ホムンクルスの箱庭 第2話 第6章『追跡者』 ①
ゴールデンウィークも頑張ります(/ω\)
紋章陣の光が収まった儀式場は、静かだった。
天井の窓から降り注ぐ月明りの中で、アインはそっとツヴァイを支え起こす。
誰も何も言わずに、2人のことを見守っていた。
「ツヴァイ・・・?」
そんな中、アインがおそるおそる話しかけると、ツヴァイはゆっくりとその手を放した。
片手を握ったり開いたりしながら、自分の身体を不思議そうに見た後。
「兄さん、みんな・・・ありがとう。どうやら僕は、まだ生きることが出来るみたいだ」
穏やかな笑顔で皆にそう告げた。
「ツヴァイっ!!」
フィーアが転びそうになりながら走ってきて抱きつくと、ツヴァイはそれを優しく抱きとめてやった。
「平気?もうどこも苦しくない?」
「ああ、不思議なくらい身体が楽だよ。」
「ここも痛くない?」
旅の最中、ツヴァイが何度も発作を起こしかけて、胸を押さえて苦しんでいる姿を見ていたのだろう。
心配そうに、フィーアはツヴァイの胸元にそっと触れる。
「フィーア・・・知っていたの?」
「うん・・・心配するとツヴァイが悲しい顔するから言わなかったの。」
発作を起こしかけている姿を見られていたとは思わなかったのか、ツヴァイが驚いたように言うとフィーアはしょんぼりとしながらそう答えた。
「そっか、ありがとう。僕はもう大丈夫だよ。」
「うん!」
その言葉に嘘がないことが分かったのか、フィーアは嬉しそうに笑う。
「本当によかった・・・!ありがとうございますグレイさん!」
それを見てアインがほっとしたように息を吐いてから、グレイに駆け寄ってがしっと肩をつかんだ。
「お、おお・・・成功したのか。」
やっと儀式の成功を確信できたのか、グレイ自身も心底ほっとしたような表情をする。
「やったなじいさん。」
「フィーアもありがとう!!」
アハトがフッと口元に笑みを浮かべ、アインは今度はフィーアの肩をがしっとつかむ。
傍から見ると襲い掛かるのではないかと心配になるところだが、アインにとってはその行動は親愛の証らしい。
「よかった・・・やっと役に立てたね。」
アインのそんな行動には慣れているのか、どこか透明な笑みを浮かべてフィーアは頷いた。
「みんなありがとうのう・・・わしはようやく錬金術で人を救うことができた。」
目に涙を浮かべながら、グレイは5人に対して頭を下げる。
「特にフィーア嬢ちゃん。ほんとに助かったぞ・・・わしは本当はここで死んでもいいと思っておった。」
それを聞いたフィーアは、いつもの笑顔に戻ってぎゅっとぬいぐるみを抱きしめる。
「だって、おじいちゃん言っていたよ。残された人が悲しい思いをするって。」
「そうじゃのう・・・そうじゃった。生まれ変わった気分じゃわい。」
この儀式に命を駆けるつもりでいたグレイは、フィーアの言葉に心を洗われた気分だった。
アハトとソフィも互いに視線を交わしながら頷き、アインも満足そうにその様子を眺めている。
しかし・・・
ドガアアアアンっ!!
そんな和やかな雰囲気をぶち壊したのは、何かの爆発音だった。
「なんだ、俺じゃないぞ。」
「ならゼクスね。」
アハトに相槌を打ってから、ソフィは外に先に飛び出して風の防御壁を張る。
皆が飛び出した瞬間を狙撃される可能性を考慮してのことだ。
続けて5人が外に飛び出すと、視界に入ったのは隣の家が燃えている様子だった。
煌々とたいまつのように燃え盛り、辺りを明るく照らし出している。
「待たせたわねっ!!」
すぐ近くから甲高い女性の声がしたと思うと、すぐにそれは悲鳴に変わった。
「きゃー!?何よこれっ!!」
全員の視線が集まる中で、フィーアに似た雰囲気のツインテールの少女が暴れていた。
「あ・・・それ、私が張っておいたの。」
フィーアがにこにこしながら言うと、ドライがきーっとなりながら文句を言う。
「ちょっとフィーア!放しなさいよ!氷の網なんて卑怯じゃない!!」
それはいつ襲撃されてもわかるようにと、フィーアがあらかじめ屋敷の周りに張り巡らせていた氷でできた網だった。
じたばたとドライが暴れれば暴れるほど、まるで蜘蛛の巣にかかった蝶のように網に絡まってしまう。
「ここで放さなかったらあとでひどいんだからねっ!!」
そんなドライの言い分におろおろとしながら、とりあえずフィーアはツヴァイの後ろに隠れることにした。
「なんて残念な子なんだドライ・・・」
その様子を見て、ツヴァイはさわやかな笑顔でそう呟く。
それと同時に、隣の建物がなぎ倒されて崩れた。
瓦礫の中から現れたのは、漆黒の甲冑に包まれた巨大な騎士。
普通の人間が扱えない大きさの剣を身につけた鎧騎士は、全身が闇のように黒く目の部分だけが赤く光っている。
「フェンフ・・・っ!」
その姿を見て、ソフィが険しい表情をした。
鎧騎士はソフィが思っていたよりもかなり大きく、ゆうに3メートルは超えているように見える。
「なんじゃあいつらは!?」
「ああ、あいつらが襲撃者だよ。」
「そうか・・・なんだかかわいそうな子もおるのう。」
グレイの視線の先には、フィーアの魔法にとらわれてジタバタしているドライの姿があった。
「なにすんのよ!」
「ドライ、そこにいれば怪我しなくて済むから~。」
のんびりした様子でフィーアに言われますます気に入らないのか、ドライは文句を言い続ける。
「何が怪我をしなくてすむよ!これじゃあ、私がフィーアをいじめられないじゃない!」
仲良し姉妹のやり取りを苦笑しながら見ていたソフィは一度、風の防御壁を解いて別の魔法を発動させた。
「グレイさん、申し訳ないんですけど先に避難していてください!」
「何を言っておるんじゃ!ここはわしも一緒に・・・うわあ!?」
ソフィがグレイに移動魔法をかけると、その姿がかき消える。
事前にソフィが起点を作っておいたため、グレイはここからかなり離れたところに置いてある馬車のあたりに移動したはずだ。
「ここであなたを死なせるわけにはいかないわ。あなたはフィーアたちの大切な人だもの。」
いくら優秀な錬金術師でも、ナンバーズと戦うのは危険だと判断したソフィの行動に誰もが頷く。
「おじいちゃん・・・すぐに迎えに行くからね。」
フィーアがにこにこしながらそんなことを言った時だった。
「避けなさいフィーア!」
「え?」
唐突にドライが叫んだのは。
風を切るような音がして、フィーアに向かって銃弾が撃ち込まれた。
次回から本格的に戦闘シーンに入る予定です・・・苦手だけど頑張りますっ(ノД`)・゜・。




