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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第7章『フェンフ』 ⑧

5月9日。

本日2回目の更新です。

 戦いは相変わらずフェンフが優勢だった。

 アインとソフィのいる場所にフェンフを近づけないように牽制しながら4人は戦っているのだが、やはり斥力が厄介なのと、振り下ろされる剣の範囲から逃げながら戦わなければならないことがネックとなっている。

 フィーアの魔法とアハトのグレネードを中心に攻撃を繰り返し、隙を見てドライがフェンリルをけしかけるが、やはり斥力による反射を避け切ることは出来ない。

 その部分はツヴァイが賢者の石の能力でフォローし続けていた。


 代わりに、フェンフの手にしている大剣も刃こぼれがひどくなり、本体は熱暴走が始まったのか黒い鎧のあちこちが熱されて赤く光っている。

 だが、それによってフェンフの動きが鈍くなるようなことは無く、むしろ動くスピードがどんどん上がっていっているような気さえした。


「ツヴァイ、あとどれくらい持ちそうだ?」


 先ほどから皆を守るために何度も力を使っているツヴァイは、肩で息をして額からは大量の汗を流していた。

 フィーアもあの儀式の後に魔法を連続で使っているせいか、さすがに疲労の色が濃い。

 ドライはまだ余裕がありそうだが、アインが倒れたことで動揺しているらしく、ちらちらとそちらに視線を送っている。


「・・・何があっても持たせてみせるよ。せめて兄さんが目を覚ますまでは!」


 一瞬だけ視線を送ってフィーアの様子を確かめると、汗を手の甲でぬぐってツヴァイはフェンフを睨みつけながら言った。


「そうか。」


 ツヴァイの覚悟を決めた眼差しを見てフッと口元に笑みを浮かべると、アハトも覚悟を決めたようにグレネードを取り出す。


「フィーア、魔力をかけてくれ!」


「はい!」


 アハトのグレネードが、先ほどと同じように淡い光を纏った。


「一か八かだ!!」


 アハトが素早く後ろに回り込んで、地面すれすれから華麗なフォームでグレネードを投げつける。

 ところが、思ってもみない速さでフェンフが振り向き、斥力によって弾かれた。

 グレネードが空中で爆発して視界が遮られたのと同時に、フェンフが大剣を地面にたたきつける。

 その衝撃はまるで地震のようにあたりを揺らし、バランスを取らなければ倒れそうなほどだった。

 地面の揺れでフィーアがよろけたのを確認すると、フェンフはすかさず剣を振り下ろす。


「フィーア!!」


「あう!」


 時空の歪がフィーアの前に生じて、フェンフの剣を受け止めた。


「今のうち逃げるんだ!」


「うん!」


 その場からフィーアが逃げたのを確認してから能力を解くと、ツヴァイがこほっと咳き込む。

 いくら竜の宝玉とバイパスを繋ぎ必要な生命力を確保したと言っても、それは普通に暮らしていける程度のものでしかない。

 こんな風に力を連続して使い続ければ近いうちに限界が訪れる。

 そんなことはわかっていた。

 それでもツヴァイは力を使い続けることを選ぶ。


「えい!!」


 フィーアが魔法を放つと、剣を伝って氷がフェンフの腕を凍り付かせた。


「フェンリル!噛みつきなさい」


 それに合わせたドライの命令に従いフェンリルが跳びかかって噛みつこうとすると、フェンフは凍ったままの剣を持ち上げてそれを防いだ。

 いくつもの細かい亀裂が走った剣は脆くなっていたのかその一撃で刃の一部が砕ける。

 代わりに斥力で分散されたフィーアの魔法がダイアモンドダストのように広がった。

 粗く削られた氷の結晶が皆を傷つける前に、それらは時空の歪みに飲まれて消える。


「ツヴァイ!」


「大丈夫・・・っ!」


 自分に言い聞かせるように言って、ツヴァイはその場に立ち続ける。

 今ここで自分が倒れれば、大切な者を守れなくなる。

 それだけは避けなければならない。


「たとえ倒れたとしたって、僕はフィーアを守る!!」


 そんなツヴァイの強い思いが届いたのだろうか?


「う・・・」


「アイン!」


 ソフィの目の前でアインが小さく声を上げたかと思うと、ガバッと起き上がる。


「犬!!」


 それを見てドライがうれしそうな声を上げた。


 ところが・・・


グオオオオン!!


 雄たけびを上げたフェンフが、隙を見せたドライに向かって突っ込んでくる。

 折れたことで使い物にならないと判断したのか大剣は放られていたが、あの勢いで金属の塊に体当たりされれば馬車に跳ねられたぐらいでは済まないだろう。


「おねえちゃん・・・っ!!」


「ドライ・・・っ!?」


 ツヴァイ、フィーア、アハト、それぞれがドライを助けるべく行動しようとしたが間に合わない。

 ドライの身体がフェンフの体当たりで吹き飛ぶ様が、皆の脳裏に描かれた瞬間だった。


「うおおおおおっ!!」


 獣のように叫びながらアインが目にも止まらない速さで突っ込んだかと思うと、ドライの目の前でフェンフの手をつかんでがっちりと組み合った。

 その瞳はいつも以上に爛々と輝き、身体は淡い金色の光に包まれている。

 先ほどフェンフに吹き飛ばされた時とは明らかに違う様子で、アインが一方的に押されているようには見えない。


「あれは・・・賢者の石の力なのか!?」

 

 ツヴァイはアインの纏う金色の光から賢者の石の気配を感じていた。

 自分の使うものとはだいぶ違ってはいるが、おそらくはあれがアインの賢者の石の力なのだ。

 じりじりと押し合う中で、アインの足元の土がざりっと削れる。


「ぐ・・・っ!」


 その隙にフェンフはアインの手をつかんだまま、体格差を利用して持ち上げると邪魔だと言うように投げ飛ばした。


「フィーア!グレネードに魔力を纏わせてくれ!!」


「うん!」


 そのやり取りで何をしようとしているのかを察したのか、ツヴァイがドライに指示を出す。


「アハト・・・わかった!ドライ、もう一度フェンリルをけしかけてくれ!」


「あんたなんかに言われなくてもわかってるわよ!

 フェンリル、あのでかぶつに一泡吹かせてやりなさい!!」


 相変わらずの憎まれ口を叩きながらも、ドライは素直にフェンリルに命令した。

 氷の狼は軽い動作で地面を蹴ると、正面からフェンフに跳びかかる。

 その牙が届く寸前で、フェンフがフィーアの魔法で凍ったままの腕を横なぎに振るった。


ガシャアアアン!!


 氷が砕ける音と共にフェンリルの胴が真っ二つにされて、空中で散り散りになる。


「ちょっとぉ!私のフェンリルに何するのよ!?」


 魔獣には死という概念が存在しないので召喚しなおせばまた同じフェンリルを呼ぶこともできるのだがドライは怒り心頭だ。

 その隙をついてアハトが後ろに回り込むが、フェンフはその行動に気づいていたかのように振り向こうとする。


「その動きは俺もお見通しだ!!」


 アハトはあらかじめ予想していたというように急に走り出したかと思うと。


「とーうっ!」


 なんとも軽い掛け声と共に、フェンフの背中に飛び乗った。

 フェンフの身体が高熱を放っているのかジュウっという音がしてアハトのローブが焦げるような音がする。

 さすがに予想していない動きだったのか、フェンフは身体を激しく左右に動かしてアハトを振り落とそうとした。


「く・・・っ!」


 装置が壊れた側の背中に飛び移ったので斥力で弾かれることはなかったが、このままでは振り落とされてしまう。


「喰らええええっ!!」


 落ちる寸前にアハトはグレネードのピンを抜いてフェンフに投げつける。

 それは残念ながら装置には当たらず、斥力に弾かれた爆炎が辺りを包みこんだ。

 巻き込まれたアハトは爆風で吹っ飛び地面を転がっていく。


「アハトっ!?」


 悲鳴に近い声を上げて、すぐにソフィが駆け寄った。


「アハトの攻撃を無駄にしはしないっ!」


 投げ飛ばされたアインはすぐに受け身を取って地面を蹴ると、フェンフに向かって突っ込む。

 グレネードの黒煙に紛れてアインもフェンフの背中に飛びつくが、運悪くそれは斥力が発生している側だった。

 アインはしまったと思いながらも他につかむものが見当たらず、そのまま手を伸ばしてパイプをつかむ動作をする。

 このままでは斥力によって弾かれる・・・誰もがそう思ったのだが。


バキッ!


「あ・・・え?取れたよ!?っていうか、触れた!!」


 どういう理屈かはわからないが、フェンフのパイプに触ることが出来ただけでなくお得意の怪力でうっかりもいでしまったようだ。


「え・・・うそだろ!?」


「わ~い!アインすご~い!」


 目の前の事態にツヴァイはただ驚き、フィーアはぱちぱちと拍手をする。


「よくやったわ、犬!」


 なぜか偉そうに仁王立ちしながら、ドライもほめたたえた。

 パイプを手にしたまま、アインはフェンフの背中から地面に飛び降りる。

 吸収していた魔力は動力源でもあったのか目の部分の赤い光が消えてフェンフの動きが止まった。

 それは思いもよらぬ偶然の勝利だった。


やった!勝った!仕留めた!第三部完!!

フラグ・・・(;´・ω・)

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