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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第3話 第8章『歪んだ愛情』 ④

今日も何とか更新で~す(*´ω`)


『怖いよ、たすけて・・・おにいちゃん、おねえちゃん。』


 フィーアがヒュドラへの精神干渉で真っ先に耳にしたのはそんな声だった。

 その声に、フィーアは耳を塞ぎたくなる。

 こういった声を、ずっとずっと聞いてきた気がする。

 子供たちが助けてと泣き叫んでいる声を。


「う・・・」


 思わず逃げてしまいたい衝動に駆られるが、なんとかその場に踏みとどまった。

 自分を守ってくれているツヴァイやソフィ、アハトの思いを無駄にするわけにはいかない。

 ヒュドラが邪魔で見えないが、アインとドライも今頃は施設長たちと戦っているはずだ。

 

 もう一度気持ちを落ち着けて干渉を試みる。

 子供たちの声のもっと奥にある、紋章陣が子供たち与えている影響、しいてはその本質を見極めなければならない。

 対象に触れられればもっと効率的にできるのだが、今の状態でそんなわがままを言っている場合ではないのはわかっている。


 どうして自分が紋章術についてのことが分かるのかはわからない。

 竜の宝玉を取り出した時もそう、勝手に身体が動いていた。

 紋章術というものをよく知らないまま、ツヴァイの儀式のときにもその形を維持する方法が分かった。

 アハトの研究室で賢者の石に関する紋章術を見た時に、それがアハトが言っていたとおりに不完全な代物であることもわかってしまった。


『たぶん・・・私は紋章術をずっと昔から知っている。』


 曖昧な記憶の中に、時々、微かに何かの形が浮かんでくる。

 だが、それを思い出しそうになる度に、どうしようもない恐怖に駆られた。

 思い出すことによって、何か大切なモノが壊れてしまう・・・そんな気がして。

 紋章術に触れる度に、その記憶は鮮明になっていく気がする。

 今回もきっと、この紋章術に触れればその記憶の断片に触れることになるだろう。

 それはとても怖かった。


 でも・・・


「フィーア、安心してね。

 君が頑張っている間、奴には指一本触れさせやしない。

 無理もしなくていい、もし駄目でも僕が他に何か考えるよ。」


 ツヴァイは優しく微笑んでそう言ってくれる。

 そんな彼のために、自分は何かがしたい。

 いつからかそんな風に強く思うようになっていた。

 たぶん自分は・・・彼のことが好きなのだ。

 好き、という言葉がどこまで正しいのかはわからない。

 だって、自分は姉であるドライのことはもちろん、アインのこともソフィのこともアハトのことも好きなのだから。


「大丈夫!がんばる!!」


 ただ、彼のためにがんばりたい。

 もちろん、皆のためでもあるのだが、ツヴァイのために何かがしたい。

 そんな思いに突き動かされて、フィーアはヒュドラを介して紋章術に干渉する。


 その時だった・・・思いもよらぬ感情がフィーアの中に流れ込んできたのは。


『いいのかい?ジョセフィーヌ・・・君は、後悔しないのか。』


 それは、施設長とその夫人の・・・アインの言うところの両親の記憶と想いだった。




「何を後悔すると言うの?」


 機械を操作し、薬品によって実験場の床に巨大な紋章術を描きながら尋ねた父親に、母親は不思議そうに首を傾げた。


「子供たちを使ってアインたちをおびき寄せるのはいいが、紋章術なんかを使ったら取り返しがつかなくなるかもしれないよ。」


 それに対し、母親は大きなため息をつく。


「あなた・・・何を言っているの?今更でしょう、私たちがこれまでしてきたことを考えれば・・・」


「そうじゃない。」


 母親の言葉を遮って、父親は首を横に振りながらこう言った。


「私たちは今まで、最小限の犠牲を払うことでいろいろなことを潜り抜けてきた。

 子どもたちを守るためには、そうするしかなかったからだ。

 だが・・・今回は違う。この犠牲の必要性を君は感じているのかい?」


 うつむきがちに尋ねた父親に、彼女はにっこりと微笑む。


「クリストフ・・・あなたまでアインたちに影響されてしまったのかしらね。

 私がこれまで実験に関して最小限の犠牲で済ませてきたのは、最終的にあのお方に捧げられる糧が少しでも多いほうがいいと思ったからよ。

 アインたちのためなんかじゃない。あのお方のためなのよ。」


「ジョセフィーヌ・・・君があのお方、いや、あの子に固執してしまう気持ちは分かる。

 あの子が君にとって、とても大切な存在だということも。

 だが・・・あれは本当にあの子なのかい?」


 その質問に、母親は顔をしかめてツカツカと父親に近づくと、その頬を平手で打った。


「・・・当たり前でしょう?何を言っているの。

 あの方は私たちの知っているあの方以外にあり得ない。

 そして、この世界の全ての生物の完成形になれるお方なのよ。」


 頬を押さえ、しばらく黙ってジョセフィーヌを見つめていたクリストフはふっとため息をついてから頷いた。


「わかった・・・君がそこまで言うのなら、私はこの紋章術を完成させよう。」


「ええ、それでこそ私の夫だわ。」


 そう言って母親は父親に近づいてそっと耳打ちをした。


「・・・ちょっとだけ細工をしてちょうだい。」


「細工、かい・・・?」


「ええ、あのお方にわからない程度に・・・」


「ジョセフィーヌ、君は・・・!?」




「ツヴァイ、分かった!」


 間接的に両親の精神に干渉したフィーアは、ようやく紋章陣の仕組みを理解することがに成功する。


「そうか、どういう感じなのかな?」


 気づけば、アハトとソフィがヒュドラの気を引いてくれていた。

 だが、それも長くはもちそうにない。

 それに気づいたフィーアは慌ててツヴァイに説明を試みる。


「あのヒュドラはまだ完全な実体じゃないみたい。」


「実体じゃない?僕にはあれは物理的に攻撃しているように見えるけれど・・・」


「うん、でもあれは実験が完全に終わったわけじゃなくて、本当は子供たちの命と引き換えに物質化するところだったのを、あの紋章陣の中だけにとどめているの。」


「なぜ、彼らはそんなことを?」


「・・・たぶん、アインが思っていることが正しいから。」


 フィーアの言葉に、ツヴァイは一瞬、眉をしかめる。

 確かに兄は出発の少し前に、あの2人が本当は子供たちで実験など行いたくはないのだと言っていた。

 そして、自分が2人を止めてみせるとも。


「・・・彼らに、本当にそんな気持ちが残っているっていうのか。」


 俄かには信じられないことだ。

 少なくとも彼らは、これまで自分たちに対して実験を強要してきた。

 今更それが、仕方なくやっていたことだと言われても納得できるものではない。 


「あのね、頭上にあるあの紅い水晶、あれによって紋章陣で造ったものを実体化しているみたい。子供たちは、水晶に力の一部を奪われている状態なの。

 でも、もともと水晶がエネルギー源になっていて、今は子供たちにそれほどの影響は出ていない。」


 つまり、水晶にあらかじめ込められていた魔力や生体エネルギーによって紋章術が維持されている状態らしい。

 見ただけでは子供たちがヒュドラを維持するためにエネルギーを奪われているように見えるが、実際のところそれを維持しているのはあの水晶ということだ。


「なるほど・・・ヒュドラを維持しているのは今はあの水晶ってことだね。

 なんでそんなことをしたんだろう?まるで時間を稼ごうとしているみたいだ。」


 もちろん、水晶のエネルギーが尽きれば、次は子供たちが力を奪われることになる。

 時間が経てば結局のところ子供たちは死ぬことぬなるが、今すぐというわけではない。

 紋章術を使って大規模な実験を行ったにも拘らず、なぜそんな回りくどいことをしているのか。


「うん、あの人たちは・・・たぶん、アインに止めてほしいんだと思うの。

 自分たちがしていることを、自分たちでは止められないから。」


「兄さんは、それを初めからわかって・・・?」


 ツヴァイや他のメンバーと違い、これまでアインは施設長と夫人に対し本当の子供のように接してきた。

 そんな中で、彼にしかわからない何かがあったということなのだろうか?


 それとも・・・


「兄さんが望んだとおりに、子供たちだけでなく彼らまで何とかする方法があるっていうのか?」


 何とも言えない違和感を覚えながらも、ツヴァイは自分を納得させる。

 今は、そんなことを考えている場合ではない。

 自分たちに出来るのは、紋章術を止めることだけだ。

 施設長たちに関しては、アインが約束を果たすだろう。


「ありがとう、フィーア!

 アハト、ソフィ!おそらくは、あの水晶を砕くことで子供たちから力を奪うことを止めさせられるはずだ。」


 紅い水晶は紋章術の維持と、子供たちからのエネルギーの供給を目的として造られているようだ。

 ならば、それを破壊すれば子供たちを助けることは出来るはず。


「了解した!」


「わかったわ!!」


 2人は大きく頷くと、目標をヒュドラの頭上にある紅いクリスタルに変更する。


「私たちも手伝おう、ツヴァイ!」


「うん、一緒に行こうフィーア!」


 紋章陣を止めるために、ツヴァイとフィーアも行動を開始した。


次回の投稿は月曜日となります(`・ω・´)

よろしくお願いします♪

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