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グラスパ  作者: Lika
1章
8/23

子供

姫がクラウスによって王宮へ連れ戻された翌日。意地悪爺さん事ゼシルと連隊の隊長の一人、サリス・ハートは姫の寝室の前まで来ていた。


「サリス殿……儂が言いすぎたら止めてくださるかの?」


「は?! ぁ、は、はぃ……ゼシル様……」


相変わらず怯えるような態度のサリス。そのままドアをノックすると中からリュネリアが応対し、寝室の中に二人は入る。ベットの上で上半身を起こし、窓の外を眺めているシェルス姫。二人が近づくとゆっくり振り向く。その顔は今にも泣きそうだった。

 リュネリアが二人に椅子を用意したが、座ったのはゼシルのみでサリスはオドオドしながら立ったままである。


「さて……姫様……昨日の騒動についてお話を伺いたいのですが……」


 サリスに止めてくれと言った物の、今回の姫の行動は明らかに軽率で愚かな物だった。普段は温和なゼシルも流石に、ナハトから聞かされた話と今回の騒動で頭に来ていた。ゼシルは細い目で姫を見据えながら出来るだけ穏便にすまそうと髭を摩りながら話しかける。


「申し訳……ありませんでした……」


 姫が頭を下げながら謝る。ゼシルは立ち上がり、勢いよく姫の顔を平手打ちした。


「な!! ぜ、ゼシル様?!」


リュネリアがゼシルに飛びかかろうとする。それを止めるサリス……ゼシルの事を睨みつけるリュネリアをなだめながら、椅子に座らせた。


「なぜ殴られたのか……お分かりですかな、姫様」


普段、ナハトやウォーレンと面と向かって話す時以外は温和なゼシルに平手打ちにされ、姫は思わず涙を流しながら……


「私のせいで……聖女が……死にました……」


ゼシルは再び椅子に座る。


「姫様、聖女は貴方の為に存在している。我々マシル、騎士のジュールも元を辿れば王家の為に存在していますが……近年、王家の血が薄れ残された王家は貴方と弟君二人のみ。それゆえに私を含め、ジュール、マシルの幹部の大部分は王家の事を「お飾り」だと考えていますのじゃ」


サリスが、ゼシルを怪訝な顔で見る……もちろんここにいるサリスは王家の事を「お飾り」とは見ていない。むしろ騎士として仕えているのだ。お前と一緒にしないで欲しいとサリスは思うが……


「ですが姫様、ここいるリュネリアを含め聖女は全くの別物ですぞ。この聖女達はこの国の数少ない中立の立場。じゃが儂らのせいで立場は低いと思われがちですが、王族の護衛という大命を帯びています。それゆえに、姫様の命令ならなんでも聞くよう教育されている。姫様が死ねと言えば、ここにいるリュネリアは迷うことなく自分の喉に剣を突き刺しますぞ」


ゼシルの言葉を泣きながら聞くシェルス姫。あの時、リュネリアの部下である聖女に頼んだのだ。秘密裡に私を連れだしてバルス島へ連れてって欲しいと……だがしかし、その聖女はまだ外界を知らなかった。街の中で育ち、ひたすら教会へ通い勉強し、聖女という職についた新人だった。


「それゆえに、貴方は自分の言葉がどれほどの重みがあるのかを……」


サリスがシェルス姫にハンカチを渡しながら、ゼシルに目配せする……老人は咳払いをし……


「姫様、ナハトから聞いたのじゃが………なぜバルス島へ行きたいのじゃ…?」


いつもの調子に戻そうとゼシルは無理やり口調を戻す。シェルス姫はサリスから受け取ったハンカチで涙を拭きながら、ゼシルの問いに答える


「謝りたいのです……バルス島の騎士団の方々に……」


リュネリアとサリス、そしてゼシルは驚きを隠せず、思わず3人で顔を見合わせた。


「なぜ……姫様が謝る必要がありますのじゃ……」


ゼシルは恐る恐る姫君に問う。この後の言葉で自分は心臓を止められるのではないかと本気で心配しながら


「私が……拷問を受けている最中……一人の騎士の方が私の元へ来られました……その方は私に涙を流しながら謝られたのです……何も出来ない無能な騎士団を許してくれと……」


バカな……とゼシルは思う。それで? とゼシルは姫君に続きを催促する。


「それで……私はその騎士の方に……言ってしまったのです……貴方は、何も出来ないのに……ただ自分の為に私に謝りにきたのですかと……」


全くその通りだと3人は頷く。


「でも……次の日……ブラグ高官は……その騎士の首を私の前に……」


「バカな!」


勢いよくゼシルは立ち上がる。姫君の事も頭に来ていたが、ブラグの行動で頭の血管がとうとう切れてしまった。


「ゼ、ゼシル様……これ以上は……」


息を乱しながら歯ぎしりするゼリスをサリスは一度出直そう、とゼニスに促す。


「で、では……今日はこのあたりで……ひ、姫様……」


今後は騎士を頼りにしてくれと言いかけたサリスは口ごもる。今さらそんなことを言ってどうするのだ。姫が拉致されて何もしなかった自分たちが今さら頼られるわけがない。今回の姫様の行動は自分たちにも原因が……いや、むしろ私達のせいだ……とサリスは一人思う。

 そのままサリスとゼリスは寝室を出る。


「サリス殿……感謝いたしますぞ……あのままじゃったら儂は血管が千切れてぶっ倒れておったわ……」


は、はぁ……とメガネを直しながらゼシルに相槌を打つサリス。


「ブラグめ……いや、ブラグもだがオズマだ……あの男は、この事を知っておるのか? いくら主とはいえ、部下の騎士を殺されて黙ってる男ではないはずじゃが……いちいち人をイラつかせおる……」


それだけ言って、ゼシルは王宮からマシル側の大聖堂へと帰って行く。

サリスもジュールの大聖堂へと戻る。すると渡り廊下の先にイリーナがサリスを待っていた。


「サリス隊長……」


「ほえ?! い、イリーナさん……ど、どうしたんですか?」


まさか声を掛けられるとは思ってなかったサリスはビクビクしながらイリーナに応対する。


「姫君はどうでしたか? また、やらかしそうな雰囲気なら……」


サリスはイリーナが言いたい事を察して……


「い、いえ……その心配は無いと思います……ゼシル様に……こっぴどく説教されましたから……」


流石……とイリーナは思う。そしてサリスは昨日、イリーナから渡された記章を出し


「この記章は……イリーナさんが弔ってあげてください……聖女達はただでさえ……ああいう性格ですから……」


イリーナは頷くと記章を受け取る。


「それにしても……なんで姫を発見した手柄を、そ……その、クラウス隊長に譲ったんですか……?」


イリーナは記章を懐に入れると、サリスの問いに答える。


「まあ……私も疲れてましたし……それに奴くらいですよ、堂々と姫の前で騎士が出来るのは……」


あぁ……とサリスは納得してしまう。自分と同じ事を、イリーナも思っているんだと……

そのままイリーナはサリスと別れ、鎧を脱いで街に向かう。いつか酒場に着て行ったワンピースで。

 サリスから魔物に食われた聖女の実家を教えられていた。ジュール側のごく普通の家庭だった。父親も母親も健在……弟が3人と子だくさんだった。イリーナはその夫婦を呼び……扉の前で自分が来た理由を話した。夫婦はその場で崩れるように泣いた……。イリーナは慣れていた。このあと騎士が無能扱いされ、自分の名前を名乗ると「お前が醜い女騎士か」と言われることに。実際今回の件は騎士が原因だ。私達が姫に信頼されていなかったのが原因なのだ。しかし母親は


「娘は……姫様を守ったのですね……」


 その一言にイリーナは目を見開いて母親を見た。自分の娘が魔物に殺された(食われたとは伝えてなかった)というのに、なぜそんな考え方が出来る……と。


「これは……娘さん……聖女が持つ記章です。」


と、記章を手渡す。家主は握りしめながらイリーナにお礼を言い、ゆっくりと家の中へと戻っていく。


 簡素な住宅街を歩きながら、イリーナはショックだった。罵られるかと思っていたからだ。お前たち騎士は誰を守るために居るんだと。なんの為に存在しているんだと。娘を返してくれ、出来なきゃお前達に用はないと。

 しかしさっきの母親はなんだ。娘が魔物に殺されたと伝えても罵るどころかお礼を言い、娘が王家に……自分の国に殺されたと言っても過言でもない今回の事態で、娘の功績をたたえる発言をして……

 いや、それでも心の中では悔しいだろう、当たり前だ。自分が腹を痛めて産んだ子供が死んだのだ。そんな簡単に割り切れない。イリーナは自分の腹を押さえながら思う。


 もし……私が、あの子が死んだと言われたら……あの子が自分の知らない所で殺されて、他人に話だけを聞かされて……あんな事が言えるだろうか。





「シェルス……」







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