ホムンクルスの箱庭 第2話 第7章『フェンフ』 ⑩
5月10日。
本日2回目の投稿です。
「な、なんじゃこれは・・・!?」
急に大地が揺れたことに驚いて馬が暴れ出し、グレイは必死に手綱を握った。
「ちょっと、誰か何とかしなさいよ!?」
「だったら僕が・・・」
「俺が行く!!」
アインが飛び出そうとすると、言うが早いかピンを咥えて引き抜いたアハトが前に飛び出してグレネードを投げつけた。
それは弧を描き、フェンフの足元に落ちる軌道を描いたはずだった。
だが・・・
ドゴオオオオン!!
辺りに大きな爆音が響き、煙と炎が辺りに撒き散らされた。
転がり込む寸前で軌道を変えたグレネードが、こちらに跳ね返る途中で爆発したのだ。
「危ないっ!風よ!!」
皆の前に風が渦巻くように現れて、爆炎の威力を減少させる。
「どうなっているんだ!?斥力装置は動かなくなったはずじゃなかったのか!!」
風の防壁のおかげで被害は最小に抑えられたが、アハトも今のはさすがに予想外だったのか焦った様子を見せる。
「まさか・・・予備電源にも魔力を吸収する装置がついているってことなのか?」
ぎりっと奥歯を噛みながらも、ツヴァイはその事実を認めざるを得なかった。
背中の装置を破壊すれば少なくとも斥力はどうにかなる、その考えを裏切る光景が目の前にあった。
さらに・・・
「ツヴァイ、フェンフにどんどん魔力が集まっていってる!
このままじゃ魔力が暴走して大変なことになっちゃうかもしれない。」
魔力の流れを見ているのだろう、フィーアが慌てたようにツヴァイに伝えた。
「まさか、自爆でもするつもりなのか!?」
「あう!」
フェンフの行動の意味を理解したツヴァイが慌ててフィーアを自分の後ろに隠したが、それにどれほどの意味があるかはわからない。
なぜなら・・・
「魔力炉を暴走させる気なのか・・・正気か!街が一つ消えてなくなるぞ!?」
次の瞬間には、アハトがそう叫んでいたのだから。
「どういうことなんだいアハト?魔力炉の暴走って?」
「機械っていうのは一度、魔力を炉に貯めて必要な分を循環させながら動いているんだ。
魔力が高濃度になればなるほどそのエネルギーは莫大なものになる。
それが暴走したとき、貯められた魔力は一斉に放出されるが、その際に周囲にあるものを破壊するほどの大きな力の奔流となって一気に押し寄せる。」
アインの質問に、アハトは淡々と事実を述べる。
「斥力を発生させるほどの高濃度の魔力をフェンフの中にある魔力炉は蓄積することが出来るんだ・・・後は分かるな!?逃げるぞソフィ!移動魔法だ!!」
「え!?でも・・・」
「もはや倒すとかそういうレベルの問題じゃない。ここら辺一体にあるもの全部木っ端みじんだ!!」
魔力炉の暴走と言われても、アハト以外にはそれが具体的にどういうことなのかはわからない。
それでも、アハトにそう言わせるだけの何かが、これから起ころうとしていることは明らかだった。
「仕方がないわね・・・」
目を瞑って風の通り道を確認しようとしたソフィだったが、魔法自体が発動しないことにすぐに気付いた。
「・・・っ!無理だわ!フェンフの魔力を吸い取る力がどんどん上がってる。
辺り一帯の魔力が奪われてしまったらさすがに魔法は発動しない!」
魔法は自身の魔力に加えて、大気にある魔力を消費することによって発動する。
たとえソフィ自身に魔力が残っていたとしても、これでは移動魔法は発動しない。
「く・・・っ!万事休すか!?」
フェンフの身体が眩い光を放ち始めると大地の震動はますます大きくなっていく。
そんな時だった。
「僕がフェンフを止めて見せるよ。」
スッとアインが前に一歩踏み出す。
その身体は、先ほどよりも強い光を帯びているように見えた。
「犬!あんた無茶はやめなさいよ?死んじゃったら意味ないじゃない!」
「大丈夫、僕は正義の味方になるんだ!
こんなところで負けるわけにはいかないし、全部見捨てて逃げるなんてもっとできない!」
このまま逃げたとしてもフェンフが爆発する前にどの程度まで逃げられるかは怪しいし、何より街の人たちを見殺しにすることは、アインには到底できないことだった。
「兄さん・・・」
「ごめん、ツヴァイ。僕は家族が大事だよ!だからこそ、それに恥じるような行動は出来ないんだ!」
ツヴァイが責めるように何かを言おうとするが、アインが返した答えはそれだった。
「・・・・・・」
何を言っても無駄と悟ったのか、ツヴァイは黙ってフィーアを抱き寄せる。
「大丈夫だよ紅音。何があっても、君だけは守る。」
そして、その耳元で優しく囁いてから顔を上げた。
「ツヴァイ・・・?」
不安そうに見つめるフィーアに微笑んでから、ツヴァイは真剣な表情でアインに尋ねる。
「わかった、兄さん。僕たちは何を手伝えばいい?」
「とにかく、ツヴァイは皆を守ってくれ。後は僕が・・・何とかしてみせる。」
「斥力は?」
「・・・賢者の石の力に賭けてみるよ。さっきは出来たんだ。きっとうまくいくさ。」
フェンフのパイプをもぎ取ったあの出来事は単なる偶然というわけではないはずだ。
そして、要因はたった一つ、賢者の石の力しか考えられない。
地鳴りが続いている中で、グレイは必死に馬をなだめているところだった。
そちらに視線を送った後、アインは足元に落ちている刃が半分砕けてしまったフェンフの剣を拾い上げる。
フェンフが持っていた時の半分程度の大きさだというのに、剣はずっしりと重かった。
ドライはそれを見て、何か言いたげにしながらも言わずに俯いて。
「やるだけやりなさいよ。見ててあげるから。」
一言だけそう伝える。
「ありがとう!」
剣を構えると、纏っていた金色の光が刃を包み込むように広がった。
「アイン・・・わかった、俺もお前を信じよう。」
「正義の味方はちゃんと戻ってくるのがセオリーよ?わかっているわね。」
「もちろんだ!」
アハトとソフィの言葉に頷いて、アインはフェンフに向かって走り出した。
揺れる大地を走ることなど、アイン以外には到底出来ない芸当だっただろう。
限界まで魔力が集まって熱量で赤く燃え上がっているフェンフにアインが突っ込んでいく。
斥力が行く手を阻むかに思えたが、アインの身体に触れた瞬間にどういうわけかそれは発動することなく通り抜けた。
地面を強く蹴ると、アインはフェンフの頭上に飛び上がって剣を振り上げる。
「うおおおおおっ!!」
その叫びに呼応するように、アインの身体が眩い光を纏った。
しかし、その剣が振り下ろされるよりも少し早く、フェンフから赤い光が放射状に放たれる。
それは魔力暴走の始まりに見えたが、かまわずにアインは剣を振り下ろした。
そして・・・
「僕は皆を守るんだあああああっ!!」
目を開けていられないほどに強い光が、湿原全体を真っ白に染め上げた。
フェンフとの戦闘はこれで終わりとなります(*´∀`)♪
次回からは第二話のエピローグ的な話に入っていきます(*´ω`*)




