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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第2章『ファニアの錬金術師』 ①

ちょっと遅くなりましたが今日の1回目更新しま~す(*´ω`)

 錬金術師の家は大きな洋館だったが長い間、手入れをしていないのがわかるほど古びていた。

 庭にはそこかしこに雑草が生い茂り、普段使っているであろう出入り口までが、かろうじて通れるようになっている。

 水上の暴走族の到着は、どうやら家主にも伝わったらしい。

 船が岸に着くや否や、ドアがばたんっと開いて中から人が現れた。


「なんじゃうるさいぞ貴様ら!」


 見るからに偏屈そうな老人は、いぶかしげに皆を眺める。


 すると・・・


「何?うるさいだと・・・本当にうるさいというのはこういうのを言うんだ!」


 アハトがいきなりスタングレネードを取りだして放り投げた。


「危ないっ!」


 それを見たアインがすかさず体当たりすると、それは綺麗に弧を描いてアハトの手の中に戻る。


「なんじゃ!?大道芸人の一行か!」


「ダメじゃないか、放たれた爆弾が戻ってきちゃ。」


 戻ってきたスタングレネードを、アハトは愛しそうに見つめてマントにしまった。


「お騒がせして申し訳ありません。」


 大きなため息をついて、ソフィが家主に頭を下げる。

 こういうのは第一印象が大切だと思うのだが、そこはもう諦めることにしたソフィだった。


「わしはグレイじゃ、街の連中には偏屈爺で通っている。

 で、なんじゃ貴様らは?」


「高名な錬金術師とお聞きしまして、よろしければ手を貸していただきたいのですが。」


「はん?高名じゃと?

 高名だったらこんなところには住んでおらんわい。」


 ソフィの言葉にグレイが自身で偏屈と名乗るだけの対応で返すと、代わりにアハトが建物の一部を指さして話しかけた。


「何を言っているんだ。

 あそこにある装置は錬金術で作られたものだろう?

 あれを自力で作るのはかなりの腕がないと無理なはずだ。」


「・・・なんじゃ、おまえらも錬金術関係の連中か。」


 アハトの指摘にグレイはどうやら一行が何を求めてきたのかを何となく把握したらしい。


「ああ、俺も錬金術師のはしくれでな。

 これは俺が作ったものだ。」


 挨拶代わりにアハトがグレネードを1本差し出すとグレイはそれを受け取る。


「な、なんじゃこれは・・・!

 まさか、貴様・・・!」


 それを見てから彼はこちらのメンバーを改めて見回した。

 大きなアインに担がれて具合の悪そうなツヴァイとフィーア。

 かろうじて一人で立っているものの顔色の悪いソフィ。

 そして全身黒づくめで挨拶代わりにグレネードを差し出したアハト。

 これら5人を見て老人が何を思ったかはわからないが。


「ち・・・仕方がないのう。

 なんだか調子の悪そうな女子と小僧もおるようじゃし。」


「すまないなあ、じいさん。

 よかったらこいつらのことを頼む。」


「ふん、こんな偏屈爺に任せるとは・・・まあいい。好きにあがれ。」


 めんどくさそうにしつつも一行を家にあげてくれたのだった。




「貴様はもう少し強くなれ!」


「そ、そうですね、強くなりたいです。」


 ぐったりとしているツヴァイの前に小さな薬包と水の入ったコップが置かれる。

 どうやら船酔いを治す薬のようだ。


「まったく、近ごろの若いもんは船も乗れんのか。」


「すいません、助かります・・・」


 青い顔をしたソフィも渡された薬をすぐに口に入れて水で流し込む。


「ほれ・・・これでも飲んでおくといい。」


「ありがとう、おじいちゃん。」


 薬を無造作に渡した老人は、笑顔でそれを受け取ったフィーアを見て一瞬だけ優しそうな表情をした後、すぐに先ほどまでの気難しそうな表情に戻って尋ねた。


「それで?貴様らわしに何の用があるんじゃ。」


「実は・・・僕の弟のツヴァイは心臓に持病があって、それを治すのに錬金術の力が必要なんです。」


 賢者の石の話をいきなり持ち出すわけにもいかず、ある程度ぼかしながらアインが説明をする。


「なるほどのう、心臓病か。」


「弟は身体が弱くて・・・何とか助けてあげたいんです。

 どうか力を貸してください!」


 儀式の内容とそれに必要な竜の宝玉はすでに手元にあることを伝えると、グレイはますますいぶかしげな表情をした。


「心臓の病で竜の宝玉を繋げるだと・・・?」


「もう通常の医術ではどうにもならなくてね。

 腕のいい錬金術士を探していたんです。」


 いかにもそれっぽくアハトが説明するものの、完全には信じてもらえていないようだ。


「まあ、貴様らもなんかしらの事情くらいはあるんじゃろうから話くらいは聞いてやるが。

 錬金術で人の身体に無茶をするのはお勧めせんがのう。」


「それは経験があるってことか?」


「そうじゃな・・・まあ、人間、錬金術なんて力を手に入れるといろいろと出来ないこともできる気になってしまうものじゃ。」


 老人は座っていた椅子から立ち上がると、そんなことを語りながら暖炉の前に立ち、しばらくすると上にあった写真立てをさりげなく伏せた。


「ただ、そういったことはたいていろくな結果にはならん。」


「ええ、ですが俺たちは諦めるわけにはいかないんですよ。」


「まあいいじゃろう・・・

 何か隠していることは明白じゃがな。

 施設は自由に使っていい。

 だが、わしがちゃんと見ている前でだ。

 自分の設備を好き勝手に使わせる錬金術師はおるまい?」


「そうですね、あなたが見ている前で儀式は行いましょう。」


 にや、と笑うとアハトはグレイにそう約束した。


「うちの設備は古いからのう。

 使えるようになるまでは数日かかるぞ。」


「ありがとうございます!!」


 施設を貸してもらえることが分かると、アインはがたんっと立ち上がって深々と頭を下げる。


「無理を言っているのはこちらですから。

 お手伝いできることはありますか?」


「じゃあそこの小さいのは、ここにいる人数分の食材でも買ってこい。

 その様子ではどうせ身を隠す場所もないんじゃろう?」


 ソフィの申し出に、グレイは持ってきた買い物かごを押しつけた。


「あと、そこのでかいの。」


「あ。は、はい!」


「家を掃除しろ。」


 そしてアインには箒とはたきを押しつける。


「わかりました!任せてください。」


 何の異存もないのか、受け取ってすぐにアインは部屋を飛び出していった。


「そこの爆弾魔。おまえは何もするな。」


「ええー・・・」


「そうですね、的確なご判断だと思います。」


 アハトは大変不満そうだが、グレイの判断にソフィは満足そうに頷く。

 その様子を眺めていたフィーアは、グレイが信頼できる人物であることを悟ったのか、安心したように近づいて行って服の裾を引っ張った。


「ありがとう、おじいちゃん!」


 そして、とびきりの笑顔でお礼の言葉を述べる。


「あ、ああ・・・そうじゃのう。」


 グレイは茫然としてから、ハッとしたように我に返った。

 それはまるで、かつて失った誰かとフィーアを重ねているようにも見えた。


「こんな偏屈な爺が力になれるならなんでもしてやるぞい。」


 しわしわの手で頭をぐりぐりと撫でられて、フィーアはうれしそうにしている。


「よし、嬢ちゃん名前は?」


「フィーア。」


「そうか、フィーア嬢ちゃんは料理はできるか?」


「ちょっぴり。」


 フィーアはその質問に対して片腕でぬいぐるみを抱いたまま、指と人差し指で小さな隙間を作って恥ずかしそうに答える。


「そうか、じゃあわしが教えてやるからこっちにこい。」


「ありがとう。」


「きっとそのうち必要になるからのう。」


 それからちらっとツヴァイの方を見ると。


「そこの小僧は2階の部屋を貸してやるからベッドで休んでろ!」


 乱暴に言ってから、フィーアと一緒にキッチンに入っていってしまった。


「・・・あの爺、いきなりデレたぞ。」


「まあ、人っていうものは何かしら事情があるものよ。

 それじゃあ、私は買い物に行ってくるからアハトは言われた通り何もしないでね!」


 改めてくぎを刺すと、ソフィもまた言われたとおり街に食材を買いに行くことにした。


おじいちゃんのツンデレって需要あるのかな(*'ω'*)

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