ホムンクルスの箱庭 第3話 第9章『ヌル』 ②
今日も何とか更新です~(*´ω`)
明日はいつも通りにお昼の12時に更新予定です♪
「おまえの中に連れ去られた『紅音』は返してもらう!
兄さん、騙されちゃだめだ。あいつは家族とかそういうんじゃない。
気を強く持ってくれ!
兄さんの気持ちがここでぶれてしまったら、僕たちは幸せになれない!」
「ツヴァイ・・・」
色あせた写真と目の前のヌルを見比べながら、アインは心の中で葛藤していた。
正直、現状にまだ思考がついていっていなかった。
「犬・・・どうするの?」
どこか不安げに見つめながら、ドライが尋ねてくる。
「僕は・・・」
自分がしっかりしなければ。
そう思った瞬間、ようやく思考が動き始める。
ヌルとツヴァイ、今の自分はどちらの言葉になら賛同できるのだろう?
そうだ、考えるまでもなくそんなことは決まっていた。
「・・・そうだね、ツヴァイ。
互いを支え合って生きてこそ家族だ!僕が守るべき家族はここにいる!!」
「アイン、おまえも俺を独りにするのか?」
「ヌル・・・いや、兄さん、ほんの少しだけど思い出したよ。
さっきツヴァイが言ってくれた通り、家族っていうのはそういうものだ。
だからもし兄さんが家族がそういうものだってわかってくれるなら、僕は喜んで兄さんと一緒にいるよ。
僕だけじゃない、他の皆だって一緒に家族になれる。」
「おまえは本当に変わらないな。」
くすっと笑ったヌルは、少し離れた場所で立ちつくしているソフィとアハトの方にも視線を送った。
「ああ、そういえば家族のことばかりで、おまえのことを忘れていたよソフィ。」
「え・・・?」
唐突に名前を呼ばれて、ソフィは訝しげな表情をした。
自分とヌルは初対面のはずだ。
それなのに、なぜ彼は自分の名前を知っているのだろう。
「おまえのおかげでいろんな物を見ることができた。」
「待って?何を言ってるの?」
「俺は使い心地のいい駒は、嫌いじゃないって言ってるんだ。」
にや、と笑ったその姿を見てソフィの全身をぞくっとするような寒気が襲った。
先ほどの第4層への階段を見た時と同じ感覚に、ソフィは思わず足がすくみそうになる。
「おまえは本当にいいように動いてくれたよ。
それを証拠に全員無事にここに連れてきてくれた。」
「な・・・っ!」
「だが、もう終わりでいいな。
ここにこうして全員集まったんだ、おまえは用済みだ。」
距離は離れているのに、なぜか無造作に手を伸ばされただけで身体が動かない。
「あ・・・あ・・・っ!」
声を出すこともできずにソフィが立ちすくんだ時だった。
どこからかまばゆい光線が放たれヌルの片腕が吹き飛んだ。
「くるっぽーっ!!」
実験場の中を、いつの間にか白い鳩が飛びまわっていた。
「ユウ・・・!?」
ソフィがその名前を呼ぶと鳩は、フィーアの肩に止まってびしっとポーズを決める。
「へえ、驚いたな。NO.7・・・ズィーベンもここにいたのか。」
腕が吹き飛んだこと自体には特に関心がないらしく、ヌルは興味深そうにその鳩を見た。
「え・・・!?」
「ズィーベンって・・・」
ソフィとツヴァイが驚いたような表情でそちらを見つめると、鳩は鳥らしからぬ動作でフッとため息を吐いた後。
「いつから俺がただの鳩だと錯覚していた?」
ワイルドな口調で語り始めた。
「「しゃべったー!?」」
その場にいたヌルとフィーア以外の全員が驚きの声をあげる。
無理もない、鳩がしゃべる上にナンバーズの中にさりげなく混じっていようとは、誰も考えつかなかった。
「俺のビームが火を噴くぜ。俺のことを忘れてもらったら困るなヌル。」
ばーっさばーっさと羽ばたきながらかっこつける鳩、もといズィーベンだったが、その姿はどこからどう見ても見紛うことなくただの鳩だ。
「こいつらには恩がある。倒すなら俺からにしてもらおうか。」
「ユウ、おとなしくそうちゃんの中に戻りなさい。ユウはアイたちを守ってあげなきゃ。」
「うわっ!何をするフィー・・・」
肩に止まっていた鳩をわしっと掴むと、フィーアはそのままそうちゃんの中にしまい込んだ。
「なるほど、そのぬいぐるみの中には、そこのコピーが作った空間があるんだったな。」
「どうして、そのことを・・・!?」
「何を言ってるんだソフィ、おまえの見ている物、知っているものを俺が全部知っているのは当たり前のことじゃないか。」
「さっきから何を言ってるの!?それじゃあまるで私が・・・!」
「スパイはおまえの得意分野だろう?」
「違う・・・っ!そうだけど、私はあんたのためなんかにスパイした覚えはない!!」
ソフィとそんな会話をしている間にも、ちぎれたヌルの腕から新しい腕が生えてきた。
そして、床に落ちた腕の方はドロッとした形状のスライムのようなものになり床に溶けていく。
その様子を見たソフィが呆然とつぶやいた。
「あ・・・そう、だ。私、今のを見たことがある・・・」
フラッとよろけたソフィの前に立ったアハトが、無言でヌルと対峙した。
「前にも、私・・・っ!」
「おまえがそういう風に思いだせないなら、俺が思い出させてやろうか?
そうだな、おまえが今までどんなふうに役に立ってくれたかを、ここで再現して見せようか。」
「ソフィしっかりしろ!あんなやつの言葉に惑わされるおまえじゃないだろう!?」
振り向きながらしっかりとこちらを見て言ったアハトの姿が、だんだん遠くなって行くようにソフィには感じられた。
うつろな瞳をしたまま、ソフィはトンっとアハトにもたれかかる。
その手にはいつの間にか小ぶりだがナイフが握られていた。
それはソフィが護身用として持ち歩いていたものだ。
そして、ナイフはアハトをマントごと貫き、その腹部に刺さるはずだった。
ところが・・・
キイン・・・っ!
金属同士がぶつかるような固い音がして、アハトがソフィの頭を撫でながら言った。
「ん?どうしたんだソフィ、いきなり眠くでもなったのか?」
「え・・・?あれ?」
「大丈夫か?」
「私・・・」
我に返ったソフィの手からナイフがカランっと床に落ちた。
「私・・・なに、したの・・・?」
震える声で尋ねるソフィに、アハトはにやりと笑いながら言った。
「さあ、何したんだろうな?俺は寄りかかられただけだから、まったくわからなかったが。」
「アハト、その身体は・・・?」
「どうした鳩が豆鉄砲でも食らったような顔して。俺が人間だった頃のことでも思い出したか?」
言いながらアハトがバサッとローブを下に落とすと、その姿が皆の目の前にさらされる。
長い黒髪に黒い瞳の40前後の男性・・・皆が初めて見るアハトは素顔は人間そのものだが、服のないところから見える素肌は金属製の機械人形の物だった。
「どうした?俺の顔を忘れたわけでもないだろうソフィ。」
「あ・・・ああ・・・っ!!」
アハトは普段からローブを目深にかぶって顔をさらすようなことはしなかった。
だが、初めて見るはずのその顔にソフィは確かに見覚えがある。
「アハト・・・あなたは・・・っ!」
その姿を見た瞬間にソフィは全てを思い出した。




