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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第2章『ファニアの錬金術師』 ②

本日2回目の更新です~。

 屋敷から出たソフィは、改めて街を見て回ることにした。

 水の都ファニア、そこは時計塔のある大きな広場を中心に、東西南北に巨大な石造りの橋がある。

 橋はアーチ状になっており、下を流れる水路は船が行き来していた。

 さらにその橋の先には4つの大きな区画があり、そこが人々の生活の中心となっている。

 主に広場が商業区、他の区画が居住区として使われているらしい。


 それぞれの居住区の間には大きな水路があり、中にも小船が通れる程度の細い水路が迷路のように通っていて、人々は日常の生活に水路を利用しているようだ。

 橋のおかげで歩いて移動することもできるが、多数の水路のために船があるほうが断然便利な造りをしている。

 街の水は大きな川から水門を通して流れ、時間帯により増減しそれによって浸水する場所もあるようだ。

 グレイの家は南の居住区、中心の時計塔から南西に位置するはずれの方にあった。


「馬車を元の場所に置いておくわけにはいかないわね。

 森に避難させないと。」


 街の入り口に置いたままでは、追手が来たときに見つかる可能性がある。

 そういった危険性は出来るだけ排除しておきたい。

 それから、街の地図を買って来いってアハトが言ってたっけ。

 ここは初めて訪れる街ということもあり、土地勘が全くない。

 その上、時間によっては通れない場所も出てくるとなれば、アハトの言うとおり地形を把握しておく必要があるだろう。


 少し時間はかかりそうだが、どちらもやっておかないわけにはいかない。

 この前と同じように。移動魔法の起点も作っておきたいところだ。

 備えあれば憂いなしってね。

 自分がするべきことを改めて確認してから、ソフィは街に繰り出した。




 一方、アインはというと・・・


 家の中にある錬金術に関する資料などを片づけていた。


「大切に扱わないと。」


 グレイの家の中は、錬金術に関する膨大な資料や道具が、そこかしこに無造作に置いてあった。


「グレイさんが長年研究して集めたものだ。

 綺麗に片づけておこう。

 ツヴァイを助けるために使えるかもしれないし。」


 アインなりのルールで次々と片づけられるそれらの中には、まだ使える物もありそうだ。


「わかりやすいように、ここら辺においておこう。」


 それらにどの程度価値のあるかは分からないが、アインは楽しげにそれらを積み上げた。




 その頃、何もするなと言われていたにも関わらず、アハトは自分勝手に行動を始めた。

 もともと誰かに行動を制約されるのは苦手だ。

 先ほどグレイがさりげなく伏せた写真立てをあげて、それを眺める。

 写真には幸せそうに笑うグレイと、おそらく孫娘であろう10歳前後の少女が一緒に写っていた。

 そして、その少女はこころなしかフィーアに似ている気がする。


「ふむ・・・」


 それから写真にはあっさりと興味を失ったのか、部屋の中を調べ始めた。

 この部屋にもそこかしこに錬金術の本やら何やらが置いてあり、錬金術師でもあるアハトにはそれがどういった系統のものかは容易に見当がついた。

 どうやら、グレイは医療系の錬金術を多く研究していたように思える。

 人体に関する研究や治療に関する資料が、所狭しと置かれていた。

 それらを見ても、ソフィの人選は正しかったと言えることがわかる。


 そこでは約束通り何もせずに、アハトは今度は部屋を勝手に出て家の裏手に回る。

 庭は荒れ放題といった感じだったが、少し離れた場所にいかにも隠してあるような裏口があり、入り口のカギは壊れていた。

 ドアを開けるとギギイッと錆びた金属がきしむ音がして地下に続く石造りの階段が見える。

 まったく躊躇することなくアハトはその階段を下りて地下室に入って行った。


 何もするなと言われていたのに、まったくそのことを守っていないようにも見えるが、アハトにとってはこれは何かをするの部類には入らないらしい。

 降りて行った先は真っ暗だったが近くにランプがあったのでそれをつける。

 そこは随分と長い間使われていないことが分かる研究室だった。


 上に在る研究施設とは明らかに違う、異質な空間。

 床には円とその中に何かの文様が描かれ、ここで何らかの儀式が行われたことを示していた。

 薬品棚の他にも何か動物を入れていたと思われる檻やガラスケース、一般的にはポッドと呼ばれる実験生物を入れておくための液体の満ちた巨大な試験管。

 ここでもおそらく、生命に関する実験などを行っていたのだろう。

 それらをしばらく眺めてから、アハトは満足したのか地下室を出て行った。




「案外慣れておるのう。料理はよくするのか?」


「ううん、ちょっぴりお手伝いするだけ。」


 そんな言葉とは裏腹に、フィーアは目の前にある野菜を慣れた手つきで皮をむき切り始めた。


「どうしたの?おじいちゃん。」


「いや、えらいと思ってのう。」


 フィーアが話しかけると、グレイはすぐに笑顔に戻って今度はお米の入った鍋を渡す。


「それが終わったらこれを洗っておくれ。」


「お米を洗うの?」


「嬢ちゃんは洗ったことがないのか?」


「お米はいつもソフィが炊いてくれるの。」


「そうなのか?

 ならわしが炊き方を教えてやろう。

 まずは洗うくらいはできるじゃろう?」


「は~い!」


 元気よく答えると、フィーアは流しに鍋を持って行ってお米を洗い始めた。

 いくら炊いたことがなくても、洗うくらいならできるだろう。

 大丈夫そうだと判断すると、グレイは食料を取り出すために一度その場を離れた。

 メインの食材はおそらくソフィが買ってくるだろうが、それ以外も作っておいたほうがいいだろう。


「汁物の野菜はさっき嬢ちゃんに切ってもらったし、あとはサラダでも作っておくかのう。」


 特にあの大きな獣人は、たくさん食べそうだ。

 そんなことを考えながら、貯蔵棚から他の食材を取り出し戻ってきた時だ。

 フィーアは楽しそうにお米を洗っていたのだが、その手元がこれでもかというくらいに泡立っている。


「・・・!?

 米を洗剤で洗っちゃダメじゃろうがー!?」


 グレイはあまりのことに驚いて大きな声を出してしまった。


「あう・・・!で、でも、白い汁がいっぱい出るから・・・」


「それは水で洗うものなんじゃ・・・」


 急に大きな声を出されたのが怖かったのか、フィーアは涙ぐんでびくびくと怯えている。


「いきなり大きな声を出して悪かったのう。

 泣かないでおくれ・・・」


 そのことに気付いたグレイは慌てて謝ったが、フィーアの行動のちぐはぐさに正直驚きを隠せない。


「な、泣いてないの・・・」


 服の袖で慌てて涙をぬぐうとフィーアはじっとグレイを見つめた。


「見ておるんじゃぞ。お米はこうやって洗うんじゃ。」


 一度洗剤に浸かったお米を食べるわけにもいかず、グレイはそれを処分して新しいお米を洗い始める。

 その様子をフィーアは隣でじっと見ていた。


「・・・前も洗剤で洗ったのか?」


 フィーアは先ほど、お米はソフィが炊いていたと言った。

 おそらくだが、その時にもフィーアに任せられない何かが起きたのだろう。


「ううん、前は洗う前にソフィが持っていっちゃった。」


「なるほどのう。」


 どうやら大惨事の予感を事前に察知したソフィが、先に何とかしたようだ。

 包丁を使って野菜を手際よく切ることが出来るかと思えば、米を洗う方法は知らない。

 そんなことがあるのだろうか?

 疑問に思いつつも、グレイはフィーアに話しかける。


「嬢ちゃん、お主もいつかは嫁に行くんじゃろう?

 だったらこういうことは覚えておかないといかん。」


 まるで孫娘に教えるように、グレイはひとつひとつをフィーアに教えていた。


「うん!」


「あのちっこいのが食材を買ってきたら嬢ちゃんが知りたい料理を教えてやろう。

 どんな料理が知りたい?」


 その提案に、フィーアはもじもじとしながらこう答える。


「えっとね、ツヴァイが喜ぶ料理が良いなあ。」


「そ、そうかあ・・・こいつはまいった。

 それは錬金術の難問より難しいのう。」


 まさか料理名ではなく、名指しした人物の好物を指定してくるとは。

 それと同時に、おそらくフィーアにとってあの少年が大切な人物だということを理解する。


「わかった。

 それはわしが聞いておいてやろう。

 嬢ちゃんはせっかく作るならサプライズしたいじゃろうからな。

 そっちも鍋に入れてくれるかのう。」


「うん♪」


 うれしそうに頷きながらフィーアは、野菜を別の鍋に移し替えて手際よく適量の水を入れると、グレイに手渡した。

お米を洗剤で洗っちゃう人たまにるらしいですね(;´・ω・)

嘘のような本当の話・・・(怖)

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