ホムンクルスの箱庭 第2話 第6章『追跡者』 ⑦
今日はせっかくのお天気なのに風が強いですね(。>д<)
植木鉢がどこかに飛んでいきそう(´・ω・`)
「まてっ!!」
「待てって言われて待つやつがいるわけねぇだろうが!」
窓から飛び出し屋根伝いに逃げるゼクスを、アインは追いかけていた。
視界は煙に閉ざされて、煙の臭いで鼻も利かない。
足音だけを頼りに追跡していたのだが、すぐに見失ってしまう。
見渡す限り真っ白で燃えている建物の方向から、かろうじて自分の位置を把握できた。
グレイの屋敷から数軒離れた家のようだ。
こちらの騒動はとうに知れているのか、街の方が騒がしくなってきた。
空を切る鋭い音に、アインはぴくっと耳を動かしてその場を飛び退る。
打ち抜かれた屋根の一部が、砕けて飛び散った。
「どこだ!?」
どういったわけか、今度はどこから撃ったのかを音で判断することが出来ない。
弾丸が特殊なのか、それとも・・・
アインはわざとその場に立ち尽くして、目を瞑って音を確認する。
ヒュン・・・っ!
やはり微かにだが、空気が振動する音が聞こえる。
ぎりぎりでかわして飛んできた方向を確認するが、そちらには潜めるような場所はない。
「これは・・・!?」
足元を砕いたのは銃の弾ではなく、小型のボーガンの矢だった。
今度は2か所から同時に音が聞こえる。
「く・・・っ!」
一つをかわしてから、まるで狙ったかのように着地点に打ち込まれたもう1発を、ギリギリのところで屋根を蹴ってかわす。
だが、さらにその着地点に、今度は銃の弾が撃ち込まれた。
「ぐう・・・っ!?」
さすがにかわし切ることが出来ずに、わずかだが足を負傷してしまう。
がくっと片膝をつきかけたアインは、そのまま屋根を転がるようにして下に飛び降りた。
ゼクス一人しかいないはずなのに、なぜ何か所からも同時に攻撃を仕掛けることが出来るのか。
その理由があるとすればアインは誘い込まれたのだ。
おそらく、元からトラップ式の罠が張り巡らせてあって、何らかの要因でボーガンの矢が撃ちだされるようになっているのだろう。
あの場所で戦い続けるのはこちらが不利になる一方だ。
かといって、ゼクスと距離を開け過ぎれば自分が狙われなくなる代わりに他の者たちが狙われる。
ほんの数秒逡巡してから、アインは足の傷に応急処置で服の裾を破って強く縛ると、何を思ったのかそこを離れた。
「ち・・・逃げたか。」
屋根から落ちたアインを追撃するために、ゼクスはスコープを覗き込んだがすでにその姿はなかった。
「まあいい、だったらおまえが逃げ回っている間に他の連中を撃つぜNO.1。」
舌なめずりするように言って、今度はスコープの対象を前方に移す。
フェンフが命令通りこちらに向かっているのを、追いかけてくる連中が見えた。
その中には残念ながらNO.3とNO.4はいないがまあ良しとしよう。
さて、どいつを狙うかな。
いい具合に煙幕も風に流されて視界が開けてきた。
NO.2は直接狙っても意味がないとわかっているので除外する。
そうすると残っているのは2人だ。
一人はNO.8、全身黒づくめの怪しいナンバーズ。
グレネードを使う以外はこれといって特徴はないが、あの男からは自分に似た空気を感じる。
自分が人殺しを心から楽しんでいるように、グレネードを爆破させることを生きがいにしているような狂人だ。
だが、自分とは違うところもある。
あの男がこちらの派閥を抜けて、自分の居場所をわざわざ向こうの派閥に選んだ理由。
それが情報によると、どうもあのシルフの工作員が原因らしいのだ。
「それじゃあちび助・・・お前にするかぁ。」
あのシルフが撃たれた時に、いかれ具合が自分と同じNO.8が、果たしてどんな反応をするのかなかなかに興味がある。
直接撃てばNO.2に邪魔される可能性もあったが、フェンフの能力を使って兆弾させれば原理がわかっていない今なら最初の1発なら当たるだろう。
その1発でゼクスには十分だった。
声が聞こえる距離まで十分に引き付けてから殺してやる。
そう思って銃を構えたそのとき灯していた明かり・・・建物の火事が消え去った。
狙っていた対象が見え辛くなって、ゼクスは訝し気にそちらに視線を送る。
「あの火を一瞬で消しただと・・・!?」
スコープを覗き込むと、月明りの下で建物が透明な結晶体に包まれているのが見えた。
「・・・NO.4の仕業か。」
NO.4はハーフエルフで氷魔法を使うことを得意としているという情報は事前に入手していたが、まさか建物を凍り付かせることまでできるとは。
ここまでかかった時間を考えると、多少なりとも手間が必要で頻発できるということはなさそうだが。
スコープ越しに視線を下に移すと、建物の下の地面に氷の結晶体が広がっているのが見える。
それは別の建物の陰から続いているようだ。
近くでは相変わらず罠にかかったNO.3が暴れており、そちらに向かって何か叫んでいるように見える。
つまり・・・
「あそこにいやがったか。NO.4。」
建物の陰からちょこっと顔を覗かせて様子を覗っている姿が、ゼクスのスコープ内に収められた。
NO.4はNO.3と会話をしているらしく、建物の陰から顔を出してはひっこめている。
その様子はまるで穴から出たり入ったりしている小兎のようだ。
それを見てゼクスはごくり、と生唾を飲んだ。
姉妹そろってなんという間抜けな姿なのだろう。
今すぐにでも狙撃してやりたいが一つ問題がある。
ここからでは声が聞こえないことだ。
どうせなら泣き叫ぶNO.3の声を聴きたい。
用意した弾頭でNO.4を死なない程度に撃ち、苦しんで死んでいく様を見せてやりたい。
資料にはエルフ族を即死させる毒の情報が記載されていたが、即死など面白くもなんともない。
そもそも、即死させるだけなら頭を打ち抜くだけでいい。
なのでゼクスは、その毒を別の物に作り替えた弾を用意していた。
その毒が体内に入ればNO.4はのたうち回り、血を吐きながら死んでいくはずだ。
そんなNO.4を見て絶望し、怒りを顕わにするNO.3の姿を見た後に、今度はあっさりと頭を吹き飛ばしてやりたい。
ゼクスにとって単なる任務の遂行よりも大切なことがある。
それは自分のそういった要求を満たすこと。
ちらっと他の3人に目をやった。
直進することをやめないフェンフを止めようと、試行錯誤しているようだ。
だったらその願いを叶えてやろう。
「フェンフ!そのままそこの3人と遊んでやれ!!」
叫んですぐに、ゼクスは走り出した。
煙幕はまだ、移動のために周囲の目をごまかすくらいなら残っている。
どこかに逃げたNO.1がついてこれる可能性は皆無だ。
心の中でざまぁみろと叫んで素早く屋根を飛び越えると、身を潜めるために割れた窓からグレイの屋敷に入り込む。
手頃な部屋まで移動して窓から外を確認するとゼクスはほくそ笑んだ。
何と愚かなのだろうか。
NO.4は建物の陰から走り出してNO.3のもとに駆け寄るところだった。
逸る心を押さえてゼクスはゆっくりと銃を構えた。
駆け寄ったNO.4は、NO.3の手を握ってにこにこと笑っている。
2人の最期の会話を聞いてやろうと、ゼクスは音を立てないように窓を開けた。
第6章が思ってた以上に長くなってしまいました( ノД`)…
次でゼクスとの戦闘は終わる予定です(´・ω・`)/~~
あと前の話のフィーアの魔法の説明を一部修正しました。




