ホムンクルスの箱庭 第1話 第1章『炎の旅立ち』 ③
プレイヤーたちのはっちゃけぶりにゲームマスターは涙が止まらないよ。
何かがおかしい・・・わかってるんです、でも止められないんです( ノД`)シクシク…
特に『ア』の付く2人組ぇ。いい子はマネしない。
※6月3日に文章の整理をしました。
「父さん母さん!
任せて、すぐに出してあげるからね!」
アインは施設長室のドアを開けようと頑張っていた。
施設を一周して戻ってくると、施設長たちが部屋から出られずに困っているところに遭遇したのだ。
ドアが開かない理由は2つある。
ひとつは、フィーアがドアの接続部に魔法で氷を張ってしまったこと。
もうひとつは、何を隠そうさっきアインが建物を大きく揺らしたことに原因があった。
「うーん。これは鍵が壊れてるのかなあ。」
もちろんアインにはそんなことは全く分からないので、単純にそう考えた彼は工具箱を持ってきて、鍵を交換しようとしているところだ。
「どうだいアイン、開きそうかい?」
「ええ、僕に任せて父さんたちはゆっくりお茶でも飲んでいてください!」
「そうか、じゃあそうさせてもらおうかな。」
「ちょっと、そんなことをしている暇は・・・」
施設長の呑気な対応に、傍にいた女性が注意しようとするが。
「いいじゃないか、せっかくアインが気遣ってくれているんだ。」
朗らかな様子で彼はそう答えた。
「はあ・・・コーヒーにしてちょうだい。」
何を言っても無駄と悟ったのか、女性はため息をつきながらもそうリクエストする。
「ブラックの濃いやつだね。待ってて、僕が入れて来よう。」
中から聞こえてくるそんな会話に、アイン自身もにこにことしながらドアのぶをグイっと回した時だ。
「・・・あれ?」
不思議なことにドアノブが手の中にあった。
アインはナンバーズの実験体として肉体を強化されているので、並はずれた怪力だった。
しかも当人にその自覚がないためによく物を破壊する。
「はああ!どうしようドアノブがとれてしまった・・・」
手の中のドアノブとドアを交互に見ながらアインが途方に暮れていると、そこにアハトがたまたま通りかかった。
「あ、アハト・・・どうしよう!ドアノブがとれてしまったんだ。」
名前を呼ばれてふと立ち止まると、彼は口元に笑みを浮かべてこう答える。
「後は俺に任せて、おまえは子供たちのところにでも行ってきたらどうだ?
直すのは俺の方が得意だし、そろそろ出発の用意もしなきゃならないしな。」
「それもそうだね、ありがとうアハト!
それじゃあ僕は、子供たちと一緒に旅に必要なものを揃えてくるよ!!」
それっぽい言葉にあっさり懐柔されたアインは、ドアノブを破壊したことはすっかり忘れて孤児院側の子供たちに会いに行くことにした。
アインが去って行ったのを確認した後、アハトはにやり、と笑ってローブから先ほどの黒い棒状の物――錬金爆弾を取りだす。
なぜそんなものがローブに入っているのか、今ではそのことに突っ込みを入れてくれる人は誰もいない。
アハトはもともとこちらとは別の派閥で8番目の実験体として造られた存在だ。
別の派閥に所属しているはずのアハトがこちら側にいる理由。
それは至極単純なものだ。
こちらの方が居心地が良いから、そのことに尽きる。
『どこかの小さな工作員』のようにスパイ活動をしているわけでもなくただ自由気ままに自分の好きなことをしているだけ。
向こう側の派閥も仲良くなった相手に必ずグレネードをプレゼントするアハトに対してはほとほと手を焼いており、むしろこちら側に押しつけることができてほっとしてすらいるようだった。
そして今日もアハトは笑顔でグレネードを設置する。
さっきまでドアノブがあったはずのその場所に、代わりにグレネードが差し込まれた。
「さあみんな!
ツヴァイのために力を貸してくれ。」
アインは孤児院側にある施設長室で、子供たちと一緒に旅に使えそうなものを集めていた。
孤児院側とはいえ、普段はもちろん施設長室に自由に出入りすることなどできないのだが、今日は施設長がいない、もとい施設側に閉じ込められているので入ることができた。
なぜ入ってはいけないはずの場所で、旅立ちのための物品を集めることになったのか、それはアインが本能的にここにいいものがありそうだと思いついたためだ。
「アイン兄ちゃん、これとかどうかな!」
「兄ちゃん、私のもあげるー。」
子供たちは当然、これが悪いことだとは思っていないので、アインに次々にいろいろなものを持ってきてくれる。
ちなみに、アイン自身もこれが悪いことだとはこれっぽっちも思っていない。
彼からしてみれば大切な弟のためにしていることだし、何より愛する父と母が弟のためにすることを、駄目だというはずがないと確信していた。
「ありがとう!
きっとツヴァイを助けてみせるからね!」
アインが子供たちに好かれる理由、それは一重に彼の性格にあると言えた。
実際のところ初めてアインを見た相手はたいてい怯えたり、警戒したりする。
それはそうだ、獣人自体は珍しい種族ではないが2メートル越えの体格のいい人狼族ともなれば、目の前に立たれるだけでも威圧感を覚えて当然だろう。
だが、当人自身が善意の塊のような存在であるためにたいていは話しているだけで打ち解けたり、打ち解けなくても勢いに飲まれて流されてしまうのだ。
その姿勢はよく言えば積極的、悪く言えば強引といった感じなのだが、基本的に悪意がないことが分かれば相手もむやみに敵意を向けてきたりはしない。
それは子供たちも例外ではなく、アインが帰ってくるとこうして集まってくるのだ。
『ツヴァイが助かれば父さんと母さんも喜んでくれる、だから僕はがんばらなくてはならないんだ。』
そんなことを心に誓いながらアインが書斎を漁っていると、施設長のデスクの引き出しが二重底になっており、外すと何かのスイッチがあった。
何気なく押してみると重い物を引きずるような音がして本棚がずれ、奥の部屋への入り口が現れる。
「兄ちゃんすげえ!秘密の部屋だ!」
「ああ、ここは調べなければならないな!」
子供たちと一緒に中に入って、備え付けのランプに火を灯す。
そんなに広くない縦長の部屋は、窓がないためか薄暗く、がらんとしていた。
空っぽの本棚が2つほど置かれているが、これといって何かがあるわけでもなく、いつから開けられていないのか部屋全体がとにかく埃っぽい。
元は何かの置き場だったのかもしれないが、そのほとんどが処理された後のように見える。
「兄ちゃん!こんなもんがあったぜ!」
子供たちの声に反応してそちらを見ると、部屋の隅に古い木箱があるのが目に入った。
中には壊れたおもちゃや目が取れて薄汚れたクマのぬいぐるみなどのガラクタが集められている。
「なんだよこれ、きったねぇ!」
「俺たちが持ってるおもちゃの方が、まだましだよな。」
子供たちの言うとおり、白いクマのぬいぐるみは泥水にでも浸かったのか茶色く変色していた。
だが、アインはそれに対して郷愁のようなものを感じる。
「なんでだろう?懐かしい感じがする。」
気になってごそごそと漁っていると、底の方に何かの資料の一部なのか羊皮紙の束が入っていた。
こちらも水に浸かったのか、それとも古すぎるせいなのか、紙はボロボロで文字も消えかけていてほとんど読めない。
そんな中、一枚だけ質の違う紙があった。
どういうわけか、その紙だけは劣化が他よりも比較的マシで、かろうじて読むこともできそうだ。
しかし、今はそれを読んでいる猶予はない。
一刻も早く、北の山に住むという竜を退治しに行かなければ。
「父さん、母さん!
お二人から頂いた物は決して無駄にはしませんから。」
せっかくなので、アインは懐にその資料をしまい込んだ。