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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第1話 第3章『双頭の竜』 ⑦

お待たせしました。竜討伐は本編で終了です。

エピローグは次回に持ち越します。


※6月3日に文章の整理をしました。


 こうして多大な(主に領主軍の)犠牲を払い、一行は辛くも竜に勝利した。

 戦いを終えたソフィは、ツヴァイとフィーアのところに駆け付ける。


「ツヴァイ、顔色が悪いけど大丈夫なの?」


「ああ、ソフィも心配かけてごめんね。僕は大丈夫だよ。」


「無理はしなくていいわ。これを飲みなさい。」


「持ってきてくれていたのかい?」


「あたりまえでしょう?」


「ありがとう。」


 青ざめた表情で、それでも笑おうとするツヴァイに薬を手渡しながら、ソフィはフィーアに話しかける。


「フィーア、竜の心臓から宝玉を取り出せるかしら?」


 竜の心臓にあると言われる宝玉は、生命力の結晶だとアハトは言っていた。

 話によるとそれは竜の心臓にあることによって結晶化しているのであって、直接抉り出したりすれば宝玉自体が壊れてしまうらしい。

 そんな話が出た時に、フィーアが自分なら何とかできるかも、と言い出したのが今回の竜退治の始まりだった。


「大丈夫、ツヴァイのためにがんばるから。皆はここで待っていて。」


 いつもの幼い雰囲気ではなくどこか覚悟を決めた表情で立ち上がったフィーアは、竜の死体に近づくとその身体に触れた。

 竜に触れると、昨夜、地面に彼女が描いていた謎の文様と同じものがふっと浮かび上がり、竜の身体に溶けるように消えていく。

 生命の根源たるモノを具現化させることは難しく、本来であればその生命力のほとんどを霧散させてしまう。


 だが、その術式によってフィーアの手の中に、淡く光る紅い宝玉が現れた。

 本来ならば触れることすらできない抽象的なものを、人が触れられるものに具現化すること。

 それは錬金術と魔術を組み合わせることにより初めて成し得る、一種の奇跡のようなもの。


「よかった・・・」


 フィーアはほっとしたように微笑むと、手にした宝玉を大切そうに抱きしめて、仲間たちのところに戻った。




「武具を装備したままでは安らかに眠れないだろうから、戦士たちの冥福を祈って装備をはいでおこう。」


 軽く黙とうしてから、アインはお亡くなりになった領主軍たちから装備をはぎ取った。

 あの後、アインたちは領主軍の人々の遺体を埋葬する際に、彼らが身に着けていた装備の中で使えそうなもの回収していた。

 

 一般的にみれば、それは追い剥ぎや墓場泥棒と変わらない行為のように思えるのだが、アインいわく、戦いを終えた戦士たちが休息するためには、戦闘に関するものを一緒に埋葬するのは良くないということらしい。

 そして、戦士たちの魂が宿ったそれらを野に捨て置くなどもっての他であり、その遺志を誰かが継ぐべきだと。

 そんな言葉に説得?されて、他のメンバーも装備の回収を手伝っていた。


「あ、これなんかまだ装備できそうじゃない?」


「まったく、回収するのはいいけど装備するのは後にしなさい。」


 楽しそうに装備を回収するアインに、さすがにソフィもあきれたように言う。

 あの爆発によって、領主軍は全滅していた。

 別に彼らが死んだことに関しては、特に何も感じないのだが、とりあえず弔いだけは済ませようというアインの言葉で、全員で手分けをして弔いをする。


「まあ、この人たちが頑張った証として、これは持ち帰ろうかしらね。」


 領主軍の旗の一部を拾うと、ソフィはそれを道具袋に無造作にしまった。




 約束通り、ドラゴンの素材の一部と宝玉以外の素材を村の人たちに譲り、一行は旅立つことになった。


「領主軍の皆さんが命をかけたおかげで、村は救われました。」


 ソフィがそんな言葉と共に、例の回収してきた領主軍の旗を村長に手渡す。


「おお・・・いや、あなたがたのおかげで村は救われました。ありがとうございます。」


 村長はそう言ってくれたのだが、アインは首を横に振ってこう答える。


「いいえ、領主軍の皆さんの勇気ある行動があってこそ、竜を倒すことができたんです!」


 実際のところ領主軍はほとんど役に立たなかったのだが、アインの中では彼らの活躍は素晴らしいものだったということになってしまっているらしい。

 ちなみに、竜に食われかけている間に食らった領主軍のバリスタの矢に関しては、アインは竜のしっぽでも背中に当たったのだろうと思っていたし、アハトが投げたグレネードの衝撃に関しても、竜がきっと雷でも放ったのだろうと思いこんでいた。


 アインからしてみれば、皆が自分にそのようなひどいことをするはずはなく、全ては悪者の竜がしたことになってしまっているらしい。

 どこまでも出来事を善意のみで解決しようとする姿は、ある意味前向きともいえたが、はたしてそれがいいことかどうかは誰にもわからない。


「竜を倒したのはあくまでも領主軍、そういうことにしておいてください。」


「わかりました。あなた方がそういうのならば、そういたします。」


 ツヴァイの言葉に、村長は重々しく頷いてくれた。

 詳しいことは話さずとも、何らかの事情があることを汲み取ってくれたようだ。




 村は活気を取り戻し、壊れた家の修理や荒れた畑の整備など、人々は忙しそうに働いていた。

 そんな中、5人の旅立ちの場には少年がいた。

 祝勝会の場で村人たちとの別れは済ませたのだが、名残惜しいのかここまで来てくれたようだ。


「ありがとう、兄ちゃんたち。」


「村の人たちががんばったからこそ、竜は倒せたんだ。」


 笑顔で答えたアインに少年は大きく頷く。


「兄ちゃんたちのことは忘れない。村は俺たちが守っていくよ。」


「ああ、君たちなら村を守っていけるって信じているよ!」


 何の疑いも持たないような純粋な笑顔で伝えると、アインは馬車の御者席に座った。


「それじゃあ、僕たちは旅立たなくてはならない。村の人たちと一緒にがんばってくれ!」


 握手をしてからふと、アインが少年に尋ねる。


「そういえば・・・君の名前を聞いていなかったね。」


「ああ、俺の名前は・・・」


 手綱を操ると同時に馬が走り出す。

 その姿が見えなくなるまで、少年は手を振り続けていた。

 ふと少年が上着のポケットに触れると、何かが入っていることに気付く。


「あ、しまった!これ・・・!」


 それはアインが渡した小さな錬金灯だった。

 馬車は既に見えなくなっており、届けるのは難しそうだ。


「・・・兄ちゃん、悪いけどこれは俺の宝物にしちゃうね。」


 少年は彼らが去っていった方向に、大きく手を振ってから村に走っていった。

 のちに語られる領主軍が命を駆けて倒した竜の物語には少年の名も、彼らのことも書かれていない。


 だが、この村に伝わる物語には白銀の狼の姿が最後のページにわずかに描かれていた。

 悪そうな顔をした竜を倒す、白銀の狼とその仲間たちの物語。

 その行く先を知る者は、今はまだいない。


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