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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第7章『フェンフ』 ②

5月5日。

本日2回目の更新です(*‘ω‘ *)

「うおおおおおっ!」


 ソフィを荷物のように小脇に抱えて、アハトは街を疾走していた。


「どこに行く気なのよ!?」


「大丈夫だ!問題ない!」


「答えになってな~い!!」


 その後ろから、フェンフが追いかけてくる。

 あの巨体で細い路地を抜けるのは難しいらしく、大剣で障害物をなぎ倒しながら進んでいた。

 人々が逃げまどい、警備兵たちも集まってくるが、フェンフの進行を妨げることは出来そうもない。


「船を使って水路を逃げるのは!?」


 幸いフェンフは建物に行く手を阻まれて、進む速度はそれほど早くない。

 逃げるだけなら船を探して、大きな水路を通ったほうがいいのではないか?

 そんなソフィの提案に、アハトは後ろを振り向きフェンフの位置を確認してから答えた。


「駄目だ!こっちについてきてもらわなきゃ困るんだよ。」


「なるほど。」


 どうやら、アハトはただやみくもに街を走っているわけではなく、目的があるらしい。


「なら、街の人たちには災害の一種だと思って我慢してもらうことにしましょう。」


 フェンフはただ街を通行しているだけなので、ちょっかいをかけたり運が悪くなければそれほど被害は出ないはずだ。

 大騒ぎになっているので、よほど無関心でなければ気づかないということもないだろう。

 通行先にある家の人々には、ご愁傷さまと言うしかないが。


「どこに行くの?」


「川上だ!」


 この街は北にある水門を閉開することによって川から水を取り入れており、その周辺は浅く水が張った湿地帯になっている。

 川上にあるものと言えば、それくらいしか思いつかないのだが。


「あ・・・ひょっとして、あんたが昼間言っていた場所?」


「ああ、あそこならいろいろとやりやすいからな。」


 グレイの屋敷の周りは郊外とはいえ他の家もあり、ゼクスにはいいようにされてしまった。

 そのことを考えると、広い場所で戦うというのは妥当な選択肢ではある。

 フェンフの動きが鈍いことを利用して、街の中で戦うという方法もなくはないが、あの通り攻撃を跳ね返すのでは街の被害が拡大するだけで、根本的な解決にはならなさそうだ。


「アハト、あんたあの妙な能力がなんだかわかったの?」


「そうだな、なんとなくはわかったが、情報を共有してツヴァイと相談だ。」


「湿地におびき出した後に皆と合流するのね?」


「そのつもりだ。」


「了解、目的はわかったわ。じゃあ下してくれる?」


 いつまでも抱えられているのはなんとも居心地が悪いので、ソフィは下に降りようとしたのだがアハトは放してくれなかった。


「駄目だ。いざという時に、俺にはお前が必要なんだ。」


「え・・・?」


 その上、真剣な口調で言われてなぜか一瞬ドキッとしてしまう。


「ピンチに陥った時に、お前にはやってもらいたいことがある。」


「な、なにをすればいいの?」


 らしくもなくどぎまぎしながら、ソフィは尋ねた。


「こう、グレネードの爆風に乗ってだな。」


「ん・・・?うん?」


 なんだか雲行きが怪しくなってきたような気がするが、とりあえず最後まで聞くことにする。


「南○シルフ砲弾としてフェンフに向かって飛んでい・・・」


「誰がやるかああああっ!!」


 突っ込みで蹴りを入れられない代わりに、ソフィは思い切り叫んだのだった。




「さて、どうするかな。」


 湿地の見える丘まで来たところで、アハトはようやくソフィを下ろした。

 街の方は警備兵たちがフェンフに攻撃でも仕掛けたのか、火事になっている場所がある。

 その炎を物ともせずに建物の瓦礫を踏みつぶしながら、フェンフはこちらに向かって歩いてきていた。

 やはりフェンフに触れた周辺の炎は、不自然に避けて周りに広がっている。

 燃え盛る炎の中を巨大な漆黒の騎士が悠然と進んでくる様は、なかなかに見ごたえのある光景だった。


「あれを見ると、見せしめのためにフェンフが反乱国に送り込まれていたっていうのが事実だってことがわかるわね。」


 攻撃の一切効かない巨大な黒騎士が街を破壊しながら迫ってくる光景は、多くの者にトラウマを植え付けてきたに違いない。


「フェンフ一人で小国を滅ぼしたって話もあるくらいだ。まともに相手をして勝てるとは思えないな。」


「聞いた時には随分と大げさな話だと思っていたけれど、今なら納得だわ。」


 いくら優秀だったといっても一介の工作員でしかないソフィが、ナンバーズと直接かかわる機会はほとんどなかった。

 アルスマグナの命令によって各地を回っていたフェンフとゼクスが、本部にほとんどいなかったというのも原因の一つではある。


 なのでどうせ、噂を広めるために大仰な言い方をしているだけだろうと思っていたのだが、実際に目にすると認めざるを得ない。

 やはりナンバーズは、実験体の中でも特殊な部類なのだということを改めて感じる。


「・・・そういえばアハト、あんたもナンバーズなのよね。」


「ん?」


 ふとそんなことを思って声をかけると、アハトはとぼけたように首を傾げた。


「あんたも、フェンフやゼクスみたいに特殊な能力があったりするわけ?」


「はっはっは、俺にはグレネードがあればそれで十分だな。」


「たとえ持っていても、手の内は明かさないってことね。」


「・・・そうだな、あると言えばあるが、使う気がないとだけ言っておこう。」


「なるほど。」


 どんな能力なのかはわからないが、少なくとも今、この時に使うものではないらしい。


「なら、私たちが今持っているもので何とかするしかないわね。」


「なぁに、他の連中と合流して作戦を練ればなんとかなるさ。」


「あれだけ派手にやられたのに気楽よね。まあ、それくらい前向きじゃないとやってられないか。」


 得意のグレネードはフェンフには効かず、引きずりまわされて気絶までしたというのにアハトはまだあきらめるつもりはない様だ。


「何言ってるんだ。お前が言ったんじゃないか、先のことくらいは前向きに検討しろと。」


「え・・・そんなこといったっけ?」


 アハトはさらっとそんなことを言ったが、少なくともソフィの記憶にはない言葉だった。


「・・・まあいい、そろそろ奴が来るから俺は仕掛けを発動させに行くぞ。」


「私も付き合うわ。何かできることはある?」


「そうだな、それなら・・・」


 耳打ちをされると、ソフィは頷いてアハトと共にその場を後にした。


あらすじをちょっとだけ変えました~(`・ω・´)

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