ホムンクルスの箱庭 第3話 第8章『歪んだ愛情』 ②
戦闘開始です(。>д<)
「く・・・!?」
アインが背後を振り向くと、巨大な紋章陣から何かが出てくる様子が見えた。
それは見る間に膨れ上がり、天井ぎりぎりの大きさまでその長い首をもたげる。
ギャオオオオオ!!
八つの首を持った巨大な竜が一斉に咆哮を上げて、空気がびりびりと振動した。
「ちょ、ちょっとお・・・何なのよあの化け物!?」
「あう!」
ドライが驚いたように目を見開き、フィーアも竜の雄叫びに思わず耳を塞ぐ。
「8本首の竜・・・!?まさか・・・ヒュドラ!?」
ツヴァイはすぐに思い当たるものがあったらしく、その名前を叫ぶ。
「厄介なものを呼び出しやがったな。」
アハトがちっと舌打ちをして、懐から取り出したグレネードを投げつけようとする。
しかし・・・
「あら、いいのアハト?そのヒュドラの生命力は子供たちと繋がっている。
殺せば子供たちも一緒に死ぬわよ?」
「な・・・っ!?」
見れば、術者用の紋章陣が淡い光を放ち、子供たちの身体を包み込んでいた。
「母さん!もうやめてくれ!!」
「アイン、ほら、遊びましょうよ?
大丈夫よ、すぐにみんな同じ場所に行けるんだから。」
望まぬ戦闘は始まってしまっていた。
背後では皆がヒュドラとの戦いを繰り広げている。
しかし、子供たちの命がかかっているためか、防戦する一方になってしまっているようだ。
皆を助けるためにも、子供たちを助けるためにも、今は自分が両親と戦う以外の方法はない。
ようやく、そう決心したアインは刀を抜き放ちその切っ先を母親に向ける。
「母さん・・・僕は戦わなければならない。
本当は戦いたくなんてないけれど、止めないと、後悔するのは母さんたちだから。」
「後悔?どうして私が後悔なんてするのかしら。」
まるで思い当たることがないと言うように母親は首を傾げた。
「僕たちへの・・・子供たちへの母さんの愛情が、全てあのお方ってやつのためだったなんて僕は信じられない。」
「あらあら、そう思うのなら大人しく従ってちょうだいな?」
「父さん!このまま母さんが狂っていくのをあなたはどうして止めようとしないんだ!?」
それに対して、父親はにこにこと穏やかな笑みを浮かべながらこう言った。
「ジョセフィーヌが望むことが私の望むことなんだ。
彼女がそれを成し遂げようとしている以上、私にそれを止める理由はないよ。」
「く・・・っ!」
少なくとも、今の状況で2人に話を聞いてもらうのは無理そうだ。
「ならば・・・僕が2人を止めてみせる。
僕には2人が本当にこれを望んでいるようには思えない。
父さんも母さんも、自分のついてきた嘘に騙されているだけなんだ!!」
2人はきっと、今まで何かしらのどうしようもない状況に置かれて決断を迫られてきた。
その度に自分を騙して納得させる以外に、方法がなかったに違いない。
そして、ついにはその嘘を本当だと信じ込んでしまった。
「僕が父さんと母さんを助けてあげる!
これが僕が初めてできる2人への親孝行だよ!!」
言葉と同時に走り出し、間合いを詰めてまずは母親の手にする銃を刀で弾こうとする。
だが・・・
「おやおや、ジョセフィーヌを傷つけることは許さないよ?」
「な・・・っ!?」
その目の前に、父親が割って入った。
アインの刀は目測を逸れて、必死に止めようとしたものの間に合わずに彼の肩を切り裂く。
「父さんっ!?」
「ぐ・・・っ!」
切り裂かれた肩を押さえて、父親はにっこりと微笑んだ。
「いやあ、強くなったねぇアイン。」
「く・・・」
出来るだけ傷つけずに止めたかったのだが、どうやらそれは無理らしい。
「ご、ごめん、父さん・・・でも、僕は2人を傷つけてでも止めたいんだ!!」
「謝る必要などないよアイン?」
「・・・!?」
アインの目の前で、父親が肩を押さえていた手を放した。
そこには、白衣が破れている他は血の一滴も流れていない。
アインの刀は確かにその肩を切り裂いたというのに。
「ほら、ジョセフィーヌへの私の愛はこんなことでは傷一つつかない。」
「・・・よくやったわ。クリストフ。」
母親の言葉に、父親は心底嬉しそうに頷く。
「ああ、約束しただろう?
君が倒れるその時まで、私は決して倒れることは無いよ。」
「そうね、そういう約束であなたと一緒になったわ。」
「そうだとも。今こそ僕の愛を確かめてくれ、ジョセフィーヌ。」
「無駄な抵抗はおよしなさいアイン・・・わからない?」
それには答えずに、母親は銃をアインに向けると。
「あの施設を抜け出したその時から、あなたたちの運命は決まっていたのよ。」
その引き金を迷うことなく引いた。
「ツヴァイ!!」
「大丈夫だよ!」
ヒュドラの首が鞭のようにしなってフィーアとツヴァイを打ち据えようとした。
それに対してツヴァイは時空の歪を作ることで攻撃を受け流す。
ギュギギギギと固い金属質の鱗がこすれる音がして、寸前のところで攻撃が逸れた。
「ソフィ避けろ!!」
アハトの声にソフィがその場から大きく飛び退る。
それまでソフィがいた場所をヒュドラの首が打ち付けて、床の石畳が砕け散った。
「さあて、どうするかな。」
さすがにグレネードを使うわけにもいかず、アハトは様子を覗う。
「せめて、この紋章術について何かわかれば・・・!」
ツヴァイもフィーアを守りながら厳しい表情を浮かべていた。
「さっきヒュドラって言っていたが、一体何なんだこいつは?」
「僕も伝承でしか聞いたことがないんだけれど、多頭性の竜で毒を吐くらしい。
まあ、こいつがそのものだとは限らないけれどね。」
「ふむ・・・まあ、毒なんぞ吐けばあいつらもお陀仏だからな。」
アハトがちらっと視線を送ると、施設長たちはアインと対峙していた。
「犬・・・っ!」
「アイン、大丈夫かしら?」
ドライもそちらが気になるらしく、ちらちらと視線を送っている。
ソフィも気にはしているようだが、こちらの状況を先にどうにかすべきだと考えているらしく、まだ動こうとはしていない。
「なあに、あいつも馬鹿じゃない。自分が今すべき事くらいは理解しているさ。」
どんなに戦いたくないと思っていたところで、現状それ以外の選択肢はない。
自分の意見をなかなか曲げられないところのあるアインだが、この状態で子供のように駄々をこねることが、家族を危険にさらすことぐらいはわかっているはずだ。
「・・・ツヴァイ、私が調べてみる。」
「調べる・・・って、紋章術に関してかい?」
「ん・・・分かる気がするの。」
フィーアがそう言ってヒュドラと紋章陣の方に向かって手をかざす。
「わかった。その間、僕が君を守るから。」
「うん!」
ツヴァイを信じるように、フィーアは目を瞑る。
そんな彼女を守るべく、ツヴァイはその前に立った。
「時間稼ぎか・・・わかった。俺も手伝おう。」
「私も、守ることなら手伝えるわ。」
2人の意図を理解したアハトとソフィも自分たちのできることをすべく動き出した。
そんな時だ。辺りに銃を撃つ音が響き渡ったのは。
「犬!!」
「アイン・・・!?」
「兄さん!?」
音がすると同時にドライが飛び出した。
うまい具合にヒュドラの首をかわしながら走っていった彼女の姿はすぐに見えなくなる。
「待ちなさい、ドライ・・・!?」
ソフィがそれを止めようとしたが、それよりも早くヒュドラの首がうねりながら突っ込んできた。
毎回のように言ってる気がしますが、戦闘シーンが苦手です(´;ω;`)
でも、頑張ります(。>д<)
なお、明日の更新は20時とさせていただきます。
よろしくお願いします(*´ω`*)




