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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第5話 第8章『白銀の獅子』 ①

今日は台風一過でいいお天気ですね~(`・ω・´)

 アインの刀がヌルの身体に振り下ろされようとした瞬間、その手が止まった。

 光が戻った瞳でヌルの姿を確認すると、アインは刀を引いて後ろに下がる。

 それを黙って見ていたヌルは、自身の血だまりの中に立っていた。

 そして、目の前で起こった不可解な現象を目にして楽しそうに笑う。


「驚いたな、俺の能力を喰らって帰ってくるとはいったいどんなからくりだ?」


 ヌルにとって、それは信じられないと同時に面白い出来事だったのだろう。

 辺りをまばゆい光が包んだかと思うと、消したはずの彼らがいつの間にかそこに立っていた。


「なに、アインの想いの力だ。」


 アハトがマントを翻して答えると、ヌルは笑みを浮かべて満足そうに頷く。


「そうか。ならおまえたちの想いの力というやつを俺に見せてくれ。

 もしこの戦いに敗れるようなら、今度こそおまえたちは俺の中で家族になってもらう。」


 なぜなら、ヌルにとっては戻ってきたならばまた消せばいいだけの話であり、消す前に彼らともう一度楽しいゲームをすることは悪い条件でなかったからだ。

 血だまりにヌルの身体が沈んでいったかと思うと、辺りの空間が揺れた。

 ヌルの消えた場所から白い紋章陣が広がり、その中心に巨大な何かの姿が現れる。


 まばゆい光に包まれていたそれが咆哮をあげた。

 そこには見上げるほどに巨大な紅い瞳の獅子の姿がある。

 白銀の毛皮に包まれた獅子の背には鳥のような翼が一対生えており、尾は竜のように長い。

 光の爪は獲物をえぐるための形をしており、四肢からは角のように鋭い触手が何本も生えていた。


「アルバートおじさん!クリスタルの光が・・・!?」


 ノインがアインに託したクリスタルは、獅子の身体に向かって光を放っている。


「なるほど・・・紅牙を助けるためには、あれを倒す以外に方法はないということか。」


「ならば簡単な話だ。あいつを倒して紅牙を迎えに行くぞ。」


 ノインが両手を振ると、光が現れて剣を形作る。

 それと同時に、アハトもマントの中からいつもとは違うグレネードを取り出した。


「なんなのそのグレネード、いつもと違うみたいだけど・・・」


「なあに、じいさんと協力して作った特別品だ。効果はそのうち分かる。」


「なるほど、それはあんまり穏やかな物じゃなさそうね。」


 にやり、と笑ったアハトの隣にソフィは苦笑しながら並んだ。


「みんな!紅牙兄さんを助けるんだ!」


「もちろんよ、私が力を貸してあげるから今度こそ頑張りなさいアイン!」


 ドライがいつもの定位置であるアインの左肩に乗って、白銀の獅子を指さす。


「あんなのさっさと倒して、紅牙お兄ちゃんを迎えに行くわよ!!」


 その近くでは、ようやく傷の出血が止まったツヴァイがフィーアに笑いかけていた。


「紅音、何があろうとも君は僕が守る。」


「うん、私も蒼ちゃんを守るよ。」


「さっきみたいな無茶はしちゃだめだよ?」


 先ほどヌルの攻撃からツヴァイを庇うために、飛び出した時のことを言っているのだろう。

 それに対してフィーアはいたずらっぽく笑ったかと思うと、こう答えた。


「無茶するよ、だって私は蒼ちゃんのものだから。」


 その言葉にツヴァイは一瞬だけ驚くが、すぐにもっといたずらっぽい表情でこう返した。


「そうか、ならこれからは僕が紅音を好きにしていいってことだね。

 じゃあ、この戦いの後のためにも絶対に守らないと。」


「あう!」


 おろおろとするフィーアを愛しげに眺めてから、ツヴァイは賢者の石の能力で仲間を守るために時空の盾を創り出した。

 目には見えないが空間に微かに波紋を残しているそれをツヴァイは自身の前に構える。

 その隣で、フィーアも魔法詠唱を始めた。

 獅子が踏み出すと、辺りの壁や床から赤黒い触手が現れてこちらを捕えようと蠢き始める。


「こっちは私に任せておまえたちはヌルと戦え!!」


 ノインの姿が消えたかと思うと、次の瞬間には別の場所に現れて光の剣で触手を斬り伏せた。


「アルバート、そっちは頼んだぞ!!」


 動きだしたヌルが、アハトが消える際に落としていたグレネードを前足で踏みつける。

 しかし、それはいつものように爆発せずに白い煙がヌルの足元で発生しただけだった。

 ヌルは訝しげにその煙を前足の一振りで振り払う。

 振り払われたグレネードの煙は辺りの触手たちにもかかるが特に変化はない。


「おっと、踏まれてしまったようだ。」


 それを見たアハトがにやり、と笑うがソフィにはそれに何らかの意味があることを察して何も言わずにいる。

 そんな中、フィーアが精神干渉で獅子の能力を調べようとしていた。

 しかし、ほんの少しその指先が震えていることにツヴァイが気づかないはずもない。


「フィーア、僕が一緒にいるから頑張ろう?」


 後ろから支えるようにそっと肩に手を置くと、耳元で優しく囁く。

 それに勇気づけられたフィーアは、頷いてヌルのいる方に手をかざす。


「蒼ちゃんがいてくれるなら、私は大丈夫。」


 いつかのように、ヌルの絶望に呑み込まれないように。

 ヌルの精神に踏み込んだフィーアは、その能力の一部を読み取ると同時に紅牙に話しかける。


『紅牙おにいちゃん!もうすぐ助けに行くから!!』


 その声が届いたかどうかは分からない。

 だが、獅子の動きが一瞬止まったように見えた。

 その隙に、ソフィが全員が素早く動けるように風の魔法をかけた。


「行くわよアイン!」


「おう!」


 ドライの掛け声と共にアインが斬りかかろうとすると、ヌルから生えている触手が攻撃を阻害しようとした。 

 それを見たソフィが、フィーアに向かって叫ぶ。


「フィーア!援護するから触手たちを凍りつかせて!!」


「うん!」


 フィーアが足元に紋章陣を形成しようとすると、それに気付いた触手たちが一斉に攻撃を仕掛けようとする。


「あう・・・っ!」


「させないわ!!」


「紅音は僕が守る!!」


 その攻撃に対してソフィが風の防壁を張り、さらにツヴァイが時空の盾を使ってフィーアを守った。


「ソフィ、蒼ちゃん、ありがとう!」


 触手が何度も襲いかかるが、フィーアは2人を信じて静かに目をつぶる。

 向こうでは触手に邪魔されながらも、アインとドライがヌルと戦おうとしていた。

 あれを止めなければ、2人の攻撃はヌルに届かない。

 長い呪文をようやく唱え終えたフィーアが魔法を展開した。

 それはヌルの足元まで広がり、空中に現れた氷の刃が一斉に降り注ぐ。

 触手が庇ったためにヌルは傷つけられなかったが、代わりに触手たちは凍りつきアインたちの攻撃を阻むものはなくなった。


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