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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第7章『フェンフ』 ⑥

5月8日。

本日2回目の更新です(`・ω・´)

「犬っころ、あんたの武器に私の能力を付与してあげるわ!」


「おお!ありがとう助かるよドライ!」


「ふん、そうでしょうそうでしょう?あとで私の足を舐めなさい!」


 皆が行動を開始してすぐに、ドライもフェンリルを召喚する以外のことを思いついたようだ。

 ドライがアインの刀に手をかざすと、禍々しい光の渦が刃を包み込む。


「その攻撃に当たった相手は精神的にダメージを受けて体調を崩したり、鬱になって動けなくなったりするのよ!どう?すごいでしょ!悪意の付与って言うんだからね!」


 ドライがナンバーズとして研究を行われた結果得ることになった能力は、相手の心に触れ、その精神に多大な心的ストレスを与える精神干渉攻撃の一種だ。

 ストレスと一言で言ってもそれは並大抵のものではなく、場合によっては精神崩壊を招くほどに精神を破壊することもできる。


 特に悪意のある感情を直接相手の精神にぶつけて具合を悪くさせるのが得意だというようなことは、当人が昔からよく言っていた。

 ツヴァイと喧嘩したときなどの脅し文句として使っていたのだが、実際に皆にかけるようなことは一度もなかったのでその能力の程は実際にはわからない。

 だが、技のネーミングセンスはともかく相手が生き物である以上は、その攻撃は確かに有効だろう。


「ふふ、フィーアのいい子ちゃんなだけの能力と違って私のはちゃんと戦闘で役に立つんだからね!」


 ドライが自慢げに言うと、アハトと共にフェンフの攻撃機会を覗っていたフィーアは小さく首をかしげていた。

 フィーアとドライは双子であり、同じ精神干渉の実験をされているがそれぞれに与えられた能力は対極的なところにある。

 

 フィーアの能力は善意的な干渉をすることによって、相手の心に善意を導くことができた。

 以前、竜退治をした村で村人たちがフィーアの言葉をあっさりと受け入れてしまったことや、出会ったばかりのグレイが真っ先に心を許したことも、孫に似ていたということだけではなくその能力が要因の一つになっているはずだ。

 彼女自身が使おうとしなくても身を守るために勝手に発動してしまうこともあるらしく、昔はその度にドライに必要以上に能力に頼るなと怒られていた。


 もっともフィーアの能力に関して分かっているのは記憶を失う以前のことであり、今現在、彼女がどの程度その力を使うことができるのかは、いつも一緒にいるツヴァイですらもわかっていないようだった。

 対してドライは悪意的に相手を威圧したり恐怖させるような悪意を押し付ける能力だ。

 『悪意の付与』という能力もおそらくは精神干渉の一種で、相手に対して精神に異常をきたすレベルの悪意的な感情を注ぎ込むことによって身体にまで影響を与えるのだろう。




 湿原の炎の中を難なく潜り抜けてきたフェンフは、大剣を片手に丘を上がってくる。

 鎧の隙間から見える目とは言い難い2つの赤い光は、確かにこちらを捕らえていた。

 思っていたよりも早い動作で近づいてきたフェンフは、少し離れた場所にいたにもかかわらず、迷うことなくフィーアに向けて大剣を振り下ろそうとする。


「フィーア!逃げるんだ!!」


 それに気付いたツヴァイが叫ぶが足がすくんでしまったのか、フィーアは動くことが出来ずにその場に立ち尽くしていた。


「ちょっと犬っころ!フィーアを守りなさい!!」


「任せて!」


 ドライの言葉にアインがとっさに動いて、フェンフとフィーアの間に割って入った。


「風よ!アインを守って!」


 重い音がして振り下ろされた剣をソフィの風が軽減し、アインが刀で受け止めようとしたところで、斥力の影響か刃が逸れて肩を掠めた。


「アインっ!」


「フィーア、頼む!!」


 フェンフの大剣による衝撃でアインが傷を負ったのを見てフィーアが叫ぶが、アハトに声を掛けられるとすぐにそちらに向かって手をかざしながら目を瞑る。

 アハトが手にしたグレネードが柔らかな光を纏った。

 それはフィーアが一時的にグレネードを魔力で包み込んだ証だった。

 これならばフェンフの魔力吸収装置はグレネードを誤認して、攻撃が当たるはずだ。


「こっちを見るんだ!!」


 傷を負いながらも、アインはフェンフの真正面に立ち誘導する。

 その隙にアハトがフェンフの後ろに回りこんで、マイクログレネードを例の穴に向かって投げ込んだ。


「うおおおおっ!俺のグレネードをおまえにプレゼントだ!!」


 華麗なフォームで投げ込まれたグレネードは、見事なまでに赤い穴に吸い込まれ片方が爆発して壊れる。

 その衝撃で初めてフェンフがよろけた。


「やったか!」


 喜びの声を上げたのもつかの間、その攻撃はもう片方の装置の斥力にひっかかってしまったのか、爆炎が一部反射してフィーアが巻き込まれそうになる。


「ちょっと何やってんの爆弾魔!!フィーアに飛んで行ったじゃない!?」


「兄さん!フィーアを守って!!」


「もちろんだ!!」


 その爆発からフィーアを守るべく、アインが刀を振るった。


「ぐうっ!!」


 爆風が辺りを包み込んだがそれでもアインは刀を地面に突き立てて、フィーアを守るように踏みとどまる。


「ごめんね!ごめんねアイン・・・!」


「大丈夫だよフィーア!」


 2人が無事に立っているのを見てほっと肩を撫でおろしてから、キっと同時にアハトをにらんだドライとツヴァイの声が重なった。


「ちょっと危ないじゃない!」


「アハト、危ないじゃないか!!」


 だが、都合の悪いことは聞こえないのかアハトは平然としている。

 それに、確かにフィーアが危険な目に遭ったとはいえ、これで片方の装置は壊れた。


「僕も攻撃するよ!!」


 叫んで走りだしたアインが、フェンフの頭上に飛び上がる。


「うおおおおっ!!」


 その攻撃は、装置が壊れた側の半身に見事に直撃した。

 鎧の一部が砕け散り一度は動きを止めたかに見えたフェンフだったが、ドライの能力である『悪意の付与』はうまく作用しなかったらしく、何事もなかったかのように動き出す。


「ちょっと!なんで私の悪意の付与が効かないのよ!!」


「不発だったんじゃないのか?」


「あんたの爆弾と一緒にするんじゃないわよ!

 私の攻撃は生き物に対しては絶対的な効果があるんだからね!」


「つまり、フェンフは生き物じゃないってこと?

 でも、だとするとフェンフは見た目通りの鉄の塊ってことに・・・」


 ソフィが訝しがりながらもそう結論付けたのに対して、フェンフを眺めていたツヴァイが静かな口調で答えた。


「・・・どうやら、その予想は当たらずとも遠からずってところなんじゃないかな。」


 装置を破壊されたフェンフが背中から火花を散らしながら、こちらを振り返る。

 その傷口は出血しているどころか、金属の部品のようなものがむき出しになっておりバチバチと放電していた。

 それはどこからどう見ても、生身の人間には程遠い姿だった。


あと数章でフェンフとの決着をつけたいと思っています。

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