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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第3章『廃墟の施設』 ③

4月25日、本日2回目の更新です。

 その日の夜、アインとソフィは例の廃墟を訪れていた。

 夕方頃に様子を見に来る予定だったのだが、明日の儀式の準備が予定よりも長引いてしまったのだ。

 それでもまだ足りない分は、今もアハトとツヴァイ、フィーアがグレイの指示の下に行っている。


「3人には悪いけど、こっちも調べなきゃいけないからね。」


「ああ、その代わりと言っちゃなんだけどお土産を持って帰らないとね!」


 鉄製の門は押してみるとギイっという重い音がしたが、鍵はかかっておらず容易に敷地内に忍び込むことができた。


「ふーん、確かにぱっと見は廃墟だけど、人が通った跡があるわね。」


 ソフィが屈んで足元を調べると、アインも辺りの匂いを嗅いで頷く。


「うん、最近人が通ったにおいがするね。破棄された施設のはずなのに。」


「まあ、鬼が出るか蛇が出るか?何があるかはお楽しみってことで。」


 工作員としてこういったことには慣れているのか、ソフィは口元に笑みを浮かべている。

 なぜか建物の扉にも鍵はかかっておらず、あっさりと侵入した2人は、辺りを見回してから同じ場所に視線を戻す。

 これだけ古い建物であるにもかかわらず、不自然なくらいに埃が少ない。

 特に、部屋の奥にある2階への階段の陰が顕著だった。


「これ、隠し扉よね?」


 床に不自然な真四角の区切りがあり、その上にだけは埃がほとんど積もっていなかった。


「よし、開けてみようか。お、意外と重いぞ。」


「まってアイン、なんか生き物の気配がするような気がするんだけど・・・って!」


 隠し扉の裏側に気配を感じたソフィは止めようとしたのが、アインは気配に気付かずに区切りの両端に手をかけて開けてしまった。


がりがりじゃりじゃりじゃり・・・っ!!


「ちょ、ちょっとアイン!?なんか変な音してるわよ!!」


「あ、あれ?スライドさせちゃまずかったかな。」


 扉がかなり重かったので、アインは完全には持ち上げず横にずらしたのだが、その際に何かをすりつぶすような音がした。


「え、えっと・・・助かったけど、これはちょっとひどいわね。」


「で、でもほら、この扉重いしすべりがよくなったんじゃないかな!」


 よくわからないフォローを自分でするアインはさておき、ソフィが思わず両手を合わせて合掌する。

 扉の裏側には、核ごとすりつぶされた紫色のスライムがご臨終していた。

 本当は扉を普通に開ければ、このスライムが襲いかかってくる予定だったのだろうが、残念ながらそのような正攻法がアインに通じるはずもない。


「・・・にしても、こんなものが仕掛けられているってことは、この支部はまだ機能している可能性があるってことよね?」


「とりあえずこの蝋燭使っちゃおうか。」


 通路の右側に置いてあった蝋燭に火をつけて、アインは先に地下に続く階段を下りて行く。

 5メートルばかり進んだ先に扉があり、2人は一度その前で立ち止まった。

 アインは大きな耳をドアに押し当てて、中の音を確認する。


「なんか機械っぽい音がする。」


「研究施設なのかしら?ドアは・・・鍵は掛かっているけど壊せば入れそうね。」


 ソフィもアインに習って耳を押し当てると、確かにゴウンゴウンと何かが動いている音がする。

 それはこの場所が、錬金術の施設である証拠だとも言えた。

 なぜなら、大規模な実験を行う上で機械を使った装置は欠かせないものだからだ。

 小さな合成獣キメラなどを保存するためのポッドや液体の循環装置程度ならともかく、合成やそのデータ収集には機械装置が必要不可欠となってくる。


 どうやら、ここが錬金術の施設だというアインの予想は間違っていないようだ。

 2人は中に人の気配がないのを確認してから、鍵を壊してゆっくりと扉を開ける。

 部屋は10メートル四方程度だろうか?

 蝋燭を前に差し出すと明かりに照らされたのは、研究用の長机と奥にある3つの巨大なポッドだった。

 それらはアインの身長をゆうに越え天井付近まである。


 中には濁った液体が入っており、1つ目と3つ目には生物らしきものが入っているように見えるがその正体はここからはわかりそうにもない。

 これだけの大きさのものだと従来の錬金術を用いた循環装置では間に合わないのか、傍にはポッド内の液体を循環させるための機械があり先ほど聞いたのと同じ大きな音を立てていた。


 それらのポッドにはアインもソフィも見覚えがある。

 型は古かったがナンバーズの調整の際に、あるいは実験体の合成獣キメラなどを保存しておくために使われる物によく似ている。

 そして3つ目のポッドの近くには、アインの身の丈よりも巨大な剣が設置されておりそれはとても人間が扱えるものには見えなかった。


「どう見ても使ってるわね。破棄されていたのを最近使い始めたのかしら・・・」


「でも、どうして人がいないんだろう?」


「さあ・・・どこかに出かけているか、はたまた合成獣キメラに食われたか?」


「ええ!?」


 にやりと笑いながら言ったソフィに、アインが慌てる。


「冗談よ。それにしてもあの剣はなんなのかしらね?」


「うーん、中に入ってる実験体の持ち物かな?かなり重そうだけど。」


 アインがそちらに近づこうとすると、ソフィが鋭く声をかけた。


「待って!そのポッドの周りに警報装置が仕掛けてあるわ。」


 その声に、アインはぎりぎりのところで足を止める。

 よく見るとほとんど見えないほど細い赤色の光線が、ポッドの周辺に張り巡らされていた。


「さすがソフィ、危なかったよ。ありがとう!」


「どういたしまして。」


「仕方ない・・・あのポッドには近づけそうにないし、警報装置にひっかからないように他の情報を探そうか。」


「そうしましょうか。」


 警報装置が発動すれば、おそらく中にいる何かは出てくるだろう。

 わざわざ寝た子を起こすようなまねはしたくない。

 2人はポッドに近づかないようにしながら、資料のある棚や薬品棚を順に調べて行く。


「・・・これ、何かしら?」


 棚にあったファイルの中からアイン、ツヴァイ、ドライ、フィーアに関する資料が出てきた。


「・・・なによ、これ。」


「僕たちのことが書いてあるみたいだね?」


 アインが言うとおり、それにはナンバーズ4人への対処法が書かれていた。

 アインに関しては、胸のあたりに賢者の石の位置を示すような資料があり、そこを狙撃することが有効であること、ツヴァイに関しては肉体の強度が低く薬の制限時間が切れれば動けなることが、フィーアに関しては、何らかの物質を投与することで即死するような内容が書いてある。


 どうもそれには、4人が組織に敵対した場合にどのように始末するが記されているようなのだ。

 ドライについても書いてあるようだが、正直それは後回しだ。


「面白くないわね。」


 ソフィからしてみれば、それはあらゆる意味で面白くない。

 仲間の殺し方について書いてあるということも、もちろん面白くないのだがそれ以上に。


「私たちがどうするか、組織にはお見通しだったってこと?」


 これではまるで、自分たちが裏切ることがあらかじめ想定されていたようではないか。


「なんていうか、すっきりしないわね。」


 なぜこのようなものが、自分たちがたまたま訪れた施設に置いてあるのか。

 ここに自分たちが訪れることすらも、まさか組織にはわかっていたというのか。

 そんなはずはない、この街は間違いなくソフィ自身が選んだしこの施設のことはさっきまで知らなかったのだから。


 気にし始めればきりがないのだが、なんだか嫌な予感がしてならない。

 ここにいるのは、いったい誰なのか。

 背中がぞくっとする感覚にソフィは無意識に身震いすると、アインに外に出るように促す。


「とにかく、ここを早く出てこのことを皆に伝えましょう?」


「そうだね、いつ研究者たちが戻ってくるかもわからないし。」


 これ以上の長居は無用と悟った2人は、資料を持って施設から早々に立ち去ることにした。


「っと、その前に・・・やっておくべきことがあるわね。」


「うん、僕もそれが良いと思うんだ。」


 言わずともお互いの意図を察した2人は、互いに頷きあう。

 扉ですりつぶしたスライムを取ってくると、アインはその場に置いてある食料に、ソフィは警報装置に引っかからないよう薬品棚に上って、循環器の上部にある薬品を投与するための入り口にそれを投げ込んだ。


 紫色のスライムはベノムスライムと呼ばれていて神経系の麻痺毒を保有している。

 触ったくらいではどうともならないが、体内に入ると神経が麻痺して死に至るのだ。

 1分もしないうちに片方のポッドの中身が大きく動いたのがわかる。

 そしてしばらくすると、それは動かなくなった。


「さて、それじゃあ行きましょうか。」


 そのことを確認すると、ソフィはにっこりと笑顔でそう言った。

 元の入り口ではなく奥に続く通路を見つけた2人は、そちらに進んでみることにする。

 どうやらその通路は下水道を通って外に繋がっているらしく、風が通っていることにソフィが気づいたのだ。


「脱出用の別通路ってところかしら?」


 そんなに行かないうちに、2人は違和感に気付いた。


「・・・匂いがする。」


「そうね・・・これは血の匂いだわ。」


 アインがそういうと、ソフィも匂いを嗅ぎ取ったのか険しい表情をする。

 顔を見合わせると、2人は足音を殺してそちらに向かった。

 通路の陰から様子を見るためにそっと覗いた2人の目の前に、壮絶な光景が広がる。


「・・・これは!?」


 街の住人と思われる死体と研究員と思われる死体が、多数転がっていた。

 手足がもがれていたり、顔が切り刻まれていたり、死体をロープで縛って吊るしてあったり。

 どの死体も、殺し方を楽しんでいるような方法で殺されている。


「まさか・・・この街にあいつが!?」


 その光景を見て、ソフィには一人だけ思い当たる人物がいた。

 もう一つの派閥にいた時に出会ったナンバーズの一人。


 実験体No.6――ゼクス


「まずい・・・行くわよアイン!」


 もはや一秒もこの場にいられないというように、ソフィは慌てて出口に向かって走っていく。


「あ、ああ・・・」


 短く黙とうすると、アインもソフィの後を追った。


先日ブックマークが一つ増えました~(*ノωノ)

とてもうれしいです♪ありがとうございます~(*^-^*)

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