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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第1章『続・炎の旅立ち』 ①

本日二度目の更新になります。

「ここはいいところだね。

 皆でずっとこんな風に静かに過ごせたらいいのに。」


 湖面を眺めながら穏やかな表情でツヴァイが言った。

 窓から見える青い湖は太陽の光を反射してキラキラと輝いている。


「うん、ずっとツヴァイと皆と一緒にいたいな。」


 ベッドで休むツヴァイを看病していたフィーアも同意するように頷く。

 ここは湖の畔にある森の中の小さなバンガロー。

 竜の宝玉を手に入れた一行だったが、それをどのようにしてツヴァイを救うことができるのかわからないまま、この隠れ家に滞在して1週間が過ぎようとしていた。


【ホムンクルスの箱庭 第2話 第1章 『続・炎の旅立ち』】


「ようやく調べがついたんだけど、ここから2週間ほど移動した水の都に住んでいる錬金術師なら力を貸してくれるかもしれない。」


 組織から持ってきたツヴァイの薬の残りがぎりぎり足りる距離にある都市。

 そこにいる錬金術師がソフィが目をつけた人物だった。


「どんな錬金術師なんだ?」


「家族がいなくて、国や裏組織とつながりがなく、施設が整っている錬金術師・・・正直探すのに骨が折れたわ。」


 アハトの質問にソフィは口元に自信ありげな笑みを浮かべながら答える。


「ほほう、よく見つけたな。」


「まあね。高名な錬金術師だったらしいんだけど、ある時期を境に引退してしまった人よ。」


「そうなのか、そんなすごい人だったのにどうして引退してしまったんだろう?」


 アインの単純な疑問にアハトが自嘲するような笑みを浮かべて言った。


「錬金術っていうのはいろいろとやばいことに手を出すものだからな。

 知られたくない事情の一つや二つは抱えてるものさ。」


「今は錬金術で作ったちょっとしたものを街の人たちに売って生活してるみたいよ。」


「なるほど、じゃあさっそくその人のところに行こう!」


「ええ、でもちょっと長旅になるから、近くの町で旅に必要な食料やなんかを調達してこないといけないわ。」


 ここから少し離れてはいるが歩いて1時間程度のところに、そこそこ大きな街がある。

 旅立つ前にそこで干し肉や日持ちする食料、日用品などの雑貨を調達してこなければならない。


「ふむ、ならば俺が行ってくるか。」


「え・・・アハト、あんたその恰好で行くの?」


 自分から買い出しを申し出てくれたのはありがたいのだが、ソフィは思わずそう返してしまった。

 フードを目深にかぶった全身黒づくめの男が街を歩いているのはとても目立つと思うのだが。


「何か問題でもあるか?」


「うん、あえて言うならあんたの存在自体が問題ではあるとは思うけどね。」


 事あるごとにグレネードを爆破させる人物に問題がないかと問われれば、いくらソフィでもそこを否定することはできない。


「まあ、怪しさ丸出しな分、周りが関わろうとしないって点では安全か・・・」


 買い物をするくらいなら問題ないだろう。


「竜との戦いで消費したグレネードの補給もあるからな。

 どの道俺は街に出るぞ。」


 錬金術士でもあるアハトはグレネードを自分で作成しているのだが、そのためには材料が必要だった。


「わかった、物資の補給はアハトに任せるわ。」


「おう、任せておけ。」


 金貨袋を受け取りバサッとローブの裾を翻すとアハトは部屋を出て行った。


「アハト一人で大丈夫かな?2週間分の荷物だよね?」


 その後ろ姿を見送りながらアインが心配そうに言う。


「そうね・・・まあ、大きいリュックをしょっていたから大丈夫じゃない?

 グレネードは向こうで工房でも借りて調合してくるんだろうし。」


 グレネードは火薬の調合をするために錬金術の工房があったほうが便利だ。

 そこそこ大きな町ならポーション程度を売っている錬金術士の店は珍しくない。

 おそらくはそこでグレネードの作成もしてくるはずだ。


「僕も手伝ってこようかな!」


「やめておきなさい。

 あなたとアハトが一緒じゃあ目立ってしょうがないわ。」


 2mを超える大きさの金の瞳を持つ白銀の人狼族、彼と同じ風貌を持つ獣人はこの世界にそうはいまい。

 嫌でも村人たちの目に留まってしまうし、仮に追手が潜んでいた場合は1発で見つかってしまう。

 それならばアハトはどうなのかと言われると確かに微妙なのだが、彼も自分たちが追われているのは十分に承知しているはず。

 不用意に目立つような行動はしないはずだ。


「それならアインは私と一緒に馬車と馬の手入れを手伝ってくれる?」


「それなら僕でもできそうだ!任せてくれ!」


 ソフィにそういわれるとアインは張り切った様子でそう答えた。




「それじゃあ、私たちは行ってくるからフィーアはツヴァイと一緒に留守番をお願い。」


「は~い!」


 ソフィとアインが出かけたのを見送ってから、フィーアはツヴァイの部屋にぱたぱたと走っていった。


「おかえり、フィーア。」


「ただいま!」


 ツヴァイはベッドに座って錬金術の専門書を読み漁っているところだ。


「私も手伝っていい?」


「ありがとう、それじゃあそっちの書物をお願いしてもいい?」


「うん!」


 ベッドの端にちょこん、と腰かけるとフィーアも分厚い専門書を手に取り目を通し始める。

 そんな姿を見て、ツヴァイはふと昔のことを思い出していた。




「ねえ・・・ねえ、蒼ちゃんってば?」


「え?あ、ごめん。どうしたの紅音。」


 あの頃・・・まだ紅音が記憶を失っていなかった頃。

 彼女と自分はこんな風によく2人で本を読んでいた。


「もう、自分のことなのに~。

 蒼ちゃんはもっと真剣になってください!」


 読んでいた本をぱたん、と閉じて紅音はかわいらしく頬を膨らませていたっけ。

 自分の身体を治すために彼女はいつも頑張ってくれていた。

 そのことは十分すぎるくらいにわかっていたので自分なりに方法を探してはいたが体調はいつだって思わしくなく、実際は毎日を生きるだけでも精一杯だった。


「うんうん、ごめんね。

 でも、そろそろ呼び出しがかかるかもしれない。」


 ツヴァイは日に何度か検査をしなければならない。

 その後は決まって何かしらの実験があった。

 身体の弱さを理由に危険な実験にはつき合わされなかったが、それでもナンバーズとしての実験は日々行われていた。


「え?もうそんな時間?」


 時計を見ながら紅音は少し慌てたように立ち上がり、本をもとの場所にしまう。


「今日も先に行くのかい?」


「うん、準備があるんだって。」


 2人が呼び出される時間は大体同じだったのだが、紅音は実験の準備段階から関わらなければならないらしくいつも自分よりも先に行っていた。


「そうか・・・本当は僕は紅音と一緒に行きたいんだけどな。」


「だ~め!それに蒼ちゃんとは実験室も違うでしょう?」


「だからこそ、入り口までは一緒に・・・」


「早くいけばその分早く終わるから。

 そしたらまた、一緒に蒼ちゃんが元気になる方法を探そうね♪」


 入り口まではせめて一緒に行きたい、つらい実験を繰り返される彼女を少しでも勇気づけるために。

 そう言うことすらも許してもらえず、自分は待つことしかできなかった。




「ツヴァイ?どうしたの~?」


 気がつくとフィーアが自分の膝の上にコロン、と横になって顔を覗き込んでいた。


「ああ、ごめんね。

 ちょっとぼーっとしちゃってたかも。」


「ツヴァイ、疲れてるの?

 あとは私が探しておく?」


「いや、大丈夫だよ。もう少し頑張ろう。」


「は~い!」


 元気よく返事をするとフィーアは起き上がってまた本を読み始める。

 そんな姿をツヴァイは優し気に、それでもどこか悲しそうに見つめていた。


余裕がある時は一日二回更新できたらと思います(*´ω`*)

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