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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第8章『NO.0』 ②

5月11日。

本日2回目の更新です( *´艸`)

「お待たせ、片づけてきたわ。」


 2人が戻ってきたのは、皆が隠れ家についてから1時間後のことだった。


「大丈夫だったかい?」


「ああ、跡形もなく燃やし尽くしてきた。あれなら化けて出ることもないだろう。」


 さらっと答えると、アハトはローブの中から羊皮紙の束を取り出してツヴァイに差し出す。


「NO.0・・・ヌルに関する資料?」


 資料の冒頭をツヴァイが読み上げると、フィーアがびくっと震える。


「フィーア、どうしたの?」


 後ろに隠れようとしたところを抱きしめてツヴァイが尋ねると、フィーアは小さく震えながらこう答えた。


「なんだかよくわからないけど、こわいの・・・」


「ゼクスの荷物の中に紛れていたものだ。」


 内容からすると処分されたはずのヌルは現存していて、ゼクスはその力を手に入れようと画策していたらしい。

 開発時の研究者たちから得た情報もそれには書かれている。

 ヌルの能力は群隊能力であり、核となる1匹は体内に賢者の石を宿していること。

 その1体が他の物に一定時間接触することによって、相手を喰らうらしい。

 生命力だけではなく、記憶や存在の在り方なども含めて。

 

 ヌルを倒すためには群体をいくら攻撃しても意味はなく、中心にいる1体の賢者の石を破壊するしかない。

 それ以外は傷つけても回復してしまうらしい。

 アインやツヴァイの中にある賢者の石に関しても、ゼクスは奪って利用することを考えていたようだ。


「組織の命令もあったんだろうけど、それ以上にゼクスは自分勝手に動いていたってわけね。」


 それを聞いて納得したようにソフィは頷く。

 道理で研究員たちまでゼクスの手にかかっていたわけだ。


「・・・フィーア?」


 ツヴァイの腕の中にいたフィーアが、ガタガタと震えながら離れようとする。


「あ、ああ・・・だめ・・・だめ!みんな食べられちゃう・・・っ!!」


「フィーア!?」


「嬢ちゃん!?」


「いやっ!いやあああああっ!!」


 頭を抱えて叫んだかと思うと、フィーアはそのまま気を失いその場に倒れこむ。


「フィーア、フィーア・・・!?紅音ーっ!!」


 床に倒れる寸前でツヴァイが抱きとめて、その名前を叫ぶ。

 フィーアの手からこぼれたぬいぐるみが、とさっと軽い音を立てて床に落ちた。


「ちょっと!何があったのよツヴァイ!あんた何かしたんじゃないでしょうね!?」


 ドライが思わず掴みかかるが、ツヴァイは無言で首を横に振る。


「落ち着け、まずは休ませたほうがいいだろう。」


「そうね、とりあえずフィーアを2階の部屋に運びましょう。」


 アハトの提案に、ソフィがぬいぐるみを拾いながら冷静に言った。


「僕が運ぼうか?」


「いや、僕に運ばせて兄さん。」


 アインが手助けしようとするが、ツヴァイはそれを断ってフィーアを抱き上げる。


「紅音・・・」


 ぎゅっと抱き寄せると、ツヴァイは悔しそうに目をつぶった。




「嬢ちゃん・・・。」


 ベッドに眠るフィーアを、グレイが心配そう見守っていた。

 フィーアの額に濡れた布を置いて介抱していたツヴァイの、耳と尻尾が力なく下を向いた。

 記憶を失う前・・・子供のように幼くなってしまう以前に、彼女は自分に内緒で何かを調べていたようだった。

 そのことに関してフィーアは決して教えてくれなかったので、そういう事態になるまでツヴァイもどうしようもなかったのだ。


「皆食べられるって言ってたね・・・」


 状況が分からず、アインもフィーアが口にしていた言葉を思い出す程度しかできない。


「そうだね・・・これまで一緒にいるときに、少なくともフィーアがNO.0のことを口にしたことは無かった。」


 肩を落としてあからさまに落ち込んだ様子で、ツヴァイはぽつり、とつぶやくように言った。


「もしかしたら、フィーアが記憶喪失になってしまったこととNO.0は何か関係があるのかもしれない。」


 フィーアがあれだけ怯えるような出来事があったとしたら、それは例の事故(・・)以外には思いつかない。


「記憶喪失、か・・・何かおかしいとは思っていたが。」


「・・・ごめん、フィーアをこれ以上危険な目に遭わせないために、皆には必要以上のことは言えなかった。」


 わざとらしく言ったアハトに、ツヴァイはすまなさそうに謝った。


「アハト、そういう言い方はやめなさい。

 わかっていたことじゃない、フィーアの様子がおかしくなってしまったのは。」


「そ、そうだったのか・・・!僕は気付いていなかった。」


「犬っころ!あんたもうちょっと頭を使いなさいよね!

 ある時を境に明らかにおかしくなっちゃったでしょうがフィーアは!!」


 ソフィがアハトをたしなめたのを見てアインが驚愕の表情を浮かべると、すかさずドライが突っ込みを入れる。


「これは組織に潜入して、あいつらに何があったのかを聞きだすしかないな。」


 アハトの言うあいつらとは、施設長とその夫人のことを指していた。

 ナンバーズに関する実験は、あの2人が指示を出していたはずだ。

 こちらが知らない情報を知っている可能性は高い。


「そうだね。何があったのかあいつらを締め上げて・・・いや、話を聞かないといけない。」


 アインに気兼ねするように言い直してから、ツヴァイは気絶しているフィーアの髪を撫でる。

 ソフィの回復魔法を使っても、フィーアは目を覚まさなかった。

 精神的に強いショックを受けて一時的に心を閉ざしてしまっているらしい。

 時間が経てばまた目を覚ますはずだが、今はその気配はないようだ。


「ドライ、君はどうする?」


「なによ?私がどうするって、そんなのあんたたちを皆殺しにするに決まってるじゃない!」


 アインの問いかけにドーンと言い放ったドライだったが、そのおなかがくーっと小さく鳴った。


「それはそれとしておなか減ったんだけど。」


「はい、野菜。」


「ちょっと、私お肉が食べたいんだけど。」


 差し出されたニンジンを、ドライはぽりぽりと兎のように食べ始める。

 紅い瞳とツインテールも相まって、まるで本物の兎のようだ。


「あんたたちが倒れてフィーアがショックを受けるところも見たいけど、今は倒れちゃってるから仕方ないしついていってあげるわ。」


 なんだかんだでおいしそうにニンジンを食べながら、ドライはやはりどこか偉そうに言う。


「ああ、フィーアが元気になったらまたいじめてやればいい。」


 アハトの提案にドライは満足そうに頷く。


「当然よ!今度はハリセンで頭を叩いてやるわ。心配掛けてるんじゃないわよって。」


「そうね、それくらいの姉妹喧嘩がちょうどいいかもね。」


 くすっと笑って、ソフィも一緒にニンジンをかじった。


NO.0だと・・・!?

兄弟がまた一人増えた(`・ω・´)

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