ホムンクルスの箱庭 第5話 第8章『白銀の獅子』 ②
今週はここまでとなります(*‘ω‘ *)
「今よアイン!行きなさいっ!!」
「任せて!!」
フィーアが触手を凍り付かせたのを確認したドライの掛け声で、アインがヌルに向かって走り出した。
「これでも食らいなさいっ!」
アインの刀に、ドライが自身の能力である『悪意の付与』を行うと刀に黒いオーラがまとわりつく。
さらに、ドライはフェンリルを2体召喚しアインと同時に攻撃させる。
「行きなさい!コンビネーションアタック!!」
片方のフェンリルがヌルを庇おうとした触手を噛みちぎり、もう1体はアインを援護するようにヌルの足に噛みついた。
凍り付いたヌルの足はすぐに氷が砕けてヌルは自由を取り戻したが、アインにはその一瞬で十分だった。
「うおおおおおっ!!」
飛び上がったアインは、ヌルの頭上から刀を振り下ろす。
ヌルは咆哮をあげてアインに噛みつこうとしたが、それは届かない。
代わりに攻撃がわずかに逸れて、ヌルの顔を傷つける。
ぐるるる・・・と獣の声をあげたヌルがアインにはにやり、と笑ったように思えた。
『その程度かアイン、ならば、今度はこちらから行くぞ。』
くぐもった声が空間に響き渡ったかと思うと、辺りの肉壁が蠢きはじめた。
「え・・・!?」
「ソフィ!!」
『おまえは邪魔だ。失せろ。』
肉壁から突如現れた触手が、ソフィの体を横から打ち据えた。
軽々と打ち上げられたソフィの身体が床に落ちる。
「くそ・・・!!」
アハトはソフィに駆け寄ろうとするが、触手に邪魔されて動けない。
皆がソフィに気を取られている間にも、ヌルは次の獲物に攻撃を仕掛けた。
『ツヴァイ、死ぬがいい。』
「蒼ちゃん!?」
「ツヴァイ危ない!!」
ヌルが放った不可視の攻撃がツヴァイをとらえようとすると、ドライをその場に下ろしたアインがその攻撃とツヴァイの間に割って入る。
「ぐう!!」
見えない攻撃が肩を砕き、アインはその場に膝をつきそうになるが、地面に突き立てた刀で身体を支えてとどまった。
「兄さん!!」
ツヴァイとアインの気がそれたその一瞬の隙に、ヌルはドライに向かって前足で薙ぎ払うように攻撃を仕掛ける。
「おねえちゃんっ!!」
そのことに気付いたフィーアが、ドライを突き飛ばすが自身はその攻撃を食らってしまった。
「フィーア!?」
ツヴァイが気づいた時には遅かった。
攻撃をまともに受けたフィーアは、吹き飛ばされて床を数回転がる。
「フィーア!!ばか!あんた何やってんの!?」
「あう・・・おねえちゃんが無事でよかった。」
よろよろと立ち上がろうとするフィーアを、走り寄ったドライが支えた。
「あんたは妹なんだから、私に守られていればいいのよ!!」
「私は妹だから、たまにはおねえちゃんを守りたいの。」
「もう・・・ほんとに馬鹿なんだからあんたは!」
ぎゅっとフィーアを抱きしめてから、ドライはツヴァイを見る。
「あんた、フィーアのことは任せるからちゃんと守りなさい。」
「わかってる・・・」
ドライとしてもフィーアのことは心配だが、今は戦わなくてはならない。
決意した表情で頷いたツヴァイにフィーアを任せ、ドライはアインの元に駆け寄った。
「大丈夫だ、まだ戦える!!」
ドライが声をかけるよりも早く手で制したアインは、体勢を立て直し刀を構え直す。
それを見たドライは、何も言わずに頷いた。
『家族同士の愛情ごっこもいいが、俺のことも忘れないでくれよ。』
ヌルの声が聞こえたかと思うと、白銀の獅子が地面に向かって片足を振り下ろした。
地面に亀裂が入り、空間を地震のように揺さぶる。
それによって衝撃波が発生し、全員の身体を貫こうとするとツヴァイが両手をかざした。
倒れているソフィを含めた仲間たちの前に、時空の盾が現れてその衝撃を防ごうとする。
さらにドライとフィーアが協力して衝撃波を軽減しようと動いた。
「フェンリル!氷のブレス!!」
「私も手伝うよ、おねえちゃん!」
ドライの召喚したフェンリルの攻撃を、フィーアが魔法で援護する。
空中でぶつかり合ったことにより氷が砕けて辺りに散ったが、それによって少なからず衝撃波の威力がそがれる。
「ありがとう、フィーア、ドライ!」
ツヴァイは2人に礼を述べると、残りの衝撃を時空の盾で全て弾き飛ばした。
「僕が皆を守る!!」
「蒼ちゃんカッコイイ・・・!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」
ぽーっとなっているフィーアに突っ込みを入れてから、ドライはアインに叫ぶ。
「アイン!あいつがまた何かしようとしてるから止めなさい!!」
ヌルの周りに異常な量の魔力が集まっている。
ドライの声に応えたアインが刀に黄金のオーラを纏わせ振り下ろすと、ヌルの放った衝撃波とアインの刀から放たれた金色の光がぶつかり合った。
一瞬アインの方が押されたかのように見えたが、それはヌルの攻撃を巻き込み自身を傷つける。
「その程度の攻撃、ツヴァイの手を煩わせるまでもない!!」
「アイン・・・かっこいい。」
先ほどフィーアに突っ込みを入れたのも忘れて、今度はドライがぽーっとなっていた。
「ありがとう兄さん!フィーア、少しだけ待っていて?」
「うん!ソフィを助けてあげて。」
アインが攻撃を跳ね返した隙に、ツヴァイがソフィに駆け寄ろうとした。
しかし・・・
『甘いな、ツヴァイ。』
ヌルの声が聞こえたと同時に、幾本もの触手が一斉にツヴァイに襲いかかろうとする。
その攻撃に対してアハトがグレネードを放った。
「ヌル、おまえこそ甘いな。」
それは爆発すると、先ほどと同じような白い煙を充満させる。
『また不発か?笑わせてくれる。』
「不発だと?俺が愛するグレネードで、そんなくだらないミスをするわけがないじゃないか。」
アハトが余裕の笑みを浮かべ、ヌルが訝しげな表情をしたのは同時だった。
『な、なんだと・・・!?』
ツヴァイの身体を貫くはずだった触手たちが一斉に痙攣し、まるで植物が枯れるように朽ちて行く。
「アナフィラキシーショックって知ってるか?
2回目以降に同じ毒を喰らった時に起きるショック症状ってやつだ。
いやあ、思った以上に効果があるもんだな。
おかげで俺の作った毒が思う存分、おまえの体組織を破壊できるってもんだ。」
『く・・・』
「さあ、ツヴァイ!!ソフィを助けてやってくれ。」
「助かったよアハト!」
ソフィの元に駆け寄ったツヴァイは、すかさず彼女が傷を負う前に時間を巻き戻す。
「ソフィ、起きるんだ!!」
「ツヴァイ・・・ごめん、ちょっと気を失っていたみたいね。いきなりひどい目にあったわ。」
意識を失っていたソフィはすぐに目を覚まし立ち上がる。
「大丈夫かソフィ!」
「ええ、何とか。」
心配するアハトにソフィは笑顔で応えてみせると、すぐに回復魔法を唱え始めた。
「皆ボロボロじゃない、すぐに回復魔法をかけるから!」
優しく吹き抜ける風が皆の傷を少しずつ癒していく。
それを見届けてから、ツヴァイは今度はアインの元に走った。
「兄さん、さっきはありがとう。」
アインにかけよると、身体にある一番深い傷に向かって手をかざす。
見る間に傷がふさがっていくのを見て、アインが不思議そうに尋ねた。
「ツヴァイ、回復魔法なんて使えたのかい?」
今まで攻撃を防ぐ力は何度も見たことがあったが。
「うん、時間を戻す力の応用だね。」
「な・・・!?そんなことをしたらツヴァイの身体が!!」
アインは慌ててやめさせようとするが、ツヴァイが笑顔でそれを制した。
「兄さん、僕は力の出し惜しみで家族を失いたくない。
今回は僕の身体のことは、出来るだけ考えないで戦ってほしい。
全力を出さずに倒れるよりは、出来ること全てをやりきって倒れた方が僕も本望だ。」
笑顔の奥にある真剣な表情に気付いたアインは、黙って頷く。
そして、傷がある程度塞がると立ちあがってこう言った。
「ツヴァイ、お互い全力を尽くそう。
ただし、家族全員で帰るんだからツヴァイも倒れちゃだめだよ。」
「もちろんさ、兄さん。」
互いに誓いあうとアインはドライの元に、ツヴァイはフィーアの元に駆け寄る。
「フィーア、大丈夫?・・・こほっ!こほ・・・!」
「蒼ちゃん!」
咳き込むツヴァイの背をフィーアが撫でようとすると、彼は首を横に振った。
「大丈夫だよ、紅音。」
「でも・・・」
「たまには、格好いいところも見せたいんだ。」
困ったように微笑むツヴァイに、フィーアは笑顔で答える。
「大丈夫、蒼ちゃんはいつもかっこいいよ!」
「そうか、ありがとう。」
2人が微笑みあったのと同時にソフィの声が響いた。
「ブレス!!皆避けてっ!」
獣の雄たけびと共にヌルが口を大きく開いていた。
その口に光が集まりつつある。
だが、それが放たれるよりも早く、アハトが華麗なフォームでグレネードを投げつけた。
「ソフィを傷つけてくれた礼だ。」
それはヌルの目の前で爆発し、爆風によって放たれたブレスが上にそれる。
光のブレスは天井を斜めに焼き切ってから収まるが、さらにヌルは目の前にいるアハトに向かって喰らいつこうとした。
「くるっぽー!!」
すると、どこからか鳩の声が聞こえてくる。
「口を開けた瞬間が一番の弱点なのさ!!」
突如現れたズィーベンが、ヌルに向かってビームを放った。
『く・・・っ!いったいどこから・・・!?』
ズィーベンのビームは、アハトに食らいつこうとしたヌルの口内に見事に命中する。
「俺は自由を愛する男だぜ?
どんな場所だろうと、俺の出入りを拒むことなどできないのさ!」
『小細工ばかりが通じると思うなよ!!』
ヌルが吠えると辺りの壁や床から触手が生え出し、鋭い刃を形成して全員に襲いかかる。
半数はノインが超過駆動を駆使しながら消滅させるが、残りが他のメンバーの身体を斬り裂こうと刃を向けてきた。
それを見たツヴァイが時空の障壁を張ろうとすると、フィーアがそれを止める。
「大丈夫、蒼ちゃん、私のことを信じて。」
その言葉を疑う理由などあるはずもない。
ツヴァイが頷き、フィーアは前に出ると呪文を唱えて両手をかざす。
全員の足元に現れた紋章陣の周りに、氷の結晶でできた結界が張られた。
皆を守るように現れたそれに触れた触手たちは、次々に凍りつき砕け散っていく。
『・・・やるようになったじゃないか。』
「家族を助けるためなら、私はもう逃げないから。」
大きな咆哮を上げ触手を呼び寄せた白銀の獣はこちらを攻撃すべく態勢を整えたが、フィーアにはほんの一瞬、彼が笑ったように思えた。