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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第5章『満月の夜の儀式』 ④

おはようございます~(*‘ω‘ *)


「ツヴァイ、いるかい?」


「あれ?どうしたの兄さん。」


 アインが部屋を訪ねると、ツヴァイは言われた通りにベッドに横になっていた。


「体調はどうだい?」


「うん、悪くはないよ。」


 ツヴァイはにっこりと笑って答えたが、アインにはとてもそうは見えない。


「・・・昨日の夜、グレイさんと何をしてきたの?」


「ちょっとフィーアに贈り物をね。」


「何か無茶をしたんじゃないのかい?随分と顔色が悪い。

 それに、今日だってお昼過ぎまで起きてこなかったじゃないか。」


 そこまで言われるとさすがにごまかせないと悟ったのか、ツヴァイは苦笑しながら正直に答える。


「・・・さすがにばれちゃうか。うん、昨日はちょっと賢者の石を使ったんだ。」


「なんでそんな危険なことを!?」


 賢者の石を体内に宿しているだけでも、今のツヴァイにとっては負担だ。

 それなのに、その力を使ったりすれば消耗するのは分かりきっていることだというのに。


「薬だって、もう残り少ないんだろう?」


「フィーアがぬいぐるみの中に隠してくれていた分がまだあるよ。」


「それにしたって・・・」


 思わずお説教しようとしたアインが口を開くよりも早く、ツヴァイが真剣な表情で言った。


「僕の力は、フィーアを守るためにあるからね。」


「それは・・・でも、それでツヴァイが倒れたら意味がないじゃないか!」


「そうだね、でもね兄さん。もしフィーアに何かあったらそれこそ意味がない。

 彼女に危険が迫っているのがわかっていて何もしないでいるなんて無理だ。

 僕はそこまで自分を優先できない。」


「ツヴァイ・・・」


「僕はね、兄さん。フィーアのことを愛しているんだ。」


 その言葉に、アインは何と返していいかわからなくなる。

 自分だって、家族のことは愛している。

 弟であるツヴァイのことはもちろん、血の繋がっていない他の者たちのこともだ。

 

 でも、それが弟の言う愛していると違うということは少しだけ理解できる。

 ツヴァイはフィーアに恋をしているんだと。

 けれども、その気持ちはアインにはまだちょっとわからない。

 自分が誰かに恋をしたことがないから、というよりは皆のことを平等に愛しているから。

 誰だけが特別、という感情をまだ抱いたことがないから。


「僕はそういうのはまだわからないけど、一つだけ言えるとしたらツヴァイが無茶をして悲しむのはフィーアだけじゃないってことだ。」


 自分はもちろん、ソフィやアハトだって悲しむ。

 ただ、そのことだけをわかってほしい。

 真剣なまなざしで語り掛けると、ツヴァイもまた譲れないというように答えた。


「兄さんにはまだちょっと早いかもしれないけど、人を好きになると譲れないことがあるんだよ。

 頭ではどんなにわかっていても、気持ちが納得できないんだ。」


「ツヴァイは頭が良いのにかい?」


 普段から自分たちに的確なアドバイスをくれるツヴァイとは思えない発言に、アインは驚いてしまう。

 弟はいつだって、冷静にものを考えることが出来ると思っていた。

 その中でどんな時でも、最良の選択をしているのだと思っていたのに。


「そういうのって頭の良し悪しじゃないんだ。理屈抜きで、大切な人を優先してしまうんだよ。」


「それで他の人が悲しむことがわかっているのに?」


「そうだね。」


 きっぱりと答えた弟に、アインは少しだけむっとしてしまった。

 他が悲しむとわかっているのに、たった一人を優先してしまうツヴァイはなんて子供なんだと感じてしまう。

 そのことが伝わってしまったのかツヴァイはぽつり、と言った。


「・・・兄さんは、まだそういう部分に関しては幼いんだね。」


「僕が幼い?子供なのはツヴァイの方だろう。

 周りの迷惑を考えずに自分の思いだけを優先しているんだから。」


 その言葉に、ツヴァイはいつものように穏やかに微笑むばかりだ。


 そして・・・


「でもそうだね。兄さんの言うことも一理ある。

 今回みたいな無茶はよほどのことがない限りはもうしないよ。」


 にこっと笑ってそう言ってくれた。


「そうか、わかってくれるならそれでいいんだ。」


 別に自分だって、弟と言い合いをしたいわけではない。

 自分たちが心配していることさえわかってくれれば、それで十分だ。


「それで、一体どんなことをしたんだい?」


 アインとしてもそこは気になるところだったのか、もう一度問いかける。

 賢者の石の使い方に関しては、アインも興味があった。


「そうだね・・・フィーアに何かあった時、1回だけどほんの少しだけ時間を巻き戻せるようにした。」


 アインに遠回しな物言いは意味がないと思ったのか、ツヴァイはわかりやすく説明した。


「時間を巻き戻す・・・!?」


「それ以上はまだ秘密だよ。

 僕の力に関しては儀式が成功して組織と戦うことになれば、言わなくても見る機会が増えるだろうし。」


 アインが驚く様子が面白かったのか、くすっと笑ってツヴァイは自分の口に人差し指を当てる。


「僕の賢者の石も、そういったことが出来るのかな?」


「それはわからない。

 僕がたまたまそういったことが出来るだけで、兄さんが同じことが出来るとは思えないな。」


「そうなのか・・・」


 がっかりするアインに、ツヴァイはフォローするようにこう言った。


「兄さんは自分の使い方を模索するといいよ。

 僕は頭脳の強化を中心とした実験を多く受けてきた。

 だからこそ空間や時間を、普通の人間とは違う感覚で見ているんだ。

 うまく説明はできないけれど、これを兄さんが同じようにできるかというとそれは違うと思う。」


「僕の使い方・・・」


「兄さんは肉体を強化されているからね。

 それに伴ったものになるか、それとも全く別の物なのか。

 それは正直、僕にもわからないけれど・・・。」


「なるほど、ちょっと頑張ってみるよ!」


 この先、組織と接触する機会が増えれば、戦わなければならないこともあるだろう。

 その時に賢者の石の力を自在に使えたなら、それほど心強いことはない。


「うん、無理はしないようにね?賢者の石は便利なだけのものじゃない。

 無茶な使い方をすれば相応の代償が必ずある。」


「その言葉はさすがにそのまま返すよ、ツヴァイ。」


「あはは、僕は節度は守って使っているつもりだよ。」


「フィーアに何かあったとしても?」


「・・・そこは、ノーコメントかな。」


 困ったように笑ってから、ツヴァイはふうっと息を吐いた。


「ごめん、疲れちゃったかな?」


「大丈夫だよ、儀式までには何とかなるさ。」


 本当はツヴァイを休ませてやりたいのだが、もう一つだけ聞いておきたいことがある。


「もう一つだけいいかい、ツヴァイ。」


「なんだい、兄さん?」


「ツヴァイは・・・ドライのことが嫌いなのかい?」


 その質問にツヴァイは驚いたように目を見張る。

 

そして・・・


「嫌い、というのとはちょっと違うけど・・・あえて言うならドライは僕のことが嫌いだろうね。

 そして、僕はそれで構わないと思っている。」


「どうしてだい?フィーアのお姉さんなんだからツヴァイにとっても家族だろう?」


「兄さん・・・家族だからこそ、僕はその気持ちを受け入れなきゃいけないんだ。」


「何があったのかは今は聞かないけれど、僕はそれじゃあだめだと思う。」


 家族が自分を嫌っているのに、何もせずにそれに甘んじるというのは何かが違う。

 アインはそう思ってツヴァイをたしなめる。


「そうだね・・・僕がもしある約束を果たせたなら、何かが変わることもあるかもしれない。」


 それに対して少し考えた後、難しい表情をしながらツヴァイがそう伝えるとアインは明るい表情で頷いた。


「それだったら僕も手伝うよ!

 ツヴァイとドライが喧嘩をしているのを見ているのは悲しいからね!」


「兄さん、喧嘩だったら僕とドライは小さな頃からしているじゃないか。」


 ドライがフィーアをいじめ、ツヴァイが間に入って喧嘩になる。

 それは幼いころから何度も見られた光景だ。


 けれど・・・


「違うよ、今の2人はそういうのとは違う。僕にだってそれくらいはわかる。」


 2人の関係がその頃とは違ったものになってしまったことは、アインにもわかっていた。


「そっか・・・じゃあ、兄さん。その時が来たらお願いできるかい?」


「もちろんだ!僕に手伝えることがあったら何でも言ってくれ!」


「頼りにしているよ。兄さん。」


「おーう!それじゃあ、ご飯が出来たらまた呼びに来るよ。」


 嬉しそうに言うと、アインはツヴァイの部屋を後にする。

 アインが去った後、ツヴァイはほんの少し憂い気な表情で・・・。


「兄さん・・・僕はドライに許されちゃダメなんだよ。

 だって、僕はフィーアを守るって約束を守れなかったんだから。」


 珍しく弱気な言葉を口にして、静かに目を閉じた。


次回はソフィとフィーアの話です。

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