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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第5話 第9章『光の雪』 ②

戦闘はこれで終わりとなります(`・ω・´)

明日と明後日に更新する残りの2章はエピローグとなります。

「兄さん、今だ!!」


 ツヴァイの声に、ヌルの前に立ったアインはまるで歌うかのように咆哮を上げた。

 それに呼応するように、アインの身体が光に包まれていく。

 ヌルは結界の中から抜け出そうと暴れるが、上から降ってきたノインが光の剣でその胴体を貫き地面に串刺しにした。


「アイン、おまえの想いをぶつけてやれ!!」


 その場から飛び退くと、ノインはアインに向かって叫ぶ。


「フィーア、やるわよ!!」


「うん!」


 駆け寄って来たドライが向かい合うように膝をついて、そっとフィーアの手に自分の手を重ねる。


「紅牙お兄ちゃんに皆の想いを届けるわ。大丈夫ね?フィーア。」


「うん!今度は紅牙お兄ちゃんの絶望に呑み込まれたりしない。私たちの希望を届けてあげる。」


 微笑みあった2人がいつかのように額を合わせると、彼女たちを中心に紋章陣が広がった。


「私には紋章術は使えない・・・でも、あんたの心を支えることは出来るわ。」


「おねえちゃん・・・ありがとう!」

 

 光の紋章陣がヌルの元まで届いた時だ。

 アインの想いが聞こえたのか、逃れようと暴れていたヌルの動きが止まり大人しくなる。

 地面に伏せた白銀の獅子は、じっとアインを見つめていた。

 

 その視線の先でアインの姿が金色に輝く光に変わったかと思うと、それは巨大な狼を模りヌル目がけて突っ込んで行く。

 アインが飛び込んだ先で光の渦が巻き起こり、それに巻き込まれたヌルの身体は跡かたもなく散った。

 白銀の獅子が消え去った後には、元の姿に戻ったアインが立っていた。

 その手には紅牙の居場所を知るためのクリスタルが握られている。

 そして、クリスタルの光は獅子がいた場所よりもさらに下をさしていた。


「そうか・・・紅牙はずっと、あの場所にいたんだな。」


 どこか悲しげに、ノインがぽつりと言った。


「それはつまり・・・紅牙は地下の廃棄場にいるということか?」


「まだ、あの部屋に?」


 アハトとソフィが顔を見合わせる。

 2人にもすぐにその場所は分かった。

 なぜなら2人がかつて死んだ場所、そこがあの廃棄場の入り口だったからだ。

 そしてそれは、彼が廃棄場に放り込まれてから一度も外に出られていなかったことを指していた。


「わかった、僕が彼のいるところまで空間を・・・!?」


 ツヴァイが地下に続く時空の扉を創りだそうとした時だった。

 腕輪にはめられていた宝玉にピシっと亀裂が入る。

 それは、ツヴァイの命をつなぎ止めているはずの竜の宝玉。


「蒼ちゃん!?」


 よろめいたツヴァイの身体を支えようとして、フィーアが一緒になって床に倒れる。


「無茶ばっかりして・・・!」


 起き上がって泣きそうになるフィーアの頬に、ツヴァイはそっと触れた。


「ごめんね・・・今の僕じゃ、彼の元まで空間を繋げるのは無理みたいだ。」


 それを見ていたアハトとアルバートが互いに頷きあって前に出た。


「さて、アルバート。最後の家族がこの下にいるようだ。」


「ああ、どうやら私たちの出番の様だな。」


「あの時の約束を果たそう。

 俺があの子の居る場所を見つけるから、おまえが道を開いてくれ。」


 アインからクリスタルを受け取ったアハトは、それに胸元の賢者の石を共鳴させて辺りを探し始める。


「よし、そういう約束だったからな。」


 残りの力を全て注ぎこむように、ノインは光の剣を出力する。

 すると、いつの間にかその周りを鳩が飛んでいた。


「そんな出力じゃ届かないだろう?」


 鳩はワイルドな口調でノインに話しかける。


「ならば、私に力を貸せズィーベン。」


「あんたには自由を与えてもらった恩がある。そいつをここで返してやるぜ。」


「アハト、場所を教えてくれ。」


 振り向いたアハトは、自分の足元を指さして伝えた。


「ああ、ここが紅牙のいる場所へと続いているようだ。」


 輝きを増したクリスタルは、はっきりとした光でその足元を照らしだしている。

 ズィーベンの口から、ノインの光の剣に向かってビームが放たれた。

 出力を取り戻した剣から放たれた光が、床を形成していた触手を引きちぎり地下へと続く道を形成する。


「今度こそ私の仕事は終わりだ。後は、君たちが迎えに行きなさい。」


 ノインの手にしていた光の剣は砕け散ったが、彼は満足そうに微笑んで頷いた。


「ありがとう、アルバートおじさん、みんな、紅牙兄さんを迎えに行こう。」


 だが、唐突に触手たちが形成された道すらも塞ごうと蠢き始めた。


「まだ動けるのか・・・!?」


「それは、させるわけにはいかないわね!」


 道を塞ごうとした触手が、風の防壁に阻まれてはじかれた。


「アイン、私が道を維持しているうちに紅牙のところに行きなさい。」


「なら、俺がおまえを守ってやる。」


 風の防壁を張っている間、ソフィは動くことができない。

 アハトが触手たちからソフィを守るように、背中合わせに立った。


「やれやれ、まだ休ませてはくれないらしい。」


 にやっと笑うとノインは片手を振った。

 生体金属である彼の手に、死神の鎌のような大鎌が形成されていく。

 その一薙ぎで辺りの触手たちが切り払われた。


「行けアイン!おまえの家族は私がここで守りきってみせる。」


 ノインの声に促され、アインは入口に駆け込もうとする。


 しかし・・・


「犬っ!!」


 足元がもつれたのか転びかけたアインを、駆け寄ったドライがギリギリのところで支えた。


「ご、ごめん・・・足が。」


「こういう時は私を頼りなさい。

 だって、私たち家族でしょ・・・って、何恥ずかしいこと言わせてんのよ!」


 べしっと照れたように軽くアインの腕を叩いてからドライはその腕を自分の肩に回させると、


「あんたたち、私たちが戻ってくるまで倒れるんじゃないわよ!」


 よろよろと歩くアインを支えて地下への道を歩き出す。


「フィーア・・・いいえ、紅音。」


 そして、一度止まったかと思うとフィーアを見てドライは笑った。


「あんたならできるわ。」


 それを見たフィーアは、何も言わずにこくりと頷く。

 ドライも何も言わずに頷くと、そのまま歩きだした。

 動きだした触手たちをノインが、アハトが次々に片づけて行くが、触手たちは最後の抵抗というように次第に数を増していく。

 

 このままでは全員を守りきることなどできない。

 そんな雰囲気を誰もが感じていた時だった。

 目の前に横たわるツヴァイの手に、フィーアがそっと触れる。


「紅音・・・?」


「大丈夫だよ、蒼ちゃん。私を信じて。」


 それに応えるように、ツヴァイは微笑み返した。

 祈るように目をつぶったフィーアを中心に、光の紋章陣が広がっていく。

 それは本来であれば他者を食い荒らし、賢者の石を保持するために作られた術式。


 しかし・・・


「私はこの力で今まで絶望しか生み出すことができなかった。

 だけど・・・私は今度こそ、この力を希望に変える!!」


 淡い光の雪がふわふわと舞い始めた。

 その雪に触れた触手たちが動かなくなったかと思うと、光の粒子に変わっていく。

 当然のことながら、術式の中にはツヴァイとフィーアだけではなく他の家族たち、ソフィ、アハト、アルバートの姿もあった。

 

 本来であれば、それは3人の命も吸いつくし、ツヴァイの賢者の石に与えるはずだ。

 だが、光の雪は3人に触れても喰らうようなことはせずに触手たちだけを光に変えていった。

 部屋に存在する肉壁や触手たちは小さな光へと姿を変えて、フィーアに集まっていく。

 

「蒼ちゃん、今度はあなたに希望を届けるから。」


 フィーアはツヴァイに顔を近づけると、そっと唇を重ねる。

 送られてくる温かな力が、自分の身体に宿って行くのがツヴァイには感じられた。

 ひびの入った宝玉が光ったかと思うと、ツヴァイの胸のあたりに吸い込まれるように消えていく。

 それは、ツヴァイの賢者の石の適合が今度こそ成功した証だった。




 ドライに支えられながらアインがようやく地下に辿り着くと、そこは殺風景な部屋だった。

 明かりと呼べるものはほとんどなく、ただ薄暗い空間が広がっている。

 その奥・・・暗がりの中にある部屋の端の壁に背を預けるようにして、誰かが座り込んでいた。

 その人物はこちらに気付くと、口元に笑みを浮かべて話しかけてくる。


「・・・来たか、アイン。」


 その身体はボロボロで、壁に寄りかかっていることすらやっとの状態に見えた。


「最後の決着でもつけるか?

 この状態ではおまえたち全員を家族として取り込むことはできないかもしれないが、おまえひとりぐらいだったら・・・まだ取り込めるかもしれないぞ。」


「兄さん・・・迎えに来たよ。」


「何を言っている。おまえが、俺と一緒になりに来たんだろう?」


 会話が通じているようには思えないやり取りの中、相手がスッと片手を上げた。

 殺風景だったはずの部屋のあちこちから、触手が床を張って近づいてくる。

 

「アイン、ここは私に任せなさい。」


 アインから離れると、ドライはフェンリルを召喚して触手たちを凍りつかせた。


「アイン、あんたはあんたのやりたいことをしなさい。私があんたの背中を守ってあげるわ!」


「ありがとう、ドライ。」


 そんなドライを見て微笑むと、アインは奥にいる人物に向かって歩き出した。

 その足取りは危なっかしいものだったが、一歩一歩踏みしめるようにして近づいて行く。


「兄さん・・・こんなになって、辛かっただろうね。」


 アインにもヌルの・・・いや、紅牙の辛さがようやく分かったような気がした。

 こんな暗くさびしい場所で、彼は十年以上もの間、たった一人で耐えてきたのだ。

 周りのモノたちを喰らい、ただひたすらに家族と共に在れることを願い続けながら。


「でも、もう大丈夫だよ。僕たちが迎えに来たんだから。」


 両手を広げて、アインは彼に向かって笑いかける。


「そうだな、おまえが一緒になってくれるなら、もう大丈夫だ。」


 にやり、と笑ったその瞳が紅く光ったかと思うとその力がアインに向かって発動した。

 その攻撃を受けてアインはよろめいたが、ふらつく身体でさらに紅牙に向かって歩み寄る。

 ようやくたどり着いたその場所で、座りこんだ彼はじっとアインを見つめていた。


「もう一人で頑張らなくてもいいんだ。これからは、皆で一緒に生きて行こう。」


 膝をついたアインは、そのまま紅牙を抱きしめた。

 紅牙の身体は反射的にアインを捕食しようと浸食を始める。

 それでも、アインは抱きしめることをやめない。


「おかえりなさい、兄さん。」


 アインがその言葉を口にした時、ようやく紅牙の瞳に微かに光が宿った。


「そうか・・・俺はもう、一人で皆を守らなくてもいいのか・・・?」


「そうだよ兄さん、たった一人で守らなくていい。

 さっき言っただろう?家族は互いに守り合うものなんだって。」


「だが・・・俺は化け物になってしまった。

 賢者の石を乱用し、人ではないものになってしまったんだ。」


「それがどうしたっていうんだ!僕たちは兄さんを助けるためにここまで来たんだよ!」


 力強く言ってアインはじっと紅牙の瞳を見つめる。


「・・・俺がこんな姿になってしまっても、おまえたちは構わないっていうのか?」


「当たり前だろう。どんなことになったって、兄さんは僕たちの家族だ。」


「俺は・・・」


 顔を上げた紅牙が、不思議そうにアインを見つめながらこう言った。


「銀牙・・・大きくなったな。」


 それは初めて、ヌルではなく紅牙自身がアインを見つけた瞬間だった。


「皆、大きくなったんだ。」


「そうだな・・・皆、大きくなっていた。」


 どこか懐かしそうに言いながら、紅牙が口元に笑みを浮かべる。


「僕、約束通り強くなったよ兄さん。兄さんがいない間に皆を守れるくらい。

 これから先、兄さんと一緒に皆を守れるくらいに。」


 それは遠い日、アインが紅牙と交わした約束。


「ああ、そうだ銀牙。おまえは俺との約束を守ってくれた。

 だったら今度は・・・俺が約束を守る番だな。」


 紅牙が立ち上がると、ちょうど部屋の中に光の雪が舞い始める。

 フィーアの紋章術が、この場所まで届き始めていた。


「なんて温かい雪・・・」


 光の雪が触れると、アインを取り込もうとしていた触手たちが光の粒子に変わっていく。

 それは紅牙を傷つけることなく、彼自身を侵食していたモノたちすら光に還していく。


「銀牙・・・俺はおまえがそんな風に強くなってくれて、とても誇り高いよ。

 さあ、皆の元に帰ろう。そして、今度こそ俺は皆の夢が叶う場所を作る。」


「うん、でもね、兄さん。皆の夢が叶う場所は皆で作ろう。だって、それが家族なんだからさ。」


 アインがそっと、紅牙に向かって手を差し伸べた。


「皆、待ってるよ、行こう兄さん!」


 自分よりも大きくなってしまった弟の手を取った紅牙が、かつてのような優しい笑みを浮かべる。


「長い間、夢を見ていたような気がする。やっと、おまえたちの顔が見えた。

 ありがとう、銀牙。俺はようやく・・・家族の元に帰ることが出来る。」


 その言葉に応えるように、たくさんの光の雪が降り注ぎ全てを光の中に包み込んでいった。


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