ホムンクルスの箱庭 第1話 ~エピローグ~
これでようやく第1話完結となります。
体調の思わしくないツヴァイを休ませるために、一行は安全な場所に身を隠すことにした。
隠れ家の一室で、アインはソフィとアハトの2人と話しあっていた。
ツヴァイは別室で休んでおり、今はフィーアが付き添っている。
「宝玉は手に入れたけれど、私たちには必要な知識も技術も施設も足りないわ。
誰かに手を貸してもらわないといけない。」
「ああ、だがそんな人物に心当たりがあるのか?」
アハトが尋ねると、ソフィは口元に笑みを浮かべて資料の束を取りだした。
「これ、施設を出る前に盗んできたデータなんだけど、ここに組織とは直接的な関係のない錬金術師や施設なんかの情報があるの。」
資料を眺めながらソフィはこう続ける。
「ただ、本当に組織の息がかかってないのかどうかは、運しだいになっちゃうと思うわ。
出来るだけ安全そうな人物を選ぶつもりだけど、少し時間をちょうだい。」
「それでツヴァイを助けられるんだったら安いものだ!
僕たちにも手伝えることがあったら言ってくれソフィ!」
「もちろん、力を貸してもらいたい時には遠慮なく言うから。」
力強く言ったアインに、ソフィも笑顔で頷く。
もうすぐ、5人の望みが叶うのだ。
そう思えばどんなことでもがんばれる、そんな気がしていた。
「ツヴァイ、もう苦しくない?」
ベッドサイドの椅子に座ったフィーアが、心配そうにツヴァイの手を握る。
「うん、薬を飲んだから平気だよ。」
ようやく落ち着いたのか、ツヴァイは先ほどよりも調子がよさそうに答えた。
「よかった・・・これでツヴァイを元気にしてあげられるね。」
フィーアはうれしそうに微笑むと、ぬいぐるみから宝玉を取りだす。
「これ、ツヴァイが持っていた方が良い?」
「いや、フィーアが持っていて。そのぬいぐるみの中なら安全だから。」
「うん、そうちゃんの中にいれば安全なの。」
ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて笑うフィーアの髪を、ツヴァイはそっと撫でてやる。
「僕が元気になって、フィーアを守れるようになったら・・・」
何かを言おうとしたツヴァイだが、小さく首を振ってごまかすように笑った。
「いや、なんでもないんだ。」
言おうとした言葉を飲み込んで、ツヴァイはベッドに横になった。
「僕はもう大丈夫だから、フィーアも皆のところに行っておいで。」
「うん、皆のところに宝玉を届けてくるね。」
部屋を出た後、うつむいたフィーアはドア越しに小さくつぶやく。
「大丈夫・・・皆で助けるから蒼ちゃん。」
まるで別の人格が一瞬、彼女に乗り移ったかのような憂い気な瞳をした後、ハッとしたようにフィーアは顔を上げる。
そして、彼女は何事もなかったかのように、いつも通りの笑顔で階段を下りて行った。
第2話は『水の都ファニア』での物語になります。