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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第1章『続・炎の旅立ち』 ②

よく訓練された犯罪組織のメンバーたち(笑)

 そんな出来事からわずか数時間後――隠れ家は怪しい集団に囲まれていた。


「おい、おまえら!ここは囲まれているぞ!」


 大きな荷物を背負い慌てた様子で駆けこんできたアハトに、ソフィが速攻で返した言葉はこれだった。


「アハト!あんた街で何したの!?」


「別に俺は何もしていないぞ。

 まったく、俺が警戒しながら物資の調達をしてきたというのにこのざまか。」


 アハトはさらっと言ってみせるが全員の視線が彼にくぎ付けになる。

 この場所は誰にも知られていない安全な場所だったはず。

 自分たちが包囲されたとすれば、それは誰かが後をつけられた以外に考えられない。


「くっ!

 この場所の隠蔽は完璧だったはずだ・・・いったいどうして!?」


焦るアインとは対照的にソフィが冷静に皆に伝えた。

 

「悠長に構えてる暇はなさそうよ?

 風の移動魔法の準備はできているからみんな私の周りに来て。」


 この世界において移動魔法はシルフ族が使える種族魔法の一つだ。

 魔法によって自分と周りにいる人間を風の姿に変え、風の通り道を移動することが出来る。

 ただし、風の通り道を確保しておかなければならないのと、自分があらかじめ魔法で印をつけたポイントまでしか移動することができない。

 さらに魔力によって距離が限定されてしまうことも欠点の一つとされている。


 ソフィは昼間アインと共に出かけた時に、ここから少し離れた場所に隠してある馬車のあたりにポイントを指定しておいた。

 そのおかげで無事に脱出することができそうだ。


「ここで皆で静かに暮らすのも幸せだったんだけどな。」


 残念そうに言ってツヴァイはフィーアをぎゅっと抱き寄せる。


「僕の傍にいるんだよフィーア。」


「うん!」


 それに応えるようにフィーアもツヴァイに抱きついた。


「何言っているんだツヴァイ。

 俺たちの本当の幸せはおまえが助かってからだろう。」


「そうか・・・こういうときアハトは頼りになるね。」


真剣な表情で語りかけるアハトにツヴァイが笑顔で尋ねた。

 

「でもアハト、君のローブの内側にあるグレネードの数を確認してもいいかな?」


 アハトは自分の名前にちなんで常に8つのグレネードを持ち歩いている。

 彼は街でそれを補給してきたばかりだ。

 つまり、ローブの裏には8つのグレネードがなければならないのだが・・・。

 アハトのローブは戦闘時にすぐにグレネードを取り出せるように前が開いているタイプになっている。

 なので、バサッとローブを広げてグレネードを数えると、アハトはドヤ顔でこう答えた。


「何言ってるんだ、ここに確かに8つ・・・うむ、なぜか一つ足りないな!!」


「やっぱりあんたじゃないの!!」


 げしっとアハトの脛を蹴っ飛ばしてからソフィはため息をつく。

 アハトがさりげなくいいことを言っている風になってはいるが、この平穏をぶち壊したのは間違いなく彼だ。

 おそらく街でスタングレネードあたりを落としたことに気付かず、そのまま歩いてきたのだろう。

 音と光だけの爆弾とはいえかなりのものだったはずなのに気付かないのはアハトらしいが。


「おかしいな、せっかく補給してきたというのに1個どこかに行っちまった。」


「どこかに行っちまったじゃないでしょ!」


 ごそごそとローブの内側を探し続けるアハトにソフィが突っ込みを入れたところでツヴァイが言葉を挟む。


「でもまあ、言い争っている暇もないし行こうか。」


「ええ、それじゃあ準備をしてから出発しましょうか。」


 ソフィが言うとアインとアハトがあらかじめ用意しておいた油を撒き始める。

 そして、ツヴァイの指示でフィーアが小麦粉をばふばふと部屋の中に広げていた。


「埃を立てるのはこのあたりでいいかいツヴァイ。」


「ああ、そっちはよろしく頼むよ兄さん。

 僕も今、釘を撒くので忙しいからね。」


 日曜大工でも頼むかのように気軽に言ったツヴァイは、入り口の床に釘をばらまき始める。

 釘はバンガローに保管されていたものなのだが、湿気でさびているのでちょうどよかった。


「やっぱりツヴァイは頭が良いなあ。

 釘なんて思いつかなかったよ。」


「そっか、ちょうどあったから運がよかったね。」


 内容は全く平和ではないのにのんびりとした口調で会話しながら、アインとツヴァイは着々と『粉塵爆発』の準備をしている。


「アハト、グレネード1個くれる?」


「ああ、お安い御用だ。」


 気軽に工具でも貸す感じで渡されたグレネードを入り口の床に固定すると、ツヴァイはドアが空いた時にピンが抜けるように紐でひっかける。


「これなら誰かが飛び込んできたときに起爆できるからちょうどいいんじゃないかな。」


 さわやかな笑顔で振り返ったツヴァイに全員が満足げに頷いた。


「いやあ、ツヴァイは本当に優秀で兄さんは鼻が高いよ!」


「ツヴァイはこういう時にいろいろなことを思いついてくれて助かるわ。」


 アインとソフィがまるで成績優秀な弟を褒めるように口々にツヴァイをほめたたえている。


「フィーアを傷つけようとするやつは許せないからね。」


 ツヴァイがにこっと笑いかけると、フィーアは恥ずかしそうにもじもじとしながら答えた。


「じゃあ私はツヴァイのためにここがよく燃えるように、この料理用の油も撒いておくね。」


 その姿は恋するかわいらしい乙女に見えなくもないが、言っていることはかなり危険だ。


「短い間だったけれど僕たちを守ってくれてありがとう。」


 これから爆破する家にしみじみとした様子でアインが言ったのと、にわかに辺りの気配が動き出したのは同時だった。

 よく訓練された犯罪集団の動きで逃亡の準備をした一行は、外の連中が飛び込んでくる寸前に移動魔法で脱出する。

 

 誰かが飛び込んできた瞬間、こんな声が聞こえた気がした。


「フィーア!もう逃がさないわよっ!!」


 それは女性の声だったのだが誰だったのか確認する間もなく、一行はその場所から消え去り辺りに大きな爆発音が響き渡る。


「さらば我が家!安らぎの時よ・・・っ!

 我々は行かなければならない、必ず目的を果たさなければならないんだ。」


 アインが語りと共にいつものように馬車を操ると、煙と炎に包まれた森をバックに5人は水の都に向けて旅立つ。

 背後の火柱を後ろの荷台から眺めていたアハトが呟いた。


「汚え花火だ。」


粉塵爆発はノリでやりました( ̄▽ ̄)ゞ

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