも妹はそれから泣いてばっかりで部屋から出ない日が続いた。せっかくお揃いの髪型にしたのに。学校もいかないなんて悪い子。


 ペアルックじゃまだ足りないのかもしれない。それに気付いたのは妹が引きこもって三日目のことだった。見た目が一緒でもダメなら、私と妹は真の意味で一緒にならなければならないのだ。必要なステップがあったんだ。


 私は鼻歌混じりにスキップしながら妹の部屋へ向かった。ドアを開けると怯えきった妹の目。可哀想に、これからは私がそばにいてあげるからね。


 妹は私があげたTシャツじゃないものを着ていたのでそれはきちんと脱がしてやった。私も脱いで産まれたままの姿になる。


 ちょっと違うところがあるから残念だけどこの際目をつぶっちゃおう、これもある意味ペアルック。そう言って笑いかけたら、妹は笑ってこういった。


「お揃いがそんなに好き?だったら私がお揃いにしてあげる」


 いつの間にか妹は手に包丁を握りしめてた。危ないから仕舞いなさいと言ったけど、お揃いにしてあげると妹が言ったから私は任せてみることにした。

 だって妹がついに想いを口にしてくれたのだ。ペアルックになりたかったんだね、やっと素直になってくれたんだね。私は泣きながら妹に近づいたその時、聴いたことない音が私の身体から鳴った。



 妹が持つ包丁は真っ赤に染まり、私の股間が、私の股間が、失くなってた。



「あ、え…あ…」

「ほら、これでお揃いだよーークソアニキ」


 ホントだね、と言いたかったけど私は身体を駆け巡るおぞましいほどの痛みに絶叫した。そうか、妹よ、こんなに痛かったんだね、それを伝えたかったんだろ。辛かったね、もう大丈夫私がついててあげるから。


 声にならない声を妹にかける。妹は笑ってた。よかった。私も笑い返してあげた。だってそうじゃないとペアルックにならないでしょ?




 やがて私の視界は光に包まれていった。

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