ホムンクルスの箱庭 第3話 第5章『潜入前夜』 ②
今日はいいお天気なので、初挑戦で手長エビを釣りに来ています(ノ´∀`*)
でもカニと沼エビしか釣れないです(´・ω・`)
私、この釣りで手長エビが釣れたら、素揚げにして食べるんだ(///∇///)
「なんだって!?子供たちが人体実験に・・・!?」
「ええ、だから悠長に構えている暇はなさそうよ。」
息を切らせて走り込んできたソフィが伝えた情報に、アインが驚愕の表情を浮かべた。
「あいつらのやりそうなことよね。
いっそのことその実験とやらをやってるときに安全に忍び込むのはどう?」
「だ、だめ・・・助けないと。」
「フィーアが言うならそうしよう。」
ものすごくいい笑顔で言ったドライとは対照的にフィーアが顔を青ざめさせると、ツヴァイがすかさずその肩を抱き寄せた。
「なによ、子供たちとかどうでもいいじゃない。」
「そういうわけにはいかないわ。私たちが壊した施設の孤児院の子供たちでしょう?
だとしたら、そうなったのは私たちのせいみたいなものだし。」
それを見てむっとしたようにするドライをソフィがたしなめる。
「えー、破壊したのはあんたたちなんだから、私は関係ないんだけど。」
実際のところ、ドライはアハトのグレネードで施設が爆破されたときにはこちら側にはいなかったので、無関係と言えば無関係なのだが。
「ドライ・・・子供たちが私たちみたいな目に遭ってもいいの?」
ドライは自分には関係ありませんと言うような態度を取ろうとしたものの、フィーアの言葉を聞くと微妙そうな表情をする。
「・・・実験してる施設に入るくらいならいいわ。あんたが悲しむ顔が見たいし。
べ、別に間に合うように入るなんて言ってないんだからね!」
「うん!」
素直ではない態度でぷいっとそっぽを向くドライに、フィーアが嬉しそうに頷いた。
「アハトとグレイさんはまだ地下室かしら?」
「うん、僕がお願いしたものを調べてくれているところだと思う。」
「そう、2人にも伝えてくるから、みんなは潜入の準備をして待っていて。」
「了解だよ。」
ツヴァイが答え、皆が頷いたのを確認してからソフィは地下室へ向かった。
「それで?話とはなんじゃ藪から棒に。」
同じ頃、地下室ではアハトがグレイに話を持ち掛けていた。
「ああ、大したことじゃないんだが。」
ポッドに触れていたアハトが振り向いてにやりと笑う。
「言っておくがグレネードの相談は受け付けんぞ、身体がいくつあっても足らんわい。」
「なんだと!グレネードは素晴らしいものだというのに・・・
だがまあ、残念ながら今回はグレネードに関する相談じゃない。」
「ほほう。だとするとなんじゃ。」
「じいさん、ここにあるモノがなんだかわかるか?」
アハトはポッドをこんこんと叩きながらその中身について尋ねた。
「さあのう。なんらかの生命体なのは間違いないじゃろうが、さすがに何かまでは分からんぞい。」
「ここにある装置はじいさんでも使えそうか?」
「まあ、多少癖はありそうじゃがわしも生命に関する実験をしていたわけじゃからな。
使えないということはないじゃろう。」
「そうか、それを聞いて安心した。」
「一人で納得せんで理由をいわんかい。わけがわからんぞ。」
「まあ、待ってくれ・・・」
勝手に話を進めるアハトにグレイが困ったように眉を顰める。
すると・・・
「こいつを見てどう思う?」
アハトはグレイの前に来てがばっとローブの前を開けた。
「あ、新手の変態かっ!?」
ローブの下は全裸・・・という落ちはなかったものの、まるで露出狂としか思えない言動にグレイは思わず顔をしかめる。
「落ち着け爺さん、まあいいからよく見てくれ。」
グレイはいぶかしげな表情をしながらも、アハトが言うとおりその身体をよく観察する。
「・・・お主、まさか。」
服の下に隠されたそれに気づき、グレイは驚きを隠せないようだった。
「ああ、そのまさかだ。」
「なるほどのう。
いつも皆の前でまでローブとフードを外さないのは、そういったわけじゃったか。」
「愛するグレネードと常に一緒にいられるのは良いんだが、実はこの身体にもそろそろガタが来ていてな。」
「治すのを手伝ってほしいということなら協力してやりたいところじゃが、あいにくそっち方面はあまり得意ではなくてのう・・・」
残念そうにグレイが首を横に振ると、アハトは分かっているというように頷いた。
「大丈夫だ。というか、治すだけなら何とかできる相手を俺は一人だけ知っている。
だから、別に治して欲しいわけじゃないんだ。」
「ならばどうしてほしいんじゃ?」
「今回の地下施設への潜入なんだが、俺はどうも嫌な予感がしてならない。」
「ふむ・・・勘というやつかの。」
「ああ、勘ってやつもあるんだがそれ以上に確信があるんだ。」
「なんじゃその確信とは?」
「俺がこんな身体になった要因ってやつがあの施設にはあるのさ。」
フッとどこか自嘲気味な笑みを浮かべ、アハトはローブを元に戻す。
「今回の戦闘で俺は全力を出し尽くすことになるかも知れん。
まあ、別に俺はそれで構わないんだが・・・」
「・・・ふむ、なんじゃ。色恋沙汰ならわしは全く協力できんぞ。」
にやっと笑ったグレイに、アハトは珍しく気まずそうに視線を逸らす。
「色恋なんてもんじゃない。単なる腐れ縁だ。
だが、それでも一応あいつは俺を仲間だと思ってるようだからな。」
「そんなもん、ソフィだけじゃなく他の連中も仲間だと思っておるじゃろうが。」
「それはそうなんだが、なんだかんだであいつが愚痴をこぼせるのは俺だけだからな。」
「ずいぶんと自信があるんじゃのう。」
「別にそんなんじゃないさ。
まあ、そういうわけでおいそれとくたばるわけにはいかないんだが、今回ばかりはそうも言ってられそうにない。
いざという時に全員逃がすために俺が全力を尽くした時に、これを一緒に爆破するわけにはいかない。
じいさんに先に返しておこうと思ってな。」
アハトが懐から取り出して手渡したのは、あの夜にグレイが渡した小さな結晶体だった。
「じいさんが作ったそれは、おそらくだが不完全ながらも賢者の石の欠片ってやつだ。」
「なんじゃと!?」
震える手で、グレイはその欠片を手のひらに受け止めた。
「わしは孫を助けるつもりが知らぬうちにそんなものを作っていたというのか・・・」
「そのようだな。」
頷くアハトに、グレイは自嘲気味な笑みを浮かべて首を横に振った。
「わしはただ孫娘を助けたかっただけじゃ、それなのに意図せぬところで奇跡が起こっていたとは、皮肉なもんじゃのう。」
賢者の石を創ることは錬金術師にとっての悲願だ。
だが、グレイが求めた奇跡はそれではなかった。
ただ孫娘と平穏な日々を過ごしたかっただけだと言うのに。
「・・・それで、これをどうしろというんじゃ?」
なんとか心に整理をつけて、グレイは顔を上げる。
「俺が知る限りでは賢者の石には想いってやつが残るらしい。
もし俺が今回の件でダメになった時にはそいつを渡してやってくれ。」
「形見というわけか?お断りじゃ。わしに頼まんで自分でやらんか。」
そんな役はごめんだと言うように欠片を突き返そうとすると、アハトが今までにないような真剣な雰囲気でその手を握った。
「・・・頼むじいさん。」
そこまでされればさすがに無下に断ることもできず、グレイは渋々ながらも欠片を懐にしまう。
「・・・珍しくまじめになりおって。わかったわい。
何かあった時じゃぞ?なければこれはそのままお主に返すからの。」
「ああ、恩に着るぜ。」
グレイの答えに満足したのかアハトはさっさと上の階に上がろうとする。
「っと、待たんかい。ポッドの中身は結局何だったんじゃ!」
「それは出てきてからのお楽しみってやつだ。」
いつものようににやり、と笑うとアハトはその場を去って行く。
「まったく、勝手なやつじゃわい。」
やれやれと首を横に振ったグレイはしばらくの間、装置について調べていた。




