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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第1話 第2章『ナンバーズ』 ③

※6月3日に文章の整理をしました。


「みんなー!一緒に泳ごうよ、水が冷たくて気持ちいいよー!」


 流れる水の音に負けないくらい大きな声で叫んでから、アインが川に飛び込んだ。

 森の中に馬車を止め、一行は川辺で休憩しているところだ。

 あれから数日の間馬車で移動し、山脈のある村まではあと少しでたどり着く予定だった。


「あんな風に飛び込めるのはアインくらいよね・・・って、冷たっ!?」


 苦笑しながらソフィは足だけを水につけようとしたのだが、ピリッとするような冷たさが指先に触れて思わず足を引っ込めてしまう。

 山脈を通って流れてくる川は水が冷たく、とてもではないが泳げそうにない。

 身体が丈夫なアインならともかく、他のメンバーでは風邪をひいてしまうだろう。


「ツヴァイ、このお水すごく冷たい~。」


「フィーア、落ちないようにね。楽しいかい?」


「うん!」


 隣ではフィーアが川の水に触れているのを、ツヴァイが見守っていた。


「お魚さんいるかな~?」


「冷たいけれど綺麗な川だからね。たくさんいると思うよ。」


 実験体として施設に半ば閉じ込められているような状態だったアインやツヴァイ、フィーアには川遊び一つとっても貴重な経験なのだろう。

 アインは夢中で泳いでいるし、水に触れているだけだというのに、フィーアはとても楽しそうに見える。


 ここしばらくツヴァイの身体を治す方法を探して、あちこちに飛び回る機会も少なくはなかったのだが、それでもこんな風にのんびりする機会などなかったので、ソフィとしても改めて平和をかみしめる思いだ。

 もちろん、これが束の間の休息だということはわかっている。

 ツヴァイの身体を治すために、これから皆は竜と戦わなければならない。

 そして、それが叶えばきっと、今度はツヴァイがフィーアのことについて動き出すだろう。


 こんな風に5人がそろって旅に出るようになったのは、ちょうどフィーアが幼くなってしまった頃からだっただろうか?

 それ以前の彼女は、どこか物憂げで寂しそうだった。

 それからすれば、今の彼女は幸せそうにすら見えるのだが。


「・・・このままじゃいけないって、やっぱりツヴァイも思ってるでしょうね。」


 フィーアの様子がおかしくなってしまったことは、おそらく自分以外のメンバーも気づいているはずだ。

 それほどまでに、フィーアは変わってしまった。

 だが、ツヴァイがフィーアについて自分たちに話そうとしないのも、きっと何かしらの理由がある。

 フィーアを見つめるツヴァイの視線は、いつも優しいがどこか悲しげに見えた。


 きっと、今は言えないわけがあるのだろう。

 話してくれるその時まで、自分はいつまでだって待つつもりだ。

 それはきっとソフィ以外の家族の想いでもあるだろう。

 そんなことを考えながら視線を移すと、アハトはどうやったのかはわからないが、川の流れの中にある岩の上に仁王立ちをしていた。


「あれはあれで、楽しんでるんでしょうね。」


 そんな中、ソフィは空を見上げた。

 自分たちの世界はこんなにも平和なのに、それが仮初にしか過ぎないことを告げる物が視界に入る。

 鳩が一羽、森の中に下りて行くのが見えた。

 おそらく、馬車が停めてある方に行ったのだろう。


「ごめん、私ちょっと馬車に物を取りに行ってくるわ。」


 軽い口調で言って立ち上がると、ソフィは馬車に移動する。

 思った通り、そこには白い鳩が止まっていた。


「・・・やれやれ、けっこうしつこいわね。」


 馬車の発信機は壊したというのに、連絡用の鳩はこうして自分のところに来てしまった。

 それだけではない。


「やっぱりつけてるわよね。」


 鳩の足には発信機がつけられており、ソフィは慌ててそれを外した。

 ついでについていた手紙に目を通すと、施設が何者かによって爆破されたことは向こうの派閥にもすでに伝わっており、それに関わっているなら報告書をよこすようにと書かれている。

 組織と縁を切ることを決意したソフィだったが、際限なくやってくる催促にそろそろうんざりし始めていた。


「私はもう、あんたたちとは関わらない。」


 呟くように言って手紙を握りつぶすと、ソフィは困ったように鳩を見る。


「この子・・・どうしようかしら。」


 このまま帰してしまえば、こちらの場所を知らせる手がかりになってしまうかもしれない。

 かといってこの前のように始末しようとすれば、きっとフィーアは悲しむだろう。

 途方に暮れていると、いつのまにかアハトがこちらに歩いてきた。


「無用な殺生はやめておけ。」


「アハト・・・」


 メンバーの中でも、彼とは特に長い付き合いだ。

 いつも何を考えてるのかわからないところと、グレネードをこよなく愛しているという部分を除けば、これで結構頼れる男なのだが。


「なんだ、組織から連絡か。」


「・・・やっぱり、あんたには分かっちゃってたんだ?」


 自分があちらの派閥と連絡を取り続けていたことは、アハトにばれていたらしい。


「そりゃあまあ、他の連中よりはおまえとの付き合いは長いからな。」


「まあね・・・私たち全員家族みたいなものだって言ったって、私たちとあの子たちじゃあ、やっぱり属していた派閥が違うしね。」


「だが、そうやって迷っているということは、もう向こうと連絡を取るのはやめるつもりなんだろう?」


「そこまでお見通しとは恐れ入ったわ。

 じゃあついでに、この子をどうしたらいいか相談に乗ってくれる?」


 鳩を差し出すと、アハトはやれやれというように肩をすくめた。


「ユウと同じように、フィーアのぬいぐるみの中にでも突っ込んでおけばいい。」


 ユウというのはこの前の白い鳩のことだ。

 今では名前までつけられて、ぬいぐるみの中で快適な生活をしているらしい。

 昼の12時になると決まって鳩時計のように出てくるのが不思議で仕方がないのだが、それ以上に不思議なことがある。


「・・・あのぬいぐるみは、なんなのかしらね?」


 フィーアはツヴァイがプレゼントしてくれたと言っていた。

 おそらくは、ツヴァイの能力に関係しているのだとは思うのだが。


「余計な詮索はやめておけ。あのぬいぐるみの中身なんて、考えるだけ無駄だぞ。」


「それもそうね。」


 実験体として作られたアイン、ツヴァイ、フィーアは、普通の人間にはない特殊な能力を使うことが出来る。

 今のところそういった能力に関して目の当たりにする機会はあまりないので、実際にどんな能力なのかは想像することしかできない。


 同じく、賢者の石の力に関しても謎な部分が多く、組織でもほとんど解明されていないのが現状のようだ。

 つまり、想像の余地すら与えられない。

 その上、当事者であるツヴァイはいつも笑ってごまかしてばかりで、本当のことは語ろうとしないので、調べようもなかった。


 そんなことをしていると、12時になったのかユウがこちらに飛んできた。

 そしてソフィの持っている鳩を見ると、いきなり求愛ダンスを始める。


 くるっぽー!くるっぽー!


 いきなり辺りが騒がしくなってしまった。

 それを見て苦笑したソフィは。


「仕方ないわね、ユウのお嫁さんにでもしてもらいなさい。」


 2羽の鳩を肩に乗せて、3人のいる方に移動することにした。


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