ホムンクルスの箱庭 第2話 第8章『NO.0』 ①
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静寂が辺りを包み込んでいた。
さわさわと風が吹き抜けて、湿原の草を揺らしている。
「どうなったの・・・?」
いつの間にか視界を奪うような眩しい光は収まり、違和感を覚えるほどに何も変わらない光景がそこにあった。
「アイン!?」
ハッとしたように叫んで、ドライが走り出す。
湿原に広がっていた炎もいつの間にか消えて、月は雲で陰っていた。
「犬!!」
アインが戦った場所には、フェンフと思われる大きな影が見える。
ようやく機能停止したのか動く素振りは見えない。
その足元から、一つの影がゆっくりと立ち上がった。
「ドライ、大丈夫だったかい?」
人影が話しかけて来た時に、ちょうど雲が流れて月明りが照らし出した。
銀色の月明りの中、元の姿に戻ったアインがにこっと笑いかけてくる。
白銀の毛並みには戦闘の影響で血が付いたり土がついたりしていたが、アイン自身はしっかりとその場に立っていた。
「べ、別に・・・あんなのどうってことないから!」
アインが無事なのを見てきゅっと唇を引き結ぶと、ぷいっとそっぽを向いてドライは俯く。
その様子を見てドライが心配してくれたのだなとアインは感じたのだが、ふと思い出したことがあって声をかける。
「そっか、ところで火が消えちゃって暗いけど大丈夫なのかい?」
確かドライは暗い場所が苦手だったはずだ。
月明りがあるといえ、決して明るいとは言えないこの場所は大丈夫なのだろうか?
「へ・・・?」
その言葉にドライが見る見る青ざめていく。
「ぎゃーっ!暗いわよ!?何とかしなさいよ犬!」
今までは戦いの緊張で忘れていたようだが、どうやらアインの言葉でここが暗いということを思い出してしまったらしい。
「おうふ!」
いきなりしがみつかれて、アインは驚いたように目を白黒させる。
「兄さん!」
そこにツヴァイとアハトが息を切らせながら走ってきた。
「大丈夫なのか?いったいどうなったんだ。」
フェンフは確かに、魔力暴走をする寸前だった。
アインが斬り付けたからといって、それが収まる程度のものではなかったはずだ。
それなのに、フェンフは爆発することなくアインの一撃で真っ二つになっていた。
残骸から煙が上がっているだけで、魔力暴走は影も形もなかったことになっている。
「わからないけど、とりあえず助かったみたいだね。」
アイン自身、何が起きたのかさっぱりわからない。
ただあの瞬間、賢者の石の力が何よりも自分に近いものに感じた。
この力があればフェンフを止めて皆を助けることが出来る。
そう信じることが出来たのだ。
そして、それは現実となった。
理由はわからないが今はそれで十分だとも思う。
アインはこちらに近づいてくる車輪の音に気が付いて顔を上げた。
馬をなだめたグレイが、手綱を引いて馬車を移動させてくれたようだ。
「やれやれ、危ないところじゃったわい。」
「おじいちゃん、お疲れさま~。」
「フィーア嬢ちゃんにそう言ってもらえると疲れも吹き飛ぶのう。」
「グレイさん、怪我はない?回復魔法は必要そう?」
「大丈夫じゃ、移動魔法はさすがに驚いたが。まあ、助かったぞ。」
「そう、それならよかった。」
駆け寄ったフィーアとソフィがグレイとそんな会話をしているのを見て、どこかほっとした気持ちになる。
「よう、兄弟。随分と無茶してくれたなあ。」
動かなくなったフェンフをぽんぽんっと叩きながら、アハトは言葉をかけていた。
「アハト、触っても大丈夫なのかい?」
それに気付いたアインは少し驚いてしまう。
「さっき僕が近づいた時はものすごく熱かったんだけど・・・」
あの時、賢者の石の力は確かに自分を守ってくれているように感じた。
正直、力が発動していなければ毛皮が焦げていたかもしれない。
今も金属が熱をもっているのが近くにいるだけで分かるのだが、アハトは平気そうな様子だ。
「ああ、でもまあ、お前たちは触らないほうがいいだろうな。」
「兄さん、アハト。警備兵たちがここに来るのは時間の問題だ。すぐにでもここを離れよう。」
ツヴァイが周囲の喧騒に耳をそばだてた。
戦闘が終わったことにさすがに気付いたのか、街の人間たちが動き始めた気配を感じる。
街の被害者を救っていたのか、我関せずというように様子を見ていたかはわからないが、戦闘中にここに来なかったのは幸いだったと言えよう。
「でも、フェンフはどうしよう?」
このまま残していけば、アルスマグナが足取りを掴むための目印となってしまう。
何より、こんな機密の塊のようなものを一般人の中に放りだしていくのは気が引けた。
「そうだな・・・俺がグレネードで爆破でもするか?」
これだけの大きさのものを、今から人目につかずに運び出すことは不可能だ。
せめて技術が残らない程度に解体しようとアハトがグレネードを取り出そうとすると、ツヴァイがその役目を買って出た。
「いや・・・それだったら僕に任せてくれるかい?」
「どうするつもりだ?」
「こうするんだよ。」
ツヴァイが手をかざすと、足元の空間が歪んでフェンフの姿が飲み込まれていく。
「フェンフはどこに消えたんだい?」
「さあ・・・そこまでは僕にもわからないけれど。」
アインの質問にツヴァイは曖昧に微笑む。
「よし、それなら今はとにかくここから離れよう。正義の味方は正体を知られずに立ち去るのが鉄則だよ!」
それを聞いてソフィが馬車の方から走ってきた。
「それなら、一度二手に分かれましょう。」
「ソフィ、どこか行きたいところがあるの?」
「ゼクスをあのままにはしておけないわ。」
アインが不思議に思って問いかけると、ソフィは街の方に視線を移す。
おそらく、フェンフと同じく組織に足取りを追わせるための目印になってしまうと考えているのだろう。
「なるほど、ならば俺も一緒に行く。」
いつものようにアハトが名乗り出ると、ソフィもいつものように頷いた。
「助かるわ。皆は先にこの場所に避難していてもらえる?」
「これは・・・?」
ソフィが小さな紙きれを手渡し、アインはそれを開いてみる。
紙には地図のようなものが書き込まれていた。
「いざって時に避難できる場所を確保しておくのは工作員としての鉄則よ。・・・工作員はやめたんだったわね。」
言ってからしまったというようにソフィは苦笑する。
「わかった、僕たちは先にその場所に行っているよ。ドライもいつまでもここにはいたくないだろうし。」
「わ、私は怖くなんかないんだからっ!!本当なんだからね!?」
アインが片腕でひょいっと抱き上げると、ドライは大きな声でしっかりと否定してからしがみついたのだった。
エピローグ的な話にするつもりだったんですが、思ったより長くなりそうです。
ごめんなさい(;´・ω・)




