ホムンクルスの箱庭 第3話 第4章『精神干渉』 ④
今日はツヴァイとドライの複雑な関係のお話です(;´・ω・)
「フィーア、あんたこんなところで何してんのよ。」
「ドライ・・・あのね、賢者の石について調べていたの。」
ドライが地下に戻ろうとすると、通りがかりに別の部屋で何かをしているフィーアを見かけた。
ツヴァイが一緒にいないことなど珍しい。
そう思って声をかけたのだが、妹はあの黒ずくめの爆弾魔が集めた資料に興味を持って読み漁っているところのようだ。
「こんなところに参考になりそうなものなんてなさそうだけど。」
そこら中に無造作に置かれている埃のかぶった分厚い本や資料の束から、使えそうなものだけを探すのはかなり手間がかかるだろう。手伝いを申し出ようかと思ったのだが。
「ツヴァイと一緒にいろいろ調べてるんだ♪」
「・・・じゃあ見つかるものなんてたかが知れてるわね。」
それを聞いた途端に、そんな気持ちはどこかに消えてしまった。
一緒に調べているのにここにいない、ということはどこか別の場所に資料を取りにでも行っているのだろう。
戻ってきて顔を合わせるのは正直億劫だった。
「えっとね・・・賢者の石は全てを記憶し、成長する意思をもった物質って書いてあった。」
「なによその本・・・まゆつばものなんじゃないの!」
一緒になってドライが本を覗き込むとボロボロになったページの一部に確かにそう書いてある。
「ふーん、まあ私は賢者の石なんて興味ないけどね。
むかつくツヴァイが死のうがどうしようが私が知ったこっちゃないし。」
「あう・・・」
おそらくフィーアはツヴァイを助けるために今も賢者の石の情報を集め続けているのだろう。
死にかけるほどの大怪我をして、記憶を失ってもまだ妹はあの男にとらわれ続けているのだ。
そう思うとどうしようもなくやるせなくて、許せないという気持ちがふつふつと沸いてくる。
「ふふ、久しぶりに見たわあんたのその顔!いいわよフィーア、もっと泣きなさい!」
自分の言葉でフィーアが泣きそうになるとドライはうれしそうに笑みを浮かべた。
「どうしてドライはツヴァイのことが嫌いなの?」
「どうしてもなにも、私からあんたを取るからに決まってるじゃない。」
「ツヴァイはそんなことしないよ?」
「・・・現にあんたはそうなったじゃないの。」
「・・・?」
ドライの言葉の意味が分からないのか、フィーアは小さく首をかしげる。
「ツヴァイのやつに任せておいたらあんたはどんどん壊れて行く。
だからそうなる前にあいつが死んでくれればいいのに。」
言葉に込められた意味はそれ以上でもそれ以下でもない。
自分の妹が壊れていく様子を間近で見ていたドライにとって、ツヴァイは憎むべき相手だ。
たとえフィーアがツヴァイにどんなに懐いていても、その部分だけは譲れない。
「ひどいよドライ、そんなこと言わないで・・・」
悲しそうな顔をするフィーアを見ていつものドライなら喜んでいたはずだった。
しかし・・・
「どっちがひどいのよ!?散々フィーアのことは自分に任せろとか言ったくせに、あいつは約束を破ったんだからね!」
忌々しそうに言い放ってドライはフィーアのほっぺたをむにーっと両側に引っ張る。
「いひゃい・・・」
「いい?フィーア。
あんたがどんなにツヴァイのことを信用しても私はあいつを信じないわよっ!」
「はう・・・」
「ううん、むしろあんたがツヴァイを信用すれば信用するほど私はあいつを疑ってかかるんだからね!」
「ふええ・・・」
フィーアが涙目になったのを見てにぱーっと笑うとドライはようやくほっぺから手を放した。
「久しぶりにあんたをいじめていい気分だわ!さっき言ったのはマジでなんだからね!」
「ドライがいじめるの・・・」
「ふふん、あたりまえでしょ!その方があんたがかわいいんだから!」
いつもの調子に戻ったドライは鼻歌を歌いながらその場を去ろうとする間際、小さな声で呟く。
「同じことは繰り返させないわよ。あいつがあんたをこれ以上壊す気なら、私にも考えがあるわ。」
その瞳には、強い決意が宿っていた。
「あれ?フィーア、何かあったのかい?」
「ツヴァイ!」
「ドライも一緒にいたみたいだけど、意地悪されなかった?」
持ってきた資料を長机に置いて、ツヴァイはフィーアに尋ねた。
地下室から上がってくる時にちょうどすれ違ったのだが、ドライはあからさまに嫌な顔をして横を通り抜けていった。
つまり、ドライはそれまでここにいた可能性が高い。
「えっと・・・」
その予想は間違っていないらしく、どう答えていいものかフィーアは困っている様子だ。
「されたんだね。よしわかった、心配しないで?今からちょっとドライを・・・」
「や、やめてツヴァイ、私は平気だから。」
ぱっと見は笑顔なのに、ツヴァイの目が全く笑っていないことに気付いたフィーアは一生懸命に止めようとする。
確かに少しだけ意地悪をされたが、それで2人が喧嘩をすることになるのは嫌だった。
「フィーアは優しいな・・・いじめられたって言ったら僕がドライを懲らしめると思って本当のことが言えなかったの?」
「あう・・・私、ツヴァイとドライにはもっと仲良くしてほしいの。だから・・・」
「・・・それは、無理だと思う。」
「え?」
はっきりと言われてしまって、フィーアは戸惑いながらツヴァイを見つめる。
するとツヴァイは困ったようなどこか悲しげな笑みを浮かべてこう言った。
「僕が約束を守れなかったことをドライは一生許しはしないだろう。
僕もそれでいいと思っているしね。」
「ツヴァイは約束を破ったりしてないよ。」
フィーアがにっこりと笑ったのを見て一瞬泣きそうな表情をしてから、ツヴァイはそれを慌てて隠すかのように彼女をぎゅっと抱き寄せる。
「ツヴァイ・・・?」
「・・・今度こそ約束は守る。必ず、迎えに行くから。」
「迎えに行く?誰を迎えに行くのツヴァイ。」
不思議そうに首をかしげるフィーアは、あの夜、紅音に戻った時の会話を綺麗に忘れてしまっているようだった。
「約束は守るから・・・」
「ツヴァイ・・・」
何を言っているのかがわからずともツヴァイが悲しそうにしていることだけはフィーアにもわかる。
そんなツヴァイをフィーアはただ黙って抱きしめ返した。




