ホムンクルスの箱庭 第2話 第7章『フェンフ』 ④
5月6日。
本日はちょっと早めの2回目更新です~( *´艸`)
「そんなバカな!?あの状況で生き残れるはずが・・・!」
その光景を見て、アハトだけでなく全員が驚きを隠せずにいた。
フェンフの周りの炎が綺麗に避けているのが、こちらからでも見て分かる。
それにしたところで、あの周辺の温度や酸素の濃度からすれば、考えられない事態ではあるのだが。
「・・・フェンフの周りの空気が、おかしな動きをしている。」
冷静な口調でツヴァイが言って、フェンフを指さした。
「ああ、それはみればわかるが・・・」
「いや、そうじゃないんだ。
僕だとちょっとおかしい程度にしか見えないんだけど・・・フィーア、君なら見て分かるだろう?」
「うん!あのね、背中のあたりの出っ張りに魔力が吸収されてるのが見えるの。」
魔力の流れを見ることに長けているフィーアに尋ねると、すぐにそう答えが返ってきた。
「でっぱり?」
「ほら、あそこだよ。」
アインが目を凝らしてよく見てみると、フェンフの背中の肩甲骨に当たる場所に2つの突起が出ている。
羽のような大きなものではないが、明らかに普通の鎧のデザインにはないものだ。
「おそらく、あそこから魔力を吸収してあの現象を起こしているんだ。」
「炎を避けてる原因がそれってこと?」
ソフィの問いかけに、ツヴァイは軽く首を横に振る。
「ううん、魔力の吸収はあくまでも動力源でしかない。
魔力で動いている何らかの装置が、斥力のようなものを発生させているんだ。」
「ツヴァイ、せきりょく・・・ってなあに。」
聞いたことのない言葉だったのか、フィーアが不思議そうに首をかしげる。
「そうだな・・・引力の反対っていえばわかりやすいかな?
反発しあう能力、他のものに例えるなら、磁石の同じ極を近づけた時にどうやってもくっつけない空間が出来るだろう?
あれと同じような現象を、フェンフは自力で起こしているってことになる。」
「やはりそうだったか・・・グレネードの爆発が返ってくるのもそのせいだな。」
ツヴァイの説明にようやく合点がいったのか、グレネードを組み立てながらアハトが頷いた。
「でもまあ、それはそれとして今の現象は不可解だけれどね。
いくらフェンフの周りに斥力場があるといっても、周辺の熱量まではじき返すのは相当な技術が必要だし、仮にたとえそれが出来たとしても酸素の濃度はどうすることもできないから。」
そんな会話をしていると、思ったよりも早く目覚めたドライがアインの肩の上でバタバタと暴れ始めた。
「は・・・!あ、あんたたち、こんな明るい所だったら皆殺しにするのなんて簡単なんだからねっ!!
っていうか、犬!放しなさいよ!?」
「い、犬・・・」
そう呼ばれるのも久しぶりだなぁなどと思いながら、仕方なくアインはドライを地面に下ろしてやる。
「ドライ、皆と仲良くしようよぅ・・・」
目が覚めた途端にけんか腰になるドライに、フィーアは困ったように眉をひそめた。
「・・・あんたのこといじめていいんだったら。」
「う、うん・・・私のことはいじめていいから。」
「それはだめだ。」
仕方なくフィーアがそれを許容しようとすると、ツヴァイが庇うように前に出る。
それを見て何を思ったのか、アハトがずいっと一歩前に出た。
「よう、お嬢ちゃん。」
「なによ、爆弾魔。」
フィーアを追っている間にさんざん爆発に巻き込まれたこともあり、うさん臭さ大爆発の爆弾魔アハトに対して当然ながらドライは余計に警戒を強める。
「暗いのが怖いんだって?」
「な、何言ってんのよ!」
「これをあげよう。」
アハトが笑顔で差し出した物は、スタングレネードだった。
「これを使えば一時的に世界は明るく見えるだろう。」
音と光の爆弾であるスタングレネードを使えば、確かに一瞬周囲は明るくなるだろう。
しかし、それは強力な閃光で人の視界を奪うための爆弾だということは、ドライには分からなかったらしい。
「マジで!マジで?」
「ああ、素晴らしい物なんだこれは。しかも作り立てほやほやだ、鮮度は保証するぞ。」
「しょうがないわねえ、じゃあ使ってやるわよ!」
グレネードに鮮度があるのかはともかく、ドライは大喜びで受け取って大事そうにしまった。
アハトがにやり、と笑みを浮かべていることにはドライ以外全員が気づいていたが、特にそれを止める様子もなく眺めている。
「お守りとして、大事に取っておくがいい。」
「ふふん!こんなもの渡して後悔しても遅いわよ?」
「はっはっは。お近づきの印だよ。」
お得意の仲良くなった相手に、グレネードをプレゼントするアレらしい。
今回はピンも抜いていないし、スタングレネードな分だいぶマシではあるが。
「しょうがないわね!
こんな素敵なプレゼントをくれるなんてどきどきするじゃない。
爆弾魔、あんただけは生かしておいてやるわ!」
プレゼントがよほどうれしかったのか、ドライは随分とご機嫌だ。
「さて、とりあえず私たちも傷を回復して態勢を立て直しましょうか。」
ソフィが風の精霊の力を借りた回復魔法で全員の傷を治すのを眺めながら、ドライが尋ねる。
「あんたたち、フェンフのことどうするつもりなのよ?」
「もちろん倒すつもりだよ。」
「あんなの放っておきましょうよ?やばいわよあれ。」
「駄目だ、放っておけばファニアの街が破壊されてしまう。正義の味方としてそれは無視できない。」
「別にいいじゃないそんなこと。ぶっちゃけ私たちには関係のないことだわ。」
アインの言葉にドライが実にクールに犯罪組織の一員らしい返し方をすると、フィーアがおずおずと言葉を挟んだ。
「で、でも・・・あの街が破壊されて、私たちみたいにさらわれる子供とかが出てきたら。」
遠い昔、フィーアとドライは親元からさらわれて施設に連れてこられた。
人間とエルフ族の間に生まれた2人は、通常の人間たちよりも魔力が強かったことと、双子であったことから実験体として有用であったためだ。
その時のことはドライも今でも忘れることはできない。
親元からさらわれ、真っ暗な中に閉じ込められて何日も運ばれた。
気付いた時には知らない場所で、震える2人を大人たちが捕まえて実験室に連れて行った。
ドライはフィーアのことを庇おうとしたがそれは叶わず、2人とも狭いガラス製のポッドの中に詰め込まれて何度も実験を繰り返されて・・・。
「・・・別に他のやつらがどうなってもかまわないけど。
あれを放っておくとこの先フィーアが危ないから私もやってやるわよ!!」
ぷいっとそっぽを向きながらドライがそう言ったのを見て、フィーアが表情を輝かせる。
「ありがとう!ドライ、大好き~!」
喜んで抱きつくフィーアを、ドライがべしっと叩いた。
「はう・・・どうして叩くの~?」
「なんとなくよ!」
乱暴に言いながらそっぽを向くドライは顔が真っ赤だ。
「ふう・・・皆傷は治った?」
「ふむ、おまえ回復魔法の使い過ぎで魔力が尽かけてるな・・・これを飲むんだ。
他の連中にも分けてやろう。」
アハトが謎の薬品を取りだして、ソフィと皆に順番に手渡す。
「ちょ、ちょっと・・・変な物じゃないでしょうね!?」
「安心しろ、単なるポーションだ。」
ポーションは錬丹術で薬草や薬品などを合わせて作る薬品だ。
飲むことによって傷や魔力を癒すことのできるのだが、これはどうやら魔力を回復する効果があるらしい。
「うん・・・大丈夫そうよみんな。」
アハトのお手製らしいポーションをソフィが試しになめてみたところ、飲んだ瞬間に爆発するようなことはなさそうだ。
「ファ○ト!いっぱ~つ!これでまだフェンフと戦える!ありがとう、ソフィ、アハト!」
ポーションをごくごくと飲み干したアインが謎の掛け声の後、立ちあがり皆を見回して大きく頷く。
それに対して皆も応えるように頷いた。
少し遠出しなければならないので申し訳ありませんが小説の更新は明日はお休みする予定です。
またすぐに書き始めますのでその時はぜひよろしくお願いします(*ノωノ)




