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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第5章『満月の夜の儀式』 ①

4月27日

本日2回目の更新です(`・ω・´)

「ツヴァイ、もう大丈夫?」


「ああ、心配かけてごめんね。少し疲れていただけだよ。」


 昨夜、アイン、ソフィ、アハトの3人は掃除をした別の部屋で休んだのだがフィーアだけはツヴァイの部屋のベッドで彼が帰ってくるのをうとうとしながら待っていた。

 そして、明け方に戻ってきたツヴァイは疲れ果てたように隣に横になって、お昼頃まで目を覚まさなかったのだ。

 先に起きたフィーアは朝食も食べずにずっとツヴァイについていて、彼が目を覚ましてから少し遅い朝食を2人で食べた。


 今はツヴァイに誘われて、グレイの家の近くの丘から2人で街を眺めているところだ。

 今日は天気も良く、街を流れる水が太陽をキラキラと反射している。


「今夜は儀式だね。」


「うん。」


 どこか緊張した面持ちのフィーアに、ツヴァイが優しく笑いかけた。


「大丈夫だよ、フィーア。きっとうまくいくさ。」


「うん・・・でも、フェンフとゼクスが来ているかも知れないんだよね?」


 その名前にツヴァイも一瞬、表情を曇らせる。

 昨日のアインとソフィの報告から察するに、この街にすでにゼクスが潜伏しているのは間違いないだろう。

 下水道にあった多数の死体は、ゼクスらしい人殺しを楽しんだような方法で殺してあったらしい。

 ゼクス当人に会ったことはないが、遭遇したくない人物なのは確かだ。


 その上、ソフィが言うにはフェンフと呼ばれる正体不明のナンバーズがいつもゼクスと行動を共にしている。

 街には行方不明者があふれており、警備兵たちは犯人を必死に探しているらしく街の雰囲気もどことなく落ち着かない。


「フィーア、手を出して?」


「・・・?」


 フィーアが言われたとおりにすると、ツヴァイはその手に何かを乗せた。


「わあ、すごく綺麗。ツヴァイの瞳と同じ色!」


 それは、蒼い色の宝石に艶のない銀色の金属のふちどりがついたブローチだった。


「おじいさんと協力して作ったんだ。

 本当はその子・・・そうちゃんだけでいいと思っていたんだけど、物騒になってきたからね。」


「私がもらってもいいの?」


 ブローチを太陽にかざして喜ぶフィーアに、ツヴァイは優しく微笑む。


「もちろんだよ、おじいさんと相談して用意したものなんだ。

 フィーアを守ってくれるお守りだよ。」


「うれしいの!ありがとう。」


 フィーアはさっそくというように、胸元にブローチをつけてみせる。


「かわいい?」


「すごくかわいいよ、きっとフィーアの身を守ってくれるはずだ。

 絶対に身から放してはいけないよ?」


「ずっとつけてる!」


 よほどうれしいのか、何度もブローチに触っているフィーアを見つめてツヴァイは尋ねた。


「フィーアは、全部終わったら何がしたい?」


 全部、それがどこまでを指しているのかは正直ツヴァイ自身にもわからなかった。

 自分の身体のことなのか、フィーアの記憶のことなのか、組織とのつながりのことなのか。


「えっとね、ずっとツヴァイと皆と一緒にいたいな♪」


 いつかと同じ言葉を、フィーアは純粋な笑顔と共にツヴァイに送る。


「そっか、じゃあみんなが一緒にいられる場所を探さないといけないね。

 もし僕がそんな場所を見つけられたその時には・・・」


「ツヴァイ・・・?」


 きょとん、とするフィーアの手を取ってツヴァイが見つめた時だった。


「見つけたわよフィーア!!」


 よく響く女性の声が辺りにこだまする。

 その声を聞いた途端、条件反射のようにびくっと震えてフィーアがツヴァイの後ろに隠れた。

 それに対して、ツヴァイも片腕をフィーアの前に出して庇うような体勢を取る。


「フィーア!見つけたわよ。よくもこの私から逃げてくれたわねぇ。」


 声の主は、堂々とした態度で2人の方に歩いてきた。


「あんたは私にいじめられるために存在してるんだから、逃げたりしたらだめじゃない!」


 それは、フィーアによく似た少女だった。

 フィーアと同じ紅い瞳、同じようにツインテールに結った髪。

 違うところがあるとすればフィーアとはまるで正反対のきつい性格と紅色の髪、つり上がった目つきくらいだろうか。

 その少女をツヴァイの陰からちょっとだけ顔をのぞかせてじーっと見ていたフィーアは、目が合うとひゃあっとなって再び隠れる。


「ドライ・・・フィーアはおまえにいじめられるためにいるわけじゃない。

 そんなことしか言えないんだったらさっさとここから消えろ。」


 フィーアに対するものとは180度違う冷たい表情と口調で、ツヴァイは相手に言い放った。


「むきーっ!フィーア!なんでそんなやつの後ろに隠れてるのよ。

 黙ってないで何か言いなさいよ!」


 ようやく顔をのぞかせたフィーアは、すでに涙目でぴるぴると震えながらドライに話しかけた。


「ど・・・どうしていじめるの?」


「そんなの、あんたの泣き顔を見るのが好きだからに決まってるじゃない!!」


 ドライがそんなことを自信満々に言い放ったので、フィーアはまたツヴァイの後ろに隠れた。


 しかし・・・


「そんな風に隠れてると、そいつをぶち殺してあんただけ連れて行くわよ!」


 さすがに聞き捨てならなかったのか、フィーアは慌ててツヴァイを庇うように前に出る。


「そうそう、あんたは私の言うことだけ聞いてればいいの。

 昔からそうやって、ずっと一緒にいたじゃない。」


 フィーアが自分の言うことを聞いて満足したのか、ドライがそんなことを言った。


「フィーア、出なくていいよ。」


 すぐにツヴァイがフィーアの肩に触れて笑いかけると、自分の後ろに隠す。


「あの施設に引き取られる前もその後も、私だけそばにいてあげればあんたは生きていけるの!」


 それに対して、フィーアは戸惑うような表情を見せた。

 遠い昔のドライとの出来事は、フィーアの記憶の中にはない。

 なんとなく覚えているのはドライが自分をいじめていたことと、ずっと一緒にいた相手であることだけ。


「それ以外の奴は、私が全員ぶち殺してやるんだからね!」


「そんなのだめ・・・っ!」


 そんなことはさせないと言うように、フィーアは首を横に振る。


「あんた・・・いつから私に口答えするようになったのよ。

 私のことを避けるようになったのも全部その男のせいよね。」


「違うよ、ツヴァイのせいじゃないよ?」


「そうだな。ドライ、おまえのせいだ。」


 実際のところは、ドライにフィーアがいじめられる様子を見かねたツヴァイが助けに入ったところから3人の関係は始まったのだが、はっきりいえばドライがいじめるのが悪いだろう。


「私・・・ドライのこと好きだよ?でも、ドライは私といると悪い子になっちゃうから。」


「そんなの・・・みんな私のこと悪い子って言ってるわよ!

 当り前でしょ?私は、そういう風に作られたんだからっ!!」


 2人は相手の精神に干渉することを目的として造られた実験体だ。

 ドライは人の負の感情に対する干渉を、フィーアは人の正の感情に対する干渉をすることに特化している。

 

それによって2人は他の人間に精神干渉することで、その感情を増強し援護したり操ったりすることが出来た。

 ただ、フィーアに対してドライはなぜか好意を悪意的なもので表現することが多く、それに気付いたフィーアはできるだけ距離を取ろうとしているだけなのだが。


「あんたは私の傍にいなきゃいけないの!

 あんたの周りにいる連中を皆殺しにされたくなかったら、あんたは私と一緒に来なさい。」


「あ、あう・・・」


「そんなことはさせない!」


 すかさずツヴァイが、フィーアを守るように前に出た。

 ドライとツヴァイの間で、フィーアはどうしたらいいのかわからず、おろおろとするばかりだ。


「ツヴァイ・・・私はあんたなんか信用してない!

 フィーアのこと守る守るとか言ってたくせに、あの子がなんかしようとしてたのを止められずにこのざまじゃないの!!」


 小さな子供のように怯えているフィーアを指さして、ドライはわめきちらす。


「フィーアがおかしくなったのは、全部あんたのせいなんだからね!!」


 そのことに関してはツヴァイも何も言えずに、ぐっと言葉を飲み込んで拳を握った。


「フィーア、最後の忠告よ?ここであんたが一緒に来ないなら私は他の奴らと手を組んで、あんたの周りの奴を全員皆殺しにしてやるから。」


 それを聞いてフィーアが泣きそうになると、ドライはむっとしたように服の袖をめくって包帯を巻いてある部分を見せた。


「酷いとか言わせないわよ!?

 私だってあんたを追ってる最中に謎の爆発に巻き込まれてひどい目に遭ってるんだからね!!

 2回くらい死にかけてるし!ここ見なさいよ!この包帯のとこ、釘が飛んできたんだからねっ!!」


「あ、それ僕だ。」


 涙目で言ったドライに、ツヴァイが表情を変えずにさらっと言ってみせる。

 どうやら隠れ家を爆破する際に巻いた釘は、きっちりとその役目をはたしていたようだ。


「マジムカつく!ほんとあんたたちぶち殺してやるわ!

 いつもいつも私のこと置いて行って・・・絶対に許さないんだからね!」


「じゃあドライも私たちと一緒に行こう?」


 その言葉に寂しさのようなものを感じたフィーアがそう提案すると、ドライは目をそらしてぼそっと言った。


「・・・それは嫌。」


「どうして~?」


「だってあんたが私のものにならないじゃない!

 他の奴らが全員死んでフィーアだけになるならいいわよ?」


「そ、それはだめえ。」


 にこにこと笑顔でそんなことを言うドライに、フィーアは一生懸命に首を横に振る。

 交渉は見事に決裂したらしい。


「だったら覚悟しておくことね!

 今日はあのいけすかない連中と手を組んでぼこぼこにしてやるんだから!

 居場所だってこれでもうばれてるんだからね!」


「あう・・・」


 ドライが仁王立ちで胸を張ってから、びしっとフィーアを指をさした。


「ふん!怖くなってきたでしょう?あんたの泣き声は最高よ!

 あんたが一緒に来ないんだったらほんとに今言ったようにしちゃうからね!」


 フィーアがドライについていくべきかどうか迷っていると、ツヴァイがそれを手で制してこう言った。


「そんなのダメに決まってるだろう。

 おまえがそういう自分勝手なところを改めるなら一緒に連れて行ってやってもいいが、今のおまえじゃ駄目だ。」


「きーっ!何よ偉そうに!覚えてなさいよ!

 次に会った時は泣いてひざまずかせてやるんだからね!」


 悔しそうに言ってドライは近くに止めてあった小舟に飛び移ると、必死に漕ぎながら去って行った。


ドライはフィーアよりもちょっとだけ背が高い設定です。

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