表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
33/172

ホムンクルスの箱庭 第2話 第5章『満月の夜の儀式』 ③

4月28日

今日2回目の更新です。

「私がおじいちゃんにおいしいごはんを作ってあげる!」


 夕方、儀式の前にフィーアがピンクのエプロンをつけながら言った。

 普段、旅の途中で料理をする時に着けているお気に入りのものだ。

 彼女なりに、グレイに何ができるか考えた結果らしい。


「そうかそうか、それはうれしいのう。」


 そんなフィーアの申し出に、グレイは顔をくしゃくしゃにして喜ぶ。


「私も手伝うわ。グレイさんは向こうで休んでいてください。」


 フィーア一人で6人分もの食事を作るのは大変だと思ったのか、ソフィも手伝うようだ。


「では、そうさせてもらうかのう。」


「最後の晩餐、か・・・」


「アハト、あんたにはご飯の代わりにグレネードでも出しましょうか?」


 縁起でもないことを言うアハトに、ソフィは笑顔のまま額に怒りマークを浮かべている。


「俺は確かにグレネードを愛しているが、すべてのグレネードを受け入れられるわけではないぞ。」


「それを言うならグレネードのすべてでしょう・・・はあ、とにかく料理の邪魔はしないでちょうだい。」


 ため息をつくと、ソフィはフィーアを連れてキッチンに入っていった。


「僕はちょっとツヴァイのところに行ってこようかな。」


 ツヴァイは食事まで身体を休めるように言われて、今は2階の部屋にいるはずだ。


「ああ、行ってくるといいさ。」


 アインを見送ったアハトがどこかに行こうとすると、グレイが声をかける。


「おぬしは、少しはじっとしておれんのか。」


「俺は一つのところに留まるのが苦手なんでね。」


「まあいい、ちょっと一緒に来い。」


「なんだ、トイレか?」


「なんでわしが、お前と一緒にトイレに行かなきゃならないんじゃ!?」


「介助が必要なのかと思ってな。」


「そこまでもうろくしてないわいっ!!」


「ふむ、儀式についてか?」


「わかっているならさっさとついてこんか!」


 いきなりまともに話し出すアハトに、グレイはぜえぜえと肩で息をしながら先に歩き出す。

 軽く肩をすくめて口元に笑みを浮かべながら、アハトは大人しくついていった。




「それで、どうするんだじいさん?」


「床に薬で紋章を描くから手伝え。」


 玄関近くにあるホールには、今夜の儀式用の装置や薬が揃えられていた。

 その中からグレイは青色の液体の入った瓶を数本取り出して、アハトに手渡す。


「ふむ・・・しかし、俺は紋章術についてはあまりわからんぞ?」


「なんじゃ、昨日あれだけ語っておったじゃろうが。」


「受け売りさ。昔の知り合いのな。 さあ、どうすればいい?」


 フッと笑うと、アハトは瓶の蓋を開けて尋ねた。


「わしが紋章術を描くから、その通りに薬をかけてくれればいい。」


「了解だ。」


 グレイは2つのポッドの間にある、10メートル四方の空間に白墨で巨大な円を描き始める。

 その上に言われた通り薬をかけながら、アハトは10年前のことを思い出していた。


 あの日、アハトはある人物に頼まれてこの街を訪れた。

 当時8歳のアインに行われる予定だった儀式は、賢者の石を強化し、当人にその力を使うように仕向けるというものだった。

 アハトに依頼した人物は、アインに強制的に賢者の石を使わせる実験に反対していた。

 儀式を阻止するためにいろいろと手を尽くしたが止めることはできず、せめてそれを自分の代わりに見届けてほしいという依頼だった。


 むろん、アハトは儀式を阻止するつもりでこの街に来た。

 しかし、アインの実験に対する警備は思っていた以上に厳しく、潜入に成功した時にはちょうど儀式が始まっていた。


 紋章陣が光り輝き、中心に寝かされていたアインにその光が集まっていく。

 結局、自分はまた何もできないのかと絶望しかけた時だ。

 奇跡が起きた。

 アインに集まったはずの光が唐突に消えたのだ。


 当然大騒ぎになり、組織の人間たちは原因を究明しようとしたがわからなかった。

 その頃は錬金術師がまだこの街に多くいたこともあり、誰が同時に儀式を行ってそれを台無しにしたのかというところまでは突き止められなかったようだ。

 グレイがアルスマグナに属さない錬金術師だったことも、要因の一つだろう。

 まさか組織に属さない人間が、紋章術を使うことが出来るなど誰も思わなかったはずだ。

 

 この土地は水の都ということもあり、錬金術と最も相性がいいとまで言われていた。

 何よりここには、アルスマグナが初めから計算して造った水路と地形があり、それによって錬金術の実験が成功しやすいようになっていたのだ。

 そうでなければ、多くの命を消費して賢者の石の強化を図るという計画は、持ち上がりすらしなかった。


 いくら孤児院を経営し生贄となる身寄りのない人間を集めたり、どこからか攫って来てもそれを行うだけの人数を集めるのは容易なことではない。

 土地の魔力の大半と多くの生贄を無駄にした組織は、アインの実験を中止してこの街の支部を捨て、それに伴い組織に所属する多くの錬金術師がこの街を離れた。


 アハトがこのことを他の4人に伝えなかったのは、言ったところで仕方がないと思ったからだ。

 自分に行われた儀式せいでこの土地の魔力が枯れたことを知れば、アインは少なからず自分を責めるだろう。

 たとえ自分に被がないとわかっていてもだ。


 彼はまっすぐな男だ。

 アハトはアインのそういう部分を気に入ってもいるし、危なっかしいとも思う。

 年長者のアハトにとっては、アインたちは自分が面倒を見るべき子供たちだ。

 そんな彼らががっかりするのをわかっていて、わざわざ過ぎた昔のことを伝える必要もない。


 最初、ソフィの口からこの街の名前が出た時に、アハトは何か運命的なものを感じた。

 この街の魔力が当時枯渇したことは知っていたので一瞬、止めようかとも思った。

 だが、この街の地形はやはり捨てがたいものがある。

 10年の間に、土地の魔力もある程度は回復したはずだ。

 そう思い、アハトは皆と共にこの街を訪れることにした。

 そして偶然にも・・・いや、どこか運命的にグレイと出会ったのだ。


「・・・じいさん、俺はあんたに感謝しているぜ。」


「なんじゃい、藪から棒に。感謝するのは小僧の儀式がうまくいってからにせんかい。」


「そうだな。」


 グレイになら、ツヴァイの命も託すことが出来る。

 なぜなら、10年前にアインを救った奇跡を起こしたのもまた彼だからだ。

 グレイは儀式が失敗したと憂いていたが、それによって救われたものもある。

 そんなことを思いながら、アハトは儀式の準備を手伝うのだった。


セリフが読みづらいとの指摘がありましたので長めに取るようにしてみました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ