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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第3話 第6章『地下施設への潜入』 ①

今日からまた金曜日まで頑張ります(*ノωノ)

 この街に来てから、少しだけ嫌な感じがする。

 うまく思い出せないのだけれど、以前、この街でとても怖い目に遭った。

 そんな気がしてならない。


ホムンクルスの箱庭 第3話 第6章『地下施設への潜入』 ①


「フィーア?どうしたの、大丈夫?」


「えっと、大丈夫。」


 心配そうに声をかけてくるツヴァイに、フィーアはごまかすように笑う。

 あれから皆で出発の準備を終え、これからマリージア錬金術研究所に潜入するところだった。

 そんな中、フィーアが不安そうにしていることに気付いたツヴァイが、彼女の頭を撫でて優しく微笑む。


「僕が守るから、フィーアはいつも通りにしていればいい。」


「うん!」


 ツヴァイの表情を見てほっとしたのか、フィーアはいつものように笑顔で頷く。


「それじゃあ、そろそろ出発するぞ。」


 アハトが地下室の壁にあったボタンを押すと、目の前にさらに地下に続く階段が現れた。


「ここは下水道につながっている。

 その中にアルスマグナの施設につながる入口があるんだが、そこまで俺が案内しよう。」


 話によると、昔、アハトが向こうとこちらを行き来するために使っていた通路らしい。


「あんたが先頭ね、じゃあこれを渡しておくわ。」


「おお。これは・・・!」


 ソフィが手渡したのは、小さな錬金灯がついているキャップだった。


「ちゃきーん!」


「か、かっこいい・・・!」


 アハトがふざけてポーズを決めると、キラキラした視線をアインが送っている。


「はいはい、どっかのマッドアルケミストみたいなポーズ決めないでいいから。

 っていうか、これから行く施設にいる確率が高いんだから、変なフラグ立てないでよね。」


 どこかのマッドアルケミスト・・・ナンバーズのNO.9であるノインは、これから行く施設に所属している。

 会う可能性は限りなく高い。

 そんなことを考えながらげんなりした様子で、ソフィは早く行くようにとアハトの背中を押した。


「おかしいな、ここにあったはずなんだが。」


 出発してから20分ほど歩いたところでアハトが足を止めたのは、何の変哲もない石造りの壁の前だった。


「つい最近埋め立てましたみたいな跡があるわね。」


 ソフィの言うとおり、そこには古い壁につなぎ合わせて真新しい壁が存在している。


「ちょっとお・・・早く私をここから出しなさいよね!」


 フィーアが抱きしめているそうちゃんからは、ドライの声が聞こえてきた。


「やれやれ、大人しくせんかい。」


「なによ!私がいればこんな壁一撃で壊せるんだからね!」


「で、でもドライ、ここはまだ暗いから・・・」


 同じくそうちゃんの中にいるグレイに対して強気に言ったものの、フィーアのその一言にドライは数秒沈黙すると。


「ま、まあいいわ。その程度、私が手を下すまでもなかったわね!

 そこの犬っころ、さっさと壊しなさい!」


 命令口調でアインにそう告げた。


「よし、任せてくれ!いくぞ、うおおおっ!!」


 連続で切り付けると、そこにあった壁が綺麗に砂になって音もなく下に積もった。

 

「さすが兄さんだ。これなら、誰かに気付かれたってこともなさそうだね。」


「音も出さずに破壊するとは、大したもんだな。」


「そうね、爆破しか能がないどこかの誰かさんと違ってすごいわね。」


 それを見て感心したように言ったアハトにソフィはにっこりと笑うと、先に進み始めようとしたところで足を止めた。


「そうだ、潜入する前にトラップや足音の対策に、全員に飛行魔法(フェアリーフライト)をかけるわね。」


飛行魔法(フェアリーフライト)?」


 尋ねたアインにいたずらっぽく微笑んだソフィの背に、水色がかった透明な翅が現れる。

 その場にいた全員の傍をソフィがふわっと飛んで回ると、光の粉が皆の体に降り注いだ。


「おお・・・!飛んだ!!」


 浮いたことに感動しながら、アインが自分の体を見回している。


「アハト以外にかけるのは初めてだったかしらね。

 シルフの翅にある魔法の粉には、生物を浮かせる力があるのよ。」


 くすっと笑うと、ソフィは翅を羽ばたかせてふわふわとその場に浮いて見せた。


「あう!」


「フィーア、僕の手を握って。」


 バランスを崩しそうになったフィーアの手をツヴァイが握り、アハトは慣れているのか無言で空中浮遊している。


「よし!これで少なくとも足音は立たないでしょう。」


「なんて素晴らしいんだ!

 アハトの場合は瞬間的に、ソフィの場合は継続的に空中を移動できるんだね!」


「アハトの場合は瞬間的に移動しているわけじゃなくって、爆風で吹き飛んでいるだけなんじゃ・・・」


 アインの好意的な解釈に、突っ込みを入れずにはいられないソフィだった。

 



 これといって飾り気のない石畳の床に同じ素材の壁、頭上には配管がむき出しになっている通路を、一行はアハトを先頭に進んでいく。


「フィーアもそろそろ慣れてきたかな?」


「うん、大丈夫なの。ありがとう。」


 最初、足元のおぼつかなかったフィーアも、手をつないでもらえばある程度は動けるようになってきたようだ。


「おお、見て見て!結構上の方まで飛べる・・・いたっ!」


 アインなどは高度を調整することにも慣れてきたらしく、天井付近まで飛んでパイプに頭をぶつけている。


「ほらほら、遊んでないで早く進むわよ。

 アハト、私たちは今はどこら辺を歩いているのかしら?」


「そうだな。廃棄された施設の地下を移動しているからはっきりとした位置はわからんが、

 そろそろ本施設に近いところなんじゃないかとは思う。」


 答えたアハトはどこかいつもより緊張した面持ちをしているように見える。


「・・・アハト、あんた大丈夫?」


「おまえこそ大丈夫なのか?」


「へ?」


 唐突にそう言われて、ソフィは首をかしげた。


「私は、別に何ともないけど・・・」


「そうか、ならいい。」


 地下から階段を上ると、今度は金属で出来た網ごしに下の通路が見えるようになった。

 足元にも似たような配管だらけの場所や、何かの液体が入ったプールがある。


「本館に入ったようだな。」


「本館って、確か地下に研究施設があるんだよね?」


 アインが辺りを警戒するように耳を動かしながら尋ねると、アハトはこくり、と頷いた。


「ああ、ここは上の城塞よりは下にあるが、本格的に地下施設に潜り込むのはまだ先だ。」


「下の階が見えるけど、今はどのあたりを通ってるんだろう?」


 足元に見える施設の一部は、本格的な実験場というよりはそのために装置を循環させる装置の一部や、使用済みの薬品などを流すための廃棄施設も兼ねているように見える。

 研究員たちが頻繁に出入りする場所ではないらしく、少なくとも今のところは人間の気配はない。 


「本館はA館とB館に分かれているんだが、俺たちが今回、向かうべきなのはA館だ。

 この辺りはおそらくB館の一部だろうな。」


「気を引き締めていきましょう。ここは敵の本拠地ですもの、油断は禁物よ。」


 ソフィが緊張した面持ちで言うと、他のメンバーもそれに対して頷いた。


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