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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第3話 第5章『潜入前夜』 ①

今日も読んでくださっている皆さんありがとうございます(*ノωノ)

「さて、と・・・頼まれた物はこれでだいたいそろったかしらね。」


 買い物メモを見ながらソフィは頼まれた物を一つ一つ確認していく。

 一番目立たずに必要な物を正しく買ってこれる人物として、ソフィは買い出しに来ていた。


 この街に来るのもかなり久しぶりね。


 そんなことを思いながら、ソフィは視線を上げる。

 その先には巨大な城塞ともいえる白い建物がそびえたっていた。

 街の中央に位置する高台にある巨大な錬金施設、それがアルスマグナの本拠地と言われているマリージア錬金術研究所だ。


 もっとも、大陸を支配するほどの巨大な組織が表立って持っている施設で最大の物がこれ、というだけで他にどんな形で研究施設が隠されているかなどわかったものではないが。


 でも、少なくとも私たちが今目指すべき場所はあそこだわ。


 他にどんな施設があろうとも、今のところ情報を得られる最大効率を図れるのはあの施設に潜り込むことだ。

 ツヴァイの賢者の石の再適合化に必要な情報、フィーアの人格の一部を奪ったというヌルの情報、それらのことについて知っているであろう施設長とその夫人がいるのもあの場所なのだから。


 ふと、工作員として過ごしてきた日々が脳裏を巡った。

 それはまだ皆に出会う前の、無機質な人形でしかなかった頃の自分。


 ・・・といっても、あいつと出会ったせいでいろんなことがハチャメチャになったけど。


 あいつ・・・アハトとはこちらの施設で出会ったのが最初だ。

 出会った時から黒ずくめで、何を考えているのかわからないグレネードをこよなく愛する爆弾魔。

 正直、なぜ関わってしまったのかと今でも不思議に思っているところがある。


 なんで私、腐れ縁とはいえあんな不審人物と仲良くなっちゃったのかしら。


 初めての出会いは最悪なものだった。

 それは工作員としての訓練を一通り受け、いざ孤児院に送られようとした頃のことだ。




「おまえ、向こうの施設に行くのか?」


 部屋で荷物を片付けていると、いきなり黒ずくめの怪しい人物が現れたのだ。


「えっと・・・どちらさまでしたっけ?」


「・・・そうか、そうだったな。」


 不審人物はなぜか勝手に納得したかのように頷き、何かを片手に突然名乗った。


「俺はアハト。ナンバーズのNO.8だ。これはお近づきの印だ、受け取ってくれ。」


「あ、ソフィです。これはどうもご丁寧に・・・って、ぎゃああああ!?」


 手渡されたそれをソフィは思わず悲鳴を上げて放り投げた。

 錬金爆弾(グレネード)・・・受け取ってからそれが何なのかに気付いて慌てて捨てると、それは綺麗な弧を描いて相手の手の中に戻った。


「何をするんだ。」


「それはこっちのセリフよ!?いったい何のつもりなの!!」


 いきなり爆弾を贈りつけてきて何をするも何も。思いっきり警戒した状態でソフィは身構えた。

 よく考えれば、一介の工作員でしかない自分にナンバーズが近づいてきたというだけでも異常な事態だ。

 その上、こちらのナンバーズは向こう側のナンバーズとは派閥的には敵対関係。

 もしかすると、何らかの事情で自分を始末しに来たのかもしれない。


 どうやってこの場を切り抜けるか、黒ずくめの人物を睨みつけながらソフィは思考を巡らせる。


 しかし・・・


「すまん、そんなに警戒しないでくれ。俺は別におまえと戦いに来たわけではない。」


「いきなり爆弾を渡しておいて、はい、そうですかって納得するとでも?」


「何を言っている、グレネードは素晴らしい物なんだぞ!?

 まず、何よりも形が最高だ。この世界にあるどんなものよりも素晴らしいとは思わないか?

 機能美の全てがこの形状に詰まっていると言っても過言ではない。

 そして爆発するときの美しさ、これに勝るものが他にこの世にあるとは俺は・・・!」


「その・・・ちょっと何を言ってるのかわからないわね。」


 黒ずくめはいきなりグレネードについて語り始めた、不審人物な上に変態かもしれない。


「ともかく、俺は親しくなりたい人物にグレネードをプレゼントするのがやり方なんだ。」


 なにがともかくなのか全くわからない。

 そのあとのことは正直、思い出すのも億劫だ。

 結局、よくわからないままに押し切られて彼は孤児院に一緒についてきた。


 それ以降もたまにふらっといなくなって戻ってきては、いつも一人だった自分に話しかけてくることが常だった。

 

 ああ、でも、そうだったわね・・・。


 自分はどこに行っても工作員でしかなくて、誰かと仲良くなる必要なんかない。

 そう思っていた自分が、アインたちと触れ合うきっかけをくれたのは他ならぬアハトだった。


 あれから随分と経った・・・いつの間にかみんなと一緒にいるのが当たり前になっていたけれど、私、こっち側の人間だったのよね。

 

 こちらでの昔のことを思い出そうとした時だ。


 『お前は前向きだな・・・』

 

 一瞬、知らない男性の顔が頭をよぎる。

 彼はどこか悲し気で、それでいて優しい表情をしていた。

 唐突にめまいが起きて、ソフィは近くの壁に寄り掛かった。


「今のは、誰・・・?」


 その人物の言葉に聞き覚えがある。


 ・・・そうね、私はいつだって前向きでいようとしてきた。

 でも、それはどうしてだったかしら?

 工作員として育てられ、感情のほとんどを封印してきた・・・そんな自分が前向きでいたいと思ったきっかけってなんだったんだっけ?


 何かを思い出しかけたそんな時だった。


「・・・っ!」


 見慣れた制服姿にソフィは思わず物陰に隠れる。

 それはアルスマグナの構成員たちだった。

 ソフィもローブ羽織り、フードを被って変装はしているもののどんなはずみでばれるかわからない。

 隠れてやり過ごせるならそれに越したことはないのだ。

 フードを目深にかぶり息をひそめているとこんな会話が聞こえてきた。


「例のナンバーズのNO.4までを作った研究者が施設に来てるんだって?」


「しー、極秘情報なんだから誰にも言うなよ?」


「わかってるわかってる。」


「じゃあ極秘ついでに教えてやるよ。

 明日の晩なんだが、そいつらがまた何かの実験をするらしいぜ?」


「な・・・っ!」


 その言葉にソフィもさすがに反応してしまった。


「へえ、どんな実験さ?」


「そこまでは俺も知らねえよ。でも人体実験なんじゃねえかな。

 孤児院から連れてきたとかいうガキ共が地下施設に連れて行かれるのを俺は見たぜ。」


「錬金術に人体実験はつきものとはいえ関わり合いにはなりたくねえなあ。」


「言えてる。実験する側ならいいけどな。される方は簡便だ。」


 談笑しながら構成員が通り過ぎた後、ソフィはアハトの研究施設に速足で戻った。


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