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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第6章『追跡者』 ⑧

5月4日。

本日2回目の更新です。

ゴールデンウィーク中も読んでくださってありがとうございます(`・ω・´)


「あったかい?ドライ。」


 フィーアは約束どおり、ドライの冷えてしまった手を温めていた。


「べ、別に!あんたのせいでこうなったんだし、お礼とか言わないからね!!」


 ぷいっとそっぽを向いたドライをじっと見つめて、フィーアは言葉をかける。


「ねえ、ドライ。やっぱり私たちと一緒に行こう?」


「だ、だから・・・あんただけならいいけど他の連中は・・・」


「どうして?皆のことが嫌いなの?」


 その問いかけに対し、ドライは複雑な表情を浮かべる。


「嫌いって言うか・・・気に入らない。」


「どうして?」


「だってあんたは私のものなのに、あんたはあいつらにいい顔するじゃない!」


「だって、家族だから。」


 ドライの独占欲が強いのは昔からだが、フィーアからすると皆家族なのでそれに関してはぴんと来なかった。

 ただ、ドライが自分を大切に思ってくれているのだろうということはなんとなくわかる。

 たとえそれが、いじめるという方向性だったとしてもだ。


「それと・・・ツヴァイが気に入らない!」


「ツヴァイは優しいのに?」


 2人の仲があまり良くないのは知っているが、ドライが向こうの組織に行くまではそれなりに折り合いをつけて一緒に過ごしてきた。

 なのでドライがそんな風に言うことが、フィーアには不思議に思える。


「優しい?腰抜けの間違いでしょう!だいたい、私はあいつが家族面してみんなの中に混ざってるのが嫌なの!!」


 言葉を口にしてからすぐに、フィーアが悲しそうにしているのを見てドライはハッとしながら視線をそらす。


「私は悪いことを言ったなんて思わないわよ?本当のことなんだから・・・」


「ツヴァイは私たちにとって家族なの・・・ずっと一緒にいたいの。

 だから、そんな悲しいこと言わないでおねえちゃん。」


 その会話を、ゼクスはにやにやとしながら見ていた。

 これから殺されるとも知らずに、敵に回ってしまった姉を必死に説得している妹。

 あまりにも期待通りの展開だ。

 姉妹が仲直りしたところで片方を殺せば、その絶望はいかほどの物か。

 そう考えるだけでぞくぞくしてくる。


 カチャ・・・と錬金銃に例の銃弾を込めてゼクスはスコープを覗いた。

 腕か足か、一撃で死なないような場所に撃ち込んでやるだけでいい。

 ゼクスの指が引き金にかかり、まさに銃弾が撃ちだされようとした時だった。


ガシャーン!!


 スコープが黒い影で塞がれたかと思うと、顔を上げる間もなく窓から何かが飛び込んでくる。

 わずかに開けられていた窓をガラスごとぶち破ったのは、言わずと知れたアインだった。

 アインはゼクスの首をつかむと、そのままの勢いで壁に叩きつける。


「がは・・・っ!!」


 2メートルもある体格の体重を乗せた一撃を喰らって、無事でいられるはずもない。

 ゼクスは喉をやられて血を吐き出す。


「手加減はしたよ。」


「ぎさ・・・ま・・・なぜ・・・?」


「どうして僕がここにいるのかって?それは先回りしたからさ。」


 まさかそんなことをされているとは思いもしなかったのか、ゼクスが目を見開いた。


「おまえは僕の目の前で家族を殺すと言った。

 だったら必ずこっちのほうに戻ってくる、そう考えたんだ。」


 アインが手を放すと、ゼクスはその場に膝をついて激しく咳き込む。


「向こうの3人に関してはフェンフに任せるみたいなことを叫んでいたから、狙うならこっちだと思ったよ。」


「ぢぐしょう・・・」


 声帯を潰されたのか、掠れた声でそう言ったゼクスは、さすがに諦めたのか首を垂れて俯いた。


「僕たちと一緒に来るのが嫌なら、アルスマグナに戻って本部に伝えてくれ。

 いつか必ず正義の味方がお前たちを倒しに行くと。」


「・・・!?」


「今度僕たちを狙うなら容赦はしないけど、武士の情けだ。今回だけは見逃して・・・」


 アインが皆まで言うよりも早く、ゼクスが動いた。


「ふざけるんじゃねええええ!!」


「な・・・っ!?」


 血を吐きながら叫ぶと、ゼクスは銃を構えて放った。

 反射的にアインは長刀を抜き放ち、錬金銃ごとゼクスを切り裂く。

 それよりもわずかに早く狙いをつけているのかいないのかもわからない一撃は、アインの横を掠めて外に撃ちだされた。

 それと同時に、アインが振り向くよりも早く外で声が聞こえる。


「フィーア!危ない!!」


「おねえちゃあああんっ!!」


「フィーア!?ドライ!?」


「へへ・・・ざまぁみろ・・・」


 最後にそう呟くと、ゼクスは床にぐしゃっと倒れる。

 月明りの中でその周りに赤黒いものが広がっていくのが見えたが、今はそんなことはどうでもいい。


「2人とも無事か!?」


 窓から落ちんばかりの勢いで身を乗り出したアインの視界に、折り重なるように倒れている2人の姿が映る。


「そ、そんな・・・!?」


 まさか、最後にゼクスが放った弾が当たったというのか。

 体中の血の気が引いていく。

 

 僕はまた、家族を守れなかったのか・・・?


 顔面蒼白になるアインの目の前で、倒れていた片方が動いた。


「お、おねえちゃん・・・」


 それはフィーアで、彼女は慌てたようにドライの身体を揺する。

 先ほど2人は、アインが窓に飛び込んだことに気付いていた。

 あれだけ派手にガラスが割れたのだから、音で気づくのは当然だ。

 それによってゼクスがいると分かった2人はそこから離れようとしたのだが、その途中でフィーアはドライに押し倒されたのだ。


「しっかり・・・しっかりして?」


 ゆさゆさと一生懸命に揺すると、ドライが小さく声を上げる。


「う・・・あ、あれ?」


 そしてガバッと起き上がると、不思議そうに自分の身体を見回した。

 ゼクスが放った弾は、確かにこちらに向かって飛んできたはずだ。


「フィーア!あんた怪我は!?」


「ううん、私は大丈夫。おねえちゃんは?」


「私も・・・どういうこと?」


 それなのに、2人とも傷一つ負っていない。

 その時、近くの茂みからガサッという音がして、2人はそちらを振り向いた。


「よかった・・・間に合った。」


「ツヴァイ!」


 すぐにフィーアが、嬉しそうにそちらにかけていく。

 ぜえぜえと肩で息をしているツヴァイは、額に汗をにじませながらその場に倒れ込むように膝をついた。


「あう!しっかりして!?」


「守れてよかった。フィーア。

 あのブローチがあるのはわかってたけど・・・やっぱり僕が自分で守らなきゃってそう思って・・・。」


「ツヴァイ、寒いの?震えてる・・・」


 ツヴァイを支えたフィーアの手に、微かな振動が伝わってくる。


「違うよ、大丈夫。」


 震える声でそう返したツヴァイを、フィーアはいつも持っているぬいぐるみごとぎゅっと抱きしめる。


「私が温めてあげる。」


「フィーア・・・ありがとう。」


 その様子をドライは無言で眺めていた。

 今の一撃は、確かにフィーアを庇った自分に当たっていたはずだった。

 それが当たっていないということは、おそらくはツヴァイが寸前で例の力を使って弾いたのだろう。

 ドライは何か言いたげに口を開こうとするが、すぐにきゅっと口を引き結んでいじけたようにこう言った。


「なによ・・・結局いいところ全部持っていくわけね。別に助けてくれてありがとうなんて言わないから。」


「そうか・・・なら僕が言うよ。フィーアを守ろうとしてくれてありがとう。助かった。」


 ツヴァイがほっとしたような笑みを浮かべてそう伝えると、ドライが一瞬固まる。


「・・・は、はあ!?あんた何言ってんのよ!!私は別に・・・!」


「ありがとう、おねえちゃん。」


 顔を真っ赤にして言い繕おうとしたところでさらにフィーアがにこっと笑ってお礼を言うと、ドライはますます顔を赤くして乱暴に言い放った。


「違うから!私が転んだからフィーアを引っ張って一緒に転ばせてやっただけなんだからね!?

 庇おうとか考えてないわよ!とっさに身体が動いたりもしてないんだからね!!

 そもそも私は、あんたたちの敵としてここに来たんだから!!」


「そうか、でもありがとう。」


「ありがとう。」


「だからっ!お礼なんか言うんじゃないわよ!?」


 その様子を窓から見ていたアインは、全身の力が抜けたように両ひざをついていた。


「よかった・・・ほんとに・・・」


 失っていなかった。

 今度は自分は大切な者を奪われていなかった。


「あれ・・・?」


 透明な雫が頬を伝って床に数滴落ちる。

 自分は以前に、大切な者を奪われたことがあったのだろうか?

 そんな考えが頭をよぎったその時だった。


グオオオオオオン!!


 雄たけびのような声が聞こえてきたのは。


「今のは・・・フェンフ!?まずい!アハトとソフィに任せてきてしまったんだ!」


「すぐに行かないと・・・ドライ、一緒に行こう?」


 フィーアが手を差し出すと、ドライは首を横に振ってそれを拒んだ。


「な、なんでよ!私は敵だってさっき言ったでしょうが!」


「でも・・・」


「くだらない意地を張ってないで、一緒に来たいなら来たいって言えばいいだろう?」


「なによ!私は意地なんて張ってないんだからね!!」


 それを見てさすがにツヴァイが呆れたように言うと、ドライも負けじと反論してくる。

 このままでは、いつものように喧嘩が始まってしまう。

 そう思った時だった。


「よいしょ!」


 2階の窓からアインが飛び降りてくる。


「兄さん、ゼクスは倒せたんだね?」


「ああ、ツヴァイ、2人を守ってくれてありがとう。」


 ツヴァイの言葉に頷くと、アインはドライの方を見た。


「な、なによ犬・・・」


「うん、ちょっとごめんね。」


「へ・・・?あうっ!?」


 にこにこと笑顔で近づいていったアインは、ドライの腹部に拳を入れて気絶させる。


「あう!何するのアイン?」


「いや、下手に暴れると逆に危ないと思って。」


 フィーアがびっくりして尋ねると、アインはひょいっとドライを肩に担ぎ上げる。


「良い判断だよ兄さん。それじゃあ、アハトとソフィを助けに行こう。」


「ああ!」


 アインが先に走り出し、ツヴァイとフィーアもそれに続いた。


やっとゼクス戦終わったああああ(´;ω;`)ウゥゥ

少し戦って終わりにするつもりが思っていた以上に長くなってしまいました(;´・ω・)


次回フェンフ戦です(; ・`д・´)


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